平日だけ、一日一本ショートショートを書くという
自分ノルマが結構な重荷でかなりの時間をとるせいで
やりたいことがちっとも進みません。
もうネタもどこかの木を切りすぎた山の水源のように
枯れている状態です。
昔は、あるネタを文にする練習。
今は、目に付いたものをなんとかネタにする練習のようで
なにかの修行のように思えてきます。
今日書いたのはこんなのです。
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1634 夏未完
靴の底から足の裏を焼く白い道。
先導するように先を行く黒いかたまり。
歩いているのは自分なのか影なのかわからないまま、
おれはただ道を進んでいた。
……と。
「どうした、男の子! 顔を上げなよ」
石垣の上、垣根のさらに上から聞こえてきたのは跳ねるような明るい声。
顔をあげるけれど、その先にあるはずの姿は光に紛れて見えない。
「あ~、おまえか、女の子。……ほっといてくれ。
おれの夏はもう終わったんだ」
上のほうに向かって言うと、
「え? あ、もしかして今日だったの、投擲の試合?
教えてくれたら応援に行ったのに」
返って来るのは悪意も慰めもない、乾いた風のような涼しげな音色。
「いいよ。来たってどうせ負けてたんだ」
惨めな気持ちを吐き捨てるけれど、あいつは言った。
「『負けてた』から来ないほうがよかった?
『勝ち進めなかった』から夏が終わった?
ぜんぶ完了で話しちゃうんだね」
「おまえになにがわかるんだよ! おれは負けた!
この大会のためにこれだけやってきた、
練習したことがみんな無駄になったんだよ! そうだろ!」
「そかな?」
噛み付こうとするおれに、風鈴のように笑って。
「あたしは、無駄になったなんて思わないけどね。
……だってそうでしょ? たった一回の試合で負けたからって、それがなに?
願いが実らなかったからって、だからなに?
みかんの木は育って実をつけるけど、実らないうちに全部落ちることもある。
でもね、実をつけないならその分を体に回してその年の間にも育ってくし、
それがまた来年実をつけるための力にだってなるんだよ。
実をつけるために育つんじゃない。育ったから実がつくんだと、
あたしは思う」
そして、一息、
「でも、そんなことより!」
いちだんと弾むような声に合わせて、見上げる光がすこし、揺れた。
「足元の影ばっかり見てないで、顔を上げてみなよ!
この青い空、白い雲! まぶしい太陽に肌も焼ける暑さ!
土のにおいにせみの声。今年の夏だってまだまだこれからだよ」
痛みに開けていられない目の奥に、
それでも空を仰いで、泳ぐように手を広げるあいつの姿が
見えるようだった。
「そだ。替りにあたしがこれ、あげる。手、前に出して」
軽やかなはさみの音。
「ま、待て。なんか落とすつもりなのか?
おれ、まぶしくてそっちなんか全然見えないんだぞ」
「だいじょうぶだよ。手のとこに落とすから。
ほら、行くよ? 動かさないでよ」
構える手の中に落ちてきたのは、
両手で包んでもはみ出すくらいの大きな黄色い玉だった。
「なんだこれ?」
「夏みかん。今とってるの」
そういえばこの石垣の垣根の向こうには、
そんな木があったっけな。
「食えるのか?」
「ん~、食べられないこともないと思うけど。
すっごくすっぱくて渋いよ。
それより外側洗っておふろにでも浮かべてみてよ」
「この暑いのに、風呂?」
「逆にさっぱりするかもよ。
暑い昼間の熱いおふろってのも意外とおつなもんなんだから」
「そういうもんかねえ」
手の中にあるそれは、まぶしいほどの黄色。
「ほんと、すごくいいにおいするんだよ。
あたしの夏はこのにおい。そのままだって、ほら!」
促されるように鼻を近づけると、
薄いけれどすがすがしくてさわやかな――
あいつとすれ違ったときの、においがした。
「どう? いいにおいでしょ」
「あ、ああ」
手のひらにはじっとりと汗。
手の中には小さな太陽のような夏みかん。
手と胸から伝わってくる熱は、夏の暑さで。
おれの夏もまだまだこれからだ――なぜだかそんな風に、思ったんだ。
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……わたしに理解できる恋愛感情なんてこれくらいです。
なぜ自分のものになりきらないものを
自分のそばにおいておきたがるのか。
愛なんて理解できません。
それはさておき。
いつぞや、殺された女の子が描いていたという漫画が
ネットに出ていると友達から聞いて、見てみました。
――正直、拷問だと思いました。
殺したほうはつかまっても名前が出ないこともあるのに、
殺されたほうは未成年でも容赦なく名前が出ます。
その上に、だれに見せる予定でもない漫画なんて
晒された日には……むしろ死にたくなるんじゃないでしょうか。
わたしもこうしてショートショートもどきを
web上に晒したりしているわけですが。
ネタとしたネタがおもしろくないのは、それはそれです。
でも本気が滑るのはとても恥ずかしいです。
こんなの自虐趣味と紙一重のあやうさです。
ショートショートならまだ晒されてもいいですが、
ブログとは別枠で書いている日記のほうを晒されるとか、
かつて描いた下描き漫画とかを晒されるとかは……
正直死んでも死にきれません。
あれは死者に鞭打つ行為だと思うのですが、
晒すほうは何にも思わないのでしょうか。
そんなことを友達と話していたら、
おちおち素では死ねないという話になりました。
まずはちゃんといろんなものを焼いて、
死んだらパソコンは他人に触らせずに
友達に破壊してもらうとか、
そういう約束をしないと、死んでもいられません。
恐ろしい時代になったものです。