侮辱と犬と人

たまにペットの面白動画的なものを見ますが、
中にはまったくおもしろくもないものがあります。

そのひとつが、死んだふりです。
飼い主が死んだふりをして、ペットがどう反応するかを見る
というようなものです。

その動画を見て笑ってる人が大勢いるようですが……
見ていてすごく悲しく、腹立たしくなります。

たとえば道を歩いていて、あるいは家に帰ったら、
誰かが倒れて死んだように見えて。
ぞっと血の気が引きながら、
どうしよう、どうすればいいかとあわあわして。
そんな苦しくて恐ろしい時間の後で、倒れている人間が起き上がり、
「実は死んだふりでしたー！　お前のあわてる姿おもしろかったよ！
ほら、動画もとってたんだ！　世界に流してみんなの笑いものにしようぜ！」
なんて言ってきて、笑えます？

わたしは笑えませんが、強い立場の人は、
こういうので笑えるんでしょうねえ。
それがまた腹立たしいです。

お笑いだのなんだのでも、相手を馬鹿にするとか、
相手に一方的に迷惑をかけるとか、
相手を虐げるとかするのをお笑いだとか言って
やられたほうがただ一方的に惨めになるものを
笑いにしようとするのがすごくいやです。


見ていて嫌な別のひとつは、存在の無視です。

飼い主がペットを呼んで、ペットが反応するのですが
それを無視するさまを楽しむような。

他人の存在を無視するって、単に精神的暴力であって、
そんなもの笑えるどころか、笑いにしてはいけないものでしょう。

こんなことやって動画にとってネットにアップなどしている人って、
たとえば自分が会社に行って、
「今日は○○くんはいないのかね。おい、○○くんどこだ。
いないのか。存在感がないからいても気づかないよな。
仕事中にいないんだったら金の無駄だし
退勤のタイムカードでもおしておくか」
なんて目の前でやられて、笑っていられるのでしょうか。
存在を無視する、存在を否定するってそういうことでしょう？

そして、目の前でそれをやられて愕然とするところを
誰かが動画に取っていて、終わった後で見せるのです。
「見ろよ、このときの行動！
気づかないふりされただけでこんな顔してんの！
笑える！　みんなも見てみろよ！」
とか言いながら。

これが本当に笑えるのでしょうか。
世の人はこんなものを見て笑っているのでしょうか。
撮影する人は、それがおもしろいと本気で思って撮っているのでしょうか。

他者に不安と迷惑を押し付ける行為や、
他者の存在を無視して否定する行為なんて、
相手が人でもペットでも、やってはいけないことでしょう。
それを笑いにできる神経を疑いますし、
こんなのおもしろいと思える人を本当に軽蔑します。

やられたほうはちょっと驚いて、最終的に笑えて
みんな幸せになるようなのがわたしは好きです。