第3話 「【ハジメ】から【アルバ】への一歩」
「…会社のとって急な話だが、アルバ ハジメ君は別の場所に転勤になる。左遷じゃないからね。そこは安心してくれ。じゃあアルバ君一言」
カトラの左遷の言葉に、社内で少しクスッと笑いが起こった。
カトラの振りにアルバ ハジメは事前に準備した言葉を、棒読みにならないように伝える。
「何も分からない状態から、お世話になりました。急な転勤ですが新天地でも頑張ります。今まで本当にありがとうございました」
お辞儀をして朝礼だったが、その話からその日の仕事の話になる。
コバ アキラが近づいてきて「急な話だが頑張るんだぞ」と肩を叩く。
19歳になるコバ アキラは会社の先輩だったが、明るく送り出してくれた。
そこへ、これも決まっていたことだったが、カトラが去り際のアルバ ハジメにみんなの前で伝える。
「ああ、アルバ君、あとで部屋に来てくれ。書類とかがある」
コバ アキラがそっと「…変な扱いを受けたら戻ってこいよ」と耳元で笑いつつ伝える。
アルバ ハジメも笑いながら頷きつつ、カトラに対して「分かりました」と大声で言ってお礼をしてから去った。
本当にカトラの部屋に来て「それで訓練って何でしょうか?どこで何をすれば?」
そこまで話すとカトラは、真剣な顔で狭い部屋の中で机に座ってアルバ ハジメに伝える。
「敬語をあえて使う必要は今日からない。仲間と思ってくれ。それに君は今日から【アルバ】だ。【ハジメ】の名を出すなよ。俺もカトラでいい。まずは透明になるときと元に戻るタイミングを掴むことだ。それには研究所を使うといい。場所は近い」
カトラは確か30歳のはず、敬語を使わないのに抵抗があったが社内の決まりならと思った。
続けてカトラが話す。
「アルバ、連絡用はこれだ」と耳につけるタイプの通信機を渡された。
「研究所ではとにかく集中してくれ。早く取り戻さないとならない」カトラが言う。
「俺はアルバ、指示は頼みます。とにかく研究所に向かうんで…よろしくカトラ」
と、頭を抱えつつ「こんな感じでいいのかな」とアルバはカトラに聞く。
地図を渡され「それでいい、ここから少し離れた場所で仲間が待っている」カトラは微笑んで答えた。
通信機をつけてアルバが会社を後に急ぐ。
「聞こえるかい?返事をすれば聞こえるタイプだ」
びっくりしたがアルバはカトラに聞こえている旨を伝えた。
研究所が見えてきた。
似たくらいか少し大人っぽい女の子が無表情で立って、手招きをしている。
「君…」アルバの言葉を遮るように「とにかくこっち」とだけ言う。
すると目の前に上司のトウジキが研究者の格好で、少し年上っぽい男の人といた。
カトラから「トウジキさんはトップの人間だ」アルバがお辞儀をする。
カトラが「俺が行くまでトウジキさんや、仲間たちとも挨拶でもしていてくれ」
なぜか女の子とも男の人とも初めてなのに、違和感がなかった。
そしてトウジキが話し出す。
「ようこそ、アルバ」微笑んでいるが、確かコバ アキラの話だと38歳と聞いている。
どこか落ち着いているが、アルバの研究所の生活が始まるときだった。