序章 「アルバ ハジメ」
「コロニー」周りはそう呼んでいたが、生まれてからそこにいる「アルバ ハジメ」には実感がなかった。
中学を卒業し、15歳で社会に出たものの3月生まれのアルバ ハジメの周りは16歳軍団。
会社に通うのが当たり前だったが、不思議に感じていた部屋もあった。
研究者が入るのを2度ほど見たことがあったが、青白い顔で出てきて無言。
ハジメにとって「実験部屋」と勝手に呼んでいたが、実態は誰もが口にしない。
さほど知り合いがいない会社の中でも、唯一話し相手の「コバ アキラ」とすらその部屋の話はしたことがない。
コバ アキラは話し相手であって先輩にあたる。
何か知っているかもしれないと休憩中にさりげなくゲームの話から、部屋の話をしてみた。
アキラも謎の部屋のことは知らないようだったが、知っている人物の話をしてくれた。
またゲームの話に戻り、ハジメも気にすることはないと感じ始めていた。
仕事が落ち着いてきた頃、掃除の段階で「実験部屋」から1人青白い顔で出てきた。
「ちょっといいですか?」話しかけてみるが返答がない。
「ちょっといいですかぁ?」大きな声で再び話しかけると、振り向きざまにその男性は一言「知らない方がいいこともある…から」とだけ言って去っていく。
ここは見なかったことにしておこう、と掃除を続けると先輩の話していた上司が現れた。
「気になるかい?」と、微笑みながら話しかけてきたが、奇妙なので「何のことですか?」とこの場はとぼける。
上司は「実はね、この部屋も陰気で掃除して欲しいんだよ」と、ギョッとすることを言ってきた。
「あ、はい分かりました」部屋に入ると暗くて確かに陰気くさい。
カーテンも締め切りで機械が並び、電気らしいものもない。
「どうやって掃除を…」その瞬間ドアが閉まった。
「え、ちょっと…」そのとき、電気が走るように身体中が痛いというより熱く感じる。
「おい!アルバ!大丈夫か!?」コバ アキラが話しかけるが医務室だった。
「廊下で倒れていて驚いたけどさ、何であんなところに…」ハジメがアキラの言葉でホッとしているとめまいがして、次には「アルバ!どこに行った?おい!」目の前にいるのに驚いている。
目の前に鏡のある医務室だったが、自分の姿はなくアキラの探し回る姿だけがある。
「いや…ここですよ…」ハジメが言うが聞こえていないようだった。
頭痛がした瞬間、鏡に姿が映った。
アキラが「はぁ?どこにいたんだよ!透明人間じゃあるまい!?」
ハジメは死に際でも体験したのかと思っていたが、アキラの言葉を思い出す。
「廊下にいた…」と言っていたが、確かにあの実験部屋にいたんだ、と。
やっぱり実験されたのか?透明になったり現れたりするのか?頭がグルグルする。
アキラが「まあ、何事もなく良かった…って言っていいか分からんが…」とまだ不思議そうだったがその場は納得する。
「あ、俺掃除の途中で…」ハジメが話し出すと、アキラは「廊下の掃除は終わったよ、問題ないから帰ろう」と言う。
「部屋の掃除の途中で…」ハジメが伝えると、アキラは何のことか分からないように「部屋?お前廊下の掃除の途中だったんだぜ?俺と一緒だったじゃん」と話す。
じゃあ、と思って上司のトウジキの名を出して、部屋の掃除のことを伝える。
「頭でも打ったか?大丈夫か?トウジキさんなら今日休みだぜ?」
この場は帰ろう、頭がごちゃごちゃだと感じて2人で帰る。
方向が違うがアキラが心配して家まで行こうか、と聞くが丁寧に断った。
帰りの途中でめまいがした。
鏡の並ぶ場所だったが姿がない。
なるほど、何となく分かったことがあった。
めまいで姿が消えて、頭痛で元に戻る。
面倒だが犯罪に使うほどバカじゃない。
アルバ ハジメは、何かに利用されていることだけは理解した。