27話 「意外な宝物」
敵わないかもしれない…。
守里の脳裏に思わず浮かんでしまった言葉だった。
同時に思った。
ここで怯んだらダメだ!立ち向かわないと!
黒い機体は何をするわけでもなく、ジッと宙に浮いていた。
闇雲に目の前の黒い機体めがけて刀を振ると、なぜか青く光ってくれない。
「ロロナー!トキノさん!何でー!!」
必死になって無線で叫ぶ守里。
「逃げてー!今は無理だわ!」トキノは無線ごしに叫ぶ。
「何で…」問いかけようとすると、無言のまま去っていく。
「何でだよ!どうして無理なんだよ!」悔しげに叫んでいるとトキノが冷静に言った。
「守里君は仲間を守りたいのよね?ここは日本の空中で下には果てしない数の人間がいるのよ!!しっかりしなさい!!」
冷静さを欠いていたことにハッとして下を見ると、見上げている人たちがたくさんいた。
ベラーナは悔しさを隠さず言った。
「あいつにとっては余裕なんだろうな、あのでっけーのならな!」唇を編みしめるベラーナ。
「そもそも誰なのよ?」ララが震えながら話し出すと、トキノが言った。
「あんなの乗っているの、アベルト・ゼスタローネしかいないわ」唇を噛み締めている。
カンナは「多分よ、多分だけど、そうだとしたら…見逃したんじゃなくて理由があったのよ。用事があったとか何か分からないけど…」
しばらく沈黙があった。
麻生がため息をついて話し出した。
「一旦降りよう。志賀高原に知り合いがいる」と言い、流石に機体が目立つので従うことにして場所を探した。
「…そうか…この志賀高原にもたくさんの池があるんだった。湖じゃないが…」そのほとりには林があるうじゃろ。そこに隠そう」と麻生が言うとベラーナが陽気に「決まりだね」と言った。
ベラーナが気を遣って明るく言っていることを察した守里。
「ああ、ベラーナ!池に落ちるなよ?」と言い、ちょうどゲレンデになっている裏側の林に隠した。
「降りて見て思うけど…さむっ!」口々に言いながら雪のない部分を器用に歩いていると麻生が言った。
「流石に知り合いの家の前には置けないから仕方ないさ」と言いながら、先にゲンナ号は着いていて、ベラーナと守里は辺りを警戒してから着いて隠していた。
迷わないといいけど、とキョロキョロしているベラーナを見ているとくしゃみをしながら「ここってこんなに寒いわけ?」鼻をすすらせながら話すが守里も初めての土地の寒さに驚いていた。
途中でみんなが一緒になった。
「随分雪はかいてあったはずじゃが…機械を使ったからのう」外に出ていた見たところ70歳前後の男性が家から出てきて話すので、みんなが雪に中めがけて転んだ。
「はっはっは。麻生だろ?あんなでっかいのに乗ってうろうろしてれば分かる」と言い、家の中に入るよう促すがペンションのようになっていた。
「この人は小林さんじゃ、悪いが一時間ほど休ませてほしい」と頼むと喜んで小林は頷いていた。
「ここはロッジじゃよ。わしゃここの人間じゃなくよそ者で冬だけきとる」と話し出したが、ほとんどみんなは毛布にくるまって暖炉の近くで暖まっていた。
守里が「冬だけなんですね。スキーか何かで?」寒さをこらえようと聞いているとにっこり答えた。
「麻生の元エンジニア仲間の趣味かもしれんが…水がうまいんじゃ」カンナやララ、トキノは顔を見合わせ不思議そうにしていると、小林は水を持ってきた。
ごく普通に見えるものの、ベラーナが飲んで感動しなら「うまい!うますぎる!」と抱きついた。
守里ともぶつかりそうになると、缶バッチが落ちた。
拾おうとすると小林はジッと見て「爺さんのじゃ…なぜ君が?」
ベラーナ以外は初めて見る缶バッチを不思議そうに見ていた。
「何か特別なのかしら?」とリリアンも寒そうに暖炉の近くで答えると真剣な顔で小林は話し出した。
「爺さんの残した遺産の一部になる。君はどこで?」
プレゼントに貰った経緯を説明すると大きく笑いながら「おそらく運んでいる時落ちたんじゃな。兄弟は血眼になって探していたが…こんな形で見つかるとは…黙っておこう」と1人で笑っていた。
「君の名前は何だね?」守里剣と答えると「これは宝物なんだよ」小林は微笑んで言った。