無口な犬

無口な犬を飼っている。

もらいものなので実際には

何歳なのかよくわからない。

甥がいうには２０１０年に

我が家に来たそうだ。

当時、甥は小学生だったと思うが

クリアな頭脳の持ち主だ。

あたしは結構生きているが、

クリアになったことがない・・

どころか脳内に雲がかかっている

気がする。

それでも母よりましなので

あたしは安心している。

その母だが本当に忘れっぽくなった。

笑えないこともある。

昨日、出かけようとしていたら

杖がないと母がいう。

３日前にスーパーのキャリーに

立てたのを思い出した。

スーパーに電話をしたら

何本か届いているので見に来て

とのこと。

「（行くとき必要な杖が何故か

帰りには必要ないって）

お母さんだけじゃない。」と

慰めておく。

めでたくご対面した。

折り畳み式のおしゃれな杖だ。

買ってあげるべきかと覚悟したが

私にとっても良かった。

これからは出かけるたびに

母が杖を持ったか確認しなくては。

で、杖を取りに行くついでに

農協でお金を下ろすといったが

肝心なる財布を母が忘れた。

目的を果たせず。

ひとつ忘れては、

またひとつという具合だ。

ついでに書くと、

行事の配り物が数枚出て来た。

「１３日に配る」と母の字で

メモがしてある。

配った気がすると母はいうが

つい最近別の配りものを

手伝ったばかり。

それと混同しているかもしれない。

両隣へ確認を取りに行くと

不可解なことに右のお宅はまだで、

左のお宅ではもらったそうだ。

その行事に参加するとしたらMさんだ。

母は何かにつけて「ええ、ええ」という。

「ええ」とは広島弁で「No」の意味。

電話をするなという意味だ。

もしも配っていなかったら申し訳ない。

確認したら「もらった」

「行くつもりだ」と言われて安心した。

「何もかも忘れてしまって」

と暗に母のことを言ったが

「まだ若いから大丈夫～。」

じゃあねと電話を切られた。

ま、私の思い込みや思い違い、

物忘れもなかなかのレベルではある。

無口な犬から逸れた。

彼はボチボチ１４歳かもしれない。

名前を麻呂という。

白内障で耳が聞こえていないから

呼んでも反応しなくなって久しい。

玄関の段さが怖いのか廊下で

失禁することが増えた。

「あんた～啼かんの～」と母が

麻呂に向かって言う。

どうして泣かんのかの。

啼き方を忘れたんだろうかと

何十回も私に聞いてくる。

昨日、台風が接近していたが

広島県はほとんど雨風もなかった。

で、２年前の大雨を思い出した。

町内でも災害があったが

その日には情報もなく

我が家付近は強めの雨が降る

という程度だった。

退屈だったので山越えをして

安芸太田町のお風呂に行く

ことにした。

そう決めて立ち上がらると

麻呂がワンワン吠えた。

気にせず階上で準備をして

階段を下りたら階段の真下で

待っていてワンワンと

猛烈な勢いで私に向かって吠えた。

全身で激しく吠える様子は

「行くな」と言っているかのよう。

「麻呂が行くなっていうから

やめるわ」と家人に言ったのを覚えている。

それからひと月近く経ったある日、

安芸太田町へ用事があった。

道路が通行止めになっていた。

あの時の大雨で土砂災害が

あったと知る。

それは事実だ。

あの日出かけていたら、

もしかして巻き込まれたかもしれない。

「危ないところにお姉ちゃん←（私）

が行くってどうして分かったん？」

と、麻呂に聞いてみるが当然反応なし。

食べるときだけ起きていて

相変わらず眠ってばかりいる

彼なのだった。

犬は飼い主の病気を引き受ける

と言われている。

彼は心臓の薬を飲んでいる。

実は私の心臓は万全とは言い難い。

検診でひっかかり２４時間

機械をつけて生活したこともある。

「麻呂はね、お姉ちゃんの病気を

引き受けなくていいんよ。

麻呂が元気なのがお姉ちゃんの

し・あ・わ・せ。」

麻呂に向かってしゃべると

じーーーーっと私の目を見て

聞いている。

私のベストを尽くして彼の命と

ハートに奉仕するつもりだ。

母には自分でなんとかしてよ

と思うがそうも言っていられない。

母の健康的な人生も残り１０年以内だろう。

母は心臓が強いから私より長生きかも。

私のベストを奪わないでね～～。