BOOTHにて、富士そば同人誌「フジソバマニア」を出品しています。この記事では「フジソバマニア」を制作するに至った経緯をふりかえります。
富士そば同人誌 制作前夜②はこちら。
富士そば全店制覇の道のりは、とてもゆるやかなものでした。東京・神奈川・埼玉・千葉の約110軒を巡ることに気後れしましたが、とくに焦りはありませんでした。べつに競争相手がいるわけでもなし、タイムリミットがあるわけでもなし。駅チカを攻めれば1日に4、5軒まわれるので、いざとなったら追い込みをかければいいだけのこと。まるで、ブルーオーシャンを独り占めしている気分でした。
実際のところ、謎の優越感にも満たされていました。「自分だけが富士そばの魅力を知っている」「富士そばを食べ歩くヤツなんて自分だけだろう」と、愉悦に浸っていました。今にして思えば、とんだ勘違い野郎です。
▲いまはなき後楽園店 2014年5月
ゆがんだ自己愛を育みながらも、私は富士そば巡りを素直に楽しんでいました。いなたい雰囲気というか、すがれた雰囲気というか。あの独特の空気に次第に惹かれるようになっていったのです。サラリーマン、酔っ払い、学生風、ホストの同伴、職業不詳……と、その場にいる誰もが何ごとも期待していない感じ。華やかさとは無縁の世界に妙な親近感を覚えました。
▲六本木店 2015年5月撮影
一方で、受け入れられない部分もありました。それは富士そば、というより関東のそばの「味」です。沖縄出身の私にとって「そば」といえば「沖縄そば」。上京するまでの22年間、沖縄そば一筋で育ってきたため、いわゆる「日本そば」の味に慣れるまで時間がかかりました。
とくに醤油の効いた関東特有のつゆが強敵で。塩で味つけする沖縄そばのつゆと比べて、あまりにも刺激が強すぎます。老舗といわず、立ち食いといわず、どこで食べてもしょっぺえ、しょっぺえ。ただの固定観念に縛られているだけなのですが、富士そば巡りをするまで、そば自体を疎んじていた節もあります。
しかし、慣れとは恐ろしいもので、今では週4で富士そばに通うまでに。そう、人はいくつになっても変われるのです。
制作前夜④に続く
珍そばの記録はこちら▼
富士そば原理主義|深淵なる珍そば・奇そばの世界