
BOOTHにて、富士そば同人誌「フジソバマニア」を出品しています。この記事では「フジソバマニア」を制作するに至った経緯をふりかえります。
いまから11、12年前、私は神保町の編集プロダクションに在籍していました。出版社や広告代理店などの制作を請け負っている、昔ながらの編プロです。私はそこでライター兼編集者として活動していました。
この編プロは自社出版も手がけているため、月に一度、書籍の企画会議を開いていました。社員が持ち寄ったアイデアを吟味して、売り上げが見込めそうなら書籍化の道が拓かれます。しかし、企画はそう簡単に通るものではありません。年に2、3冊程度の出版ペースだったので、当然といえば当然です。私の企画もご多分に漏れず、不発続き。在籍していた3年の間、手ごたえのあったためしがありませんでした。
いろいろな企画を考えましたが、とりわけ印象に残っているのが「名代 富士そば クロニクル」です。イメージしたのは『謎のブラックサンダー』(PHP研究所)のような、富士そばのファンブックです。当時の世間的なイメージからすると、富士そばはよくあるチェーン店のひとつくらいにしか考えられていなかったように思います。
かくいう私も企画を考えた時点では、富士そばをよく知りませんでした。知らないどころか、まともに食べたことすらありませんでした。そんな私がなぜ、富士そばファンブックの書籍化を思い立ったのか。きっかけとなったのは、東海林さだお氏の『偉いぞ! 立ち食いそば』(文春文庫)との出会いです。
立ち食いそばをテーマにしたエッセイ集で、このなかで著者は前人未到の「富士そば 全メニュー制覇」にチャレンジします。そこから、富士そば創業者・丹道夫氏と著者の対談も実現。複数の子会社で店舗を運営している、変わった店舗限定メニューがある、創業者が作詞活動している……など、富士そばの知られざる一面が次々と明らかにされていきます。「これは掘り下げがいがありそうだ」。そう思った私は、エッセイのなかの情報をまとめ、そっくり企画書に落としこみました。
今にして思えばかなり短絡的です。それを見透かしてのことでしょう、同僚のひとりが企画書を読んでこう言い放ちました。「これ、だれが書くの?」。そう、専門書には識者が付きもの。富士そばに造詣の深い人が制作に関わらないと、ファンブックとして「弱い」と指摘しているのです。たしかに、富士そばに特化したライターやマニアなんて聞いたことがない。これには反論の余地もありません。
さらに、もうひとりの同僚が追撃します。「これ、だれが読むの?」。核心を突かれたような気がしました。できるだけ考えないようにしていましたが(それがもうダメ)、果たして富士そばのファンブックに需要があるのか。そもそもファンなんて存在するのか。もはや、ぐうの音も出ません。動揺しすぎたあまり「ほんと、だれが読むんですかね?」と訊き返しそうになったほどです。
結局、富士そばファンブックの企画は惨敗。私は富士そばのことを記憶の隅に追いやり、それからしばらく思い出すことはありませんでした。
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富士そば原理主義|深淵なる珍そば・奇そばの世界
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