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世界はやがてジャパネスクの時代を迎える(非公式)

安倍総理も知らない、シリア問題の真相(上) ~またもやインテリジェンス能力のなさを露呈した日本~

2014-02-23 | 米欧・枠組み・金融資本主義
原田 武夫:原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)代表取締役
2013年9月26日

安倍首相はインテリジェンス強化を訴えるが……(日本雑誌協会代表撮影)

「大の大人が大騒ぎをして、結局は何も起きない。結局、米国のオバマ大統領は何がしたかったんだ?」

この晩夏に世界で起きた一番の出来事といえば、何といってもシリアにおける「化学兵器問題」であった。かねてより「アサド政権側が化学兵器を使用し、無垢な市民を殺害している」と“リーク”されてきたが、「8月21日に1400名以上が大量虐殺された」と西側大手メディアが一斉に報道したことで事態は急変。ついにはオバマ大統領が8月31日に演説を行い、「軍事介入を決意した」と国民、そして全世界に対して宣言するまでに至った。

シリア早期開戦がない、と判断できた理由

だが、私は実は8月22日夕(日本時間)の段階から「早期開戦はない」と判断し、その旨の分析を提示していた。なぜそのように判断できたのかといえば、理由は簡単だ。実はこの日の夕方、大量の「ドル買い」を米欧の越境する投資主体たちがマーケットで入れ始めたからである。しかも期間は3カ月から6カ月にわたる長期のものであった。

ここでまず読者の「思考の枠組み」を整えておかなければならない。わが国では俗に「有事のドル」という。つまり国際社会で軍事紛争ともなれば、これを収められるのは米国であり、超大国である米国は必ず勝つので「米ドルは上がる、だから買っておくべき」というのだ。

しかしこのアノマリーは、2001年9月11日に発生した「同時多発テロ事件」以降、もはや当てはまらないということをマーケットの猛者たちは知っている。つまり米国が戦争、特にイスラム世界との間で紛争に巻き込まれると国内でイスラム・テロが発生してしまう危険性が生まれたのである。そしてこの時、米ドルは「上がる」どころか「崩落」する。簡単にいえば、今や「有事のドル売り」が正しい選択肢だというわけなのである。

そしてこのことを今年(2013年)8月22日の夕方に起きた米欧の越境する投資主体たちの行動に当てはめると、こう考えることができる:

 

●「8月21日に『化学兵器』で市民が大量虐殺された」と伝えられたにもかかわらず、米欧の越境する投資主体たちは大量かつ比較的長期の「ドル買い」を入れた

●「有事のドル売り」であるなら、仮にオバマ政権がシリアに開戦するならば本来、彼らは「大量かつ長期のドル売り」をしていたはずである。しかしそうはならなかった

●なぜならば米欧の越境する投資主体たちは結果として今回、米国が開戦には踏み切らないと判断していたからである

●事実、なぜかその後、米国は「軍事介入」をせず、現在に至っており、「ドル買い」は少なくとも短期的には正しい選択であったことが明らかとなった

 

このように事実が展開したことは「単なる偶然」と思ってしまってはならない。なぜならば、米欧の越境する投資主体たちの社内には、わが国の機関投資家たちにおいてとは異なり、それぞれの国のインテリジェンス機関のオフィサー(職員)たちが席を持っているからである。彼らは国家として収集したインテリジェンス情報を越境する投資主体に対して提供するのを職務にしている。その結果、越境する投資主体のファンド・マネジャーたちは「これから政府が本当のところ何をするのか」を知りながら投資を行っているというわけなのだ。

今回の場合も、判明した事実をつなげていくと、正にそうした「マーケットを動かす本当の仕組み」が露呈した典型的な例であったと言うことが出来る。なぜならば、8月31日のオバマ「開戦」演説の前後において、イスラエル系の情報ルートを中心に「オバマ大統領はシリアのアサド政権に対して勇ましいことを表向きは語っているが、“落としどころ”を探して実は極秘提案を行っている」という情報が流れ始めていたからである。そして事実、それは「ロシアからの提案」という形になって露呈し、米国もなぜかそれに素直に従い、アサド政権は軍事介入によって潰されるどころか、堂々と「延命」することになったというわけなのである。

シリアの「化学兵器」を巡る今回の出来事は、日本人である私たちにとって2つの大きな教訓を残したと、私は考えている。

第一に、わが国政府はまたしても「インテリジェンス能力」のなさを、ものの見事に露呈したということである。安倍晋三総理大臣は第二次政権を樹立させて以降、「秘密保全法」の制定に向けて努力してきている。「日本に足りないのはインテリジェンス能力。政府部内の極秘情報が外部に筒抜けなようでは、諸外国から相手にされないのは当然だ。だから法律をもって秘密を漏洩したものは厳罰に処するのだ」というのがその主張である。

マーケットから、事態を読めなかった日本

だが申しわけないが、これは根本から間違っている。インテリジェンス、すなわち「生のデータから“意味”を読み取ったもの」は、何も官僚たちが「マル秘」のハンコを押した文書にだけ記されているものではない。ましてやそれを守るものとして、形だけ「国家情報本部」などというものを作っても、全く意味がないのである。

世界中で活躍するインテリジェンスのプロたちが知っている「常識」。それは「ある物事を巡る真実の95パーセントは、誰でも手に入れることの出来る公開情報(open source)から知ることができる」ということだ。率直にいえばインターネット上で怒涛の如く日々流されている公開情報をどのように分析し、そこから「これからの世界」を指し示す“意味”をどのように正しく析出するかが勝負なのである。

そしてそのことは、何も政府で仰々しく機関ができれば成し遂げられるのではなく、何よりも分析者の教育こそが必要なのである。そして政治のリーダーシップたちは抜群の分析能力を持つ彼ら・彼女らが導き出した“意味”を踏まえて、政策判断すればそれで足りるのである。ただそれだけのことなのだ。

だが今回もまたわが国は、安倍政権の下でそうした能力を全く欠いていることを露呈した。要するに「これからどうなるかが全くわからないまま、ぐずぐずとした」のである。

そうした様子について、わが国における一部の「お茶の間インテリジェンス評論家」たちの中には「安倍総理は、対米追従外交からついに訣別した」などと、政府に対する“お追従”としかとれない発言をしている向きもあるようだ。このときは9月7日(ブエノスアイレス時間)に国際オリンピック総会での2020年夏季五輪開催地決定を控えていたわけだが、そうした向きは「開催地の判断に支障が出ないよう、(安倍総理は)熟慮した」などとも論じている。

しかしこうした「評論」は結局、後付けの感想文に過ぎない。なぜならば「政治(外交・安全保障)と経済は“政経分離”どころか連動しており、むしろマーケットで先に仕掛けたうえで、政治は手段として動かされる」という米欧主導の金融資本主義における大原則からすれば、安倍政権は「2013年8月22日夕刻」の段階で“正しい判断”ができたはずだからだ。

つまり米欧のインテリジェンス機関と事実上、渾然一体である越境する投資主体たちが「大量の、しかも比較的長期的なドル買い」をそのタイミングで一斉に入れたことから「シリア早期開戦は、実のところ考えられていない」という判断を下すことが可能だったのである。そのうえで、仮に表向き「対米追従外交からの脱却」を本当に図りたいというのであれば、米欧がシリアを巡るエンド・ゲームの中でその直後に打ち出すことになっていたはずの提案(「化学兵器禁止条約」の活用)を行う役回りを進んで担うべきだったのである。

ところがその後の流れを見る限り、わが国政府は明らかに迷走に迷走を重ねた。8月31日に行われた日米外相電話会談に始まり、安倍総理大臣も電話会談、そして対面での首脳会談をオバマ大統領との間で重ねた背景には、結局、「ブレない判断」を下すことができなかったことを露骨に物語っている。そしてそうなった理由はただ一つ、公開情報から米欧の動かす世界史の“意味”を読み取ることのできる「分析者」がわが国政府部内では決定的に欠けているということなのだ。

日本株上昇が演出されるパターンを見抜け

さて、今回のシリアの「化学兵器」を巡る騒動から、私たち日本人が得ることのできるもう一つの教訓となったのが「外生的リスク」がわが国マーケットに対して与えるインパクトである。つまり「国内では株高になる要因が整ったとしても、国外において巨大なリスクが発生し、炸裂寸前ともなれば、前者は後者に押しつぶされてしまう」ということなのだ。

私はこの東洋経済のコラムも含め「2013年8月には日本株マーケットが“大高騰”となる」と述べてきた。だが、その際、必ずこう条件を付してきた。

「ただし、外生的なリスクが炸裂しない限りにおいては」

いわゆるアベノミクスが始まって以降の日本株マーケットで高騰が演出される際、必ず見られるパターンがある。それは「日本株の買い」と共に「米ドル・米国債の買い」が行われ、結果として「円安」が誘導されるというものである。したがって「ドル高・円安」の動きが見られる時、米欧の越境する投資主体たちは明らかに「日本株高」への誘導を画策していると考えることが(少なくとも現状においては)できるのだ。

そして事実、先ほどから何度も述べているとおり、彼らは8月22日の夕刻に大量の「ドル買い」を入れてきた。したがって「8月の大高騰」を日本株についてもたらす基本的な構造が、そこから整えられ始めたというわけなのである。

しかもそれとは相前後して、8月中旬までわが国のマーケットで続いてきた機関投資家、すなわちプロたちが交互に続ける「裁定取引」がピタリと止まり始めた。一日の間で極端な下げが生じたと思ったらば、後場の終わりには元値に戻っているという「裁定取引」特有の展開を前に、個人投資家たちはすっかりシュリンク(萎縮)していたはずだ。

だが、それが止んだということは機関投資家たちとしても次のフェーズへとマーケットを動かすという意思決定をしたことを意味していたのである。そしてそこからは「現物買い、先物売り」が盛んに行われるようになり、8月末には日本株の上昇局面も見られ始めたのである。

大事なことはこのタイミングで動いていたのは国内の機関投資家たちばかりだったということなのである。裁定取引が盛んに行われたフェーズにおいて、平均株価を露骨に下げることになる「現物売り、先物買い」を大規模に行っていたのは米欧の越境する投資主体たちであった。そして8月後半になるとそうした動きを彼らは明らかに止めたものの、マーケットには戻ってこなかったのである。

今になってみると、その理由は明らかだ。シリアの「化学兵器」を巡る騒動が8月31日(米東部時間)に行われたオバマ「開戦」演説でクライマックスを迎えるということがわかっていれば、その前に「日本株買い」を入れることは愚の骨頂だからである。むしろそこに向けて危機が演出されていく中で下がりに下がり切ったところで買いを入れ、この演説によって「結果として米国はすぐに開戦しないではないか」と安堵感が広まり始めたところで売り抜けるとするのが正しいということになる(その裏側で「ドル買い」を入れておき、為替マーケットで儲けるというのが「Side B」だ)。

今回の「シリア『化学兵器』騒動」によって延期された“8月の大高騰”のための構造はそうした外生的なリスクが収束したと“演出”されることにより、むしろ9月になってから日本マーケットで花を開かせ始めた。そう、ゲームは全く終わっていなかったというわけなのである。

(以下、次回に続く)

 

http://toyokeizai.net/articles/-/20278


 

 安倍総理も知らない、シリア問題の真相(下) ~金融資本主義の根源にある「本当の構図」とは?~

http://blog.goo.ne.jp/nobody-loves-you/e/3172176f7c0d55085ad436e7f93d04b9



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