daisylily@_daisylily さんのツイートです。
――"ロイターが行った国際調査で「女性は外で働くべきではない」と回答した割合が多かったのは1位インド、2位トルコ、3位日本でした。カースト制度も宗教制度もない国なのに、家庭についてはいまなお、これほどまでに保守的なんです。" http://ht.ly/Fz3AX〔6:00 - 2014年12月9日 〕
〔資料〕
「もう「貧困はかわいそう」という時代じゃない 『シングルマザーの貧困』著者が語る、人権意識が足りない社会」
ウートピ(2014.12.08)
☆ (前篇)記事URL:http://wotopi.jp/archives/13089
☆ (後篇)記事URL:http://wotopi.jp/archives/13096
<前篇>
2014年後半、女性の貧困について書かれた本が相次いで出版されました。鈴木大介著『最貧困女子 』(幻冬舎新書)、大和彩著『失職女子。』(WAVE出版)、仁藤夢乃著『女子高生の裏社会 「関係性の貧困」に生きる少女たち』 (光文社新書)。これまで存在自体に気づかれていなかった層にやっと光が当たりはじめたのです。
そしてこの流れに新たな1冊が加わりました。水無田気流著『シングルマザーの貧困』 (光文社新書)――女性がひとりで産み育てることに対してきわめて厳しい今日の社会が、6人のシングルマザーの実例を交えつつ、冷静に解き明かされていきます。その背景にあったのは、社会保障に女性の働き方、理想の家族像……。シングルマザーだけでなくすべての女性に「生きづらさ」を感じさせているものでした。どうしてそんな社会になってしまったのか? 解決策はあるのか? 著者の水無田気流さんにうかがいます。
シングルマザーが働いて得ている収入は一般世帯の29%
――現在、子どもがいる世帯のうち8世帯に1世帯は、ひとり親世帯です。そこに広がる貧困とは、どういったものでしょうか?
水無田気流(以下、水無田):ひとり親世帯のなかでも圧倒的に多いのは母子世帯ですが、女性の貧困問題が子どもの成育環境に直接的な影響を及ぼしている点は本当に深刻です。8世帯に1世帯というと決して多くはないですが、30年前と比べて1.7倍増になっていますし、今後も増えていくでしょう。特殊な例としてスルーしてはいけません。
そして母子世帯では、平均すると一般世帯の36%ほどの年収しかないんです。ここには養育費や児童扶養手当なども含まれますから、シングルマザーが働いて得ている収入となると、一般世帯の29%です。といっても、養育費は受けたことがない母子世帯が全体の6割、それも離婚から年数が経つほど支払われなくなりますから、ほんとんどアテにできません。
――シングルマザーになる=経済的リスクが高いというのは、なんとなくであっても女性たちの共通認識としてあるように思います。そう考えて離婚しない女性も多いのでは?
水無田:今回お話をうかがった女性はみなさん、子どものために離婚しています。暴力や借金、生活費を渡さないなど経済的DVがあり、「子どもに負の影響しかもたらさないため、父親はいないほうがいい」と判断したのです。シングルマザーから話を聞くというのは、ダメ男の話を聞くということでもあり、その点がしんどい仕事ではありました。
一方で、同じくDVや生活苦にさらされていても、経済的な事情やさまざまな理由で離婚できずにいる女性たちもたくさんいます。私はそんな彼女たちのことを「潜在的シングルマザー」と呼んでいますが、結婚しているうちは抱えている問題がひとつも解決されないので、思いきってシングルマザーになった人より大変な面もあるでしょうね。
必要なのは就労によって貧困から抜け出す支援
――さきほどシングルマザーが働いて得られる収入の低さに触れられましたが、なぜそのようなことが起きるのでしょうか?
水無田:もともと日本では、女性が出産を経て正規雇用の職を継続就労しにくい雇用環境があり、そのうえシングルマザーは「ハイリスクな人材」と見なされているからです。残業はほぼできないし、子どもが熱を出せば休む可能性が高い。つまりは、企業からすると中途採用したくない人材なのです。
――面接で訊かれることがその人のキャリアやスキルではなく、「残業できるか」ということばかりだった……というシングルマザーの苦悩も本書では描かれています。
水無田:そうなんです、その人ができることより、その人の属性を重視するのが日本の企業。個人の能力ではなく属性によって働き方が制限されるって、まるで封建社会ですよね。でも就労支援を受けるなどして、なんとか働けたとしても、次にシングルマザーを待ち受けているのは〈時間貧困〉です。
もともと日本では、専業主婦でもフルタイムで働く女性でも、日常的な子どもの養育者は9割が母親です。育児言説の国際比較で見ても、日本の子育ては「手間数が多い」「父親不在」が大きな特徴です。家事や育児、介護などのケアワークを一手に担っているのが、日本のお母さんたち。だから男性は、外で何の心配もなく長時間労働できたのです。
これまで女性は「働いて自活する誇り」を与えられずにきましたが、その裏にはこうしてケアワーカーとしての役割を期待されていたという事情があります。そうなるとシングルマザーは家計責任を果たすため、仕事人間として会社に勤めながら、家庭では母親役割として期待される100%のケアを提供しなければならない……これは無理ですよね。
――シングルマザーは、働けど働けど貧困から抜け出せないわけですね。
水無田:シングルマザーは8割以上が就業しているのに、貧困率は5割を超えます。だから、必要なのは就労支援ではなく、就労によって貧困から抜け出す支援です。拙書では、日本が参考にすべき諸外国の支援制度も紹介しています。
シングルマザーの方は、家計責任と家庭責任の両方をひとりで背負わされる状況が変わらないかぎりは、いつまでたっても苦しいですよね。ケアの時間が必要な人ほど、その時間を確保するためにある程度の所得が保障されなければならないのに、現実はまったく逆です。こうした社会保障制度のあり方は、早急に変えていかないといけないものです。
貧困を気の毒だねというだけの時期はとっくに過ぎている
――こうして社会保障制度にも守られているとはいえない状況下で、必死に子どもを育てているシングルマザーたちですが、世間が彼女らを見る目はあたたかいとはいえません。「貧困に陥ったのは自己責任」「親の勝手のせいで子どもがかわいそう」というバッシングもあります。
水無田:そんなことをいったところで、ただただ不毛ですよね。同時にあるのが、「かわいそうで気の毒なシングルマザーの人たちをなんとかしてあげましょう」という風潮です。テレビや新聞で報道されるのは、「クリスマスなのにおにぎり1個」とか、いかにも哀れな貧困家庭の悲惨な状況が多く、それはたしかに人々の関心を集めるのに一定の効果はあるでしょう。
でも、それだけではただの感情論に終わってしまいます。例えるなら、サファリパークの安全な車のなかから貧困という名の珍獣を眺めて、かわいそうだね、気の毒だねというだけの時期は、もうとっくに過ぎているんです。
――現状ではまるで「ほどこし感覚」ということですね。
水無田:かわいそう、気の毒だから助けてあげよう……という文脈では、おとなしくすまなそうにしているシングルマザーは助けてあげるけれども、そうではない場合は助ける必要はない、となってしまいます。
日本人は、物申したり権利を主張する弱者にものすごく厳しい傾向がありますが、社会の人権意識を変えていかないと、この問題は解決しません。シングルマザーが問題を抱えているということは、生まれてくる子どもの平等が守られていないということなので、そもそも民主主義社会が基盤とすべき人権の問題なんです。
どんな家庭環境にあっても、生まれてきた状況がどんなものであっても、子どもには平等に育つ権利があります。最近ではようやく婚外子差別もなくす方向で動いていますが、これも人権をベースに考えると当然ですよね。
感情論が先立ち、人権意識が未成熟な社会。そのひずみに陥って貧困と生きづらさを強いられているシングルマザーですが、「標準世帯を踏み外した人」というレッテルによってますます追い込まれているという事象も水無田さんは指摘しています。
<後編>
シングルマザーは貧困に陥りやすく、生きづらい。自分は未婚、または既婚だけど子どもはいないし離婚するつもりもないから関係ない……。はたして、そうでしょうか? ひとりで子どもを育てる女性を貧困に追いやっているのは、女性の労働環境や社会保障制度のあり方であることを、社会学者の水無田気流さんは『シングルマザーの貧困』 (光文社新書)で解き明かしました。いずれも私たちが社会で生きていくなかで、常に関わりつづけるもの。誰もが無関係ではないことが、本書を読むとよくわかります。
そしてもうひとつ、シングルマザーの貧困問題を通じて浮かびあがってきたのが、日本人の家族観です。家族のあり方がたいへんな勢いで多様化している現代にあってなお深く根を張り、女性の生き方を縛り、ほんとうに解決すべき問題を見えなくしている「標準世帯」について、引きつづき水無田さんにお話をうかがいます。
家族の変化に社会の意識はついていっていない
――現在の社会保障制度やいろんな世の中の仕組みが、正社員の夫に専業主婦の妻、子どもは2人ほど……という標準世帯を想定して作られていますね。
水無田気流(以下、水無田):はい。でも、実は標準世帯の歴史って、とても浅いんですよ。1950-70年代の高度経済成長期に一般化したものです。
――本書には最初からシングルで産むとみずから決めた「選択的シングルマザー」も登場しますが、世間的には、標準世帯を作るべく、子どもを産む前にまずは結婚することが求められます。
水無田:法律婚をしたカップル以外は子どもを再生産してはいけない、という風潮ですね。選択的に未婚で産んだ女性だけでなく、離婚してひとりで子どもを育てる女性も標準世帯から外れていますから、どちらも厳しいバッシングにさらされます。それが不毛であることは前編でも話しましたが、家族の現実は変化しつづけているのに、社会の意識はついていっていないため、こうした批判が出てくるのです。しかもさらなる前提として、家族は「愛情」によって結びついている、という考えがあるから厄介です。
女性はいままでだってケアの領域で活躍していた
――何か困ったことがあっても、社会保障制度を頼る前にまずは家族で助け合って何とかしましょう、という動きもありますね。
水無田:近代社会はあらゆる側面を合理化する方向で進行してきましたが、その最小単位である家族の根拠は愛情という非合理的なもの。これは、根本的な矛盾です。愛情は一定不変のものではありません。家族成員の健康状態や心理状態など、条件によってもどんどん変わるものです。それなのに、家族の愛情が全くうつろうこともなく、外で働く父、家族をケアする母というふうに期待される役割をはたすのが当たり前……。これはファンタジーですよ。でもこれが、確固たる現実として扱われてきました。
――まるで『サザエさん』の磯野家ですね。
水無田:サザエさんの新聞連載が始まったのが1946年です。それから70年近く経っているのに、ああいうユートピア家族とでもいうべき標準世帯を前提に、制度が作られているのが問題です。これではシングルマザーは救われません。現実に生きているシングルマザー、さらにその子どもたちに目を向けて社会保障制度や雇用のあり方を見直す必要がありますね。もちろん、できるだけ早く!
――それだけでなく、日本では「ふつうの母」に求められる基準がとても高いと指摘されています。
水無田:すでにお話しましたが、日本のお母さんは、子どもにかける手間の数がとにかく多いんです。ほかの先進国と比べても、段違いですよ。そのうえ、家庭のなかに父親が不在。せいぜい、たまに「パパにもお手伝いしてもらいましょう」程度でしょ。
「子育てはいつも楽しいか」を訊ねたアンケートで、楽しいと答えた日本人女性は半数以下でした。アメリカでは67%です。母親が子どものケア、家族のケアをぜんぶ背負いこむのを当然としてきたのが、日本の家族です。当たり前のことは評価されないから、楽しくない。それどころか、母親役割のハードルが高すぎるので、いい母親になれないと悩む女性が非常に多いのが日本の現状です。いま盛んに女性の活躍が叫ばれていますが、女性はいままでだってケアの領域で活躍していたんですよ。ただ対価も評価もないので、政治家のおじさんたちには輝いて見えなかっただけです。
誰もが標準世帯の枠組みから外れる可能性がある
――ケアの負担はそのままに、生産年齢人口が減ってきたから外でもどんどん働いてください、というのが、いまいわれている「女性の活躍」ということですね。
水無田:その一方で、ロイターが行った国際調査で「女性は外で働くべきではない」と回答した割合が多かったのは1位インド、2位トルコ、3位日本でした。カースト制度も宗教制度もない国なのに、家庭についてはいまなお、これほどまでに保守的なんです。日本人は無宗教だといわれていますが、実際は「家族教」を信仰する国といえるでしょう。母性神話をあがめる宗教ですね。そしてシングルマザーは、その教理に反した異教徒というわけです。
――では、シングルマザーへの風当たりの強さは、異教徒への迫害ということになりますか?
水無田:はい。でも目に見える形で迫害されるのではなく、ひたすら存在を無視されるんです。この国は標準世帯以外の人たちを見捨てることによって、美しい家族像の純粋性を守ってきました。歴史をふり返ると、不寛容で純粋性ばかりを追求するものはだいたい内側から滅んでいくのですが……。安倍首相はよく「美しい」という表現を使いますね。彼は美しい家族像に収まらないものに目を向ける気があるのかどうか……、とても心配です。
――そう考えると、「美しい」ってとても怖いことばですね。
水無田:私もすごく怖いです。民主主義国家が成立するためには、一見デタラメで不愉快に見える人たちでも、基本的人権があり、誰もが生きる権利を守ってもらえる……ということも必要なのですが、果たしてこれが容認されるのかどうか。
これは、繰り返しますが美醜や感情の問題ではなく、人権の問題です。さらに今の社会では、さまざまな領域で流動化が進んだ結果、誰もが標準世帯の枠組みから外れる可能性があります。家族のファンタジーを守るため、現実に苦しんでいる人たちを見て見ぬ振りをするのは本当に問題です。
この本を読んでもなお、シングルマザーは自分勝手で無責任だと腹を立てる人もいるでしょう。それはいいんです、思うのは自由です。でも、シングルマザーもその子どもも安心して暮らせる社会は、平等意識や人権意識のうえに成り立つものです。そしてその意識は、民主主義社会の拠って立つ基盤でもあります。これだけは、みんなで守っていただきたい。シングルマザーのことはきらいでも、民主主義のことはきらいにならないでください! というところですね。
(三浦ゆえ)
――"ロイターが行った国際調査で「女性は外で働くべきではない」と回答した割合が多かったのは1位インド、2位トルコ、3位日本でした。カースト制度も宗教制度もない国なのに、家庭についてはいまなお、これほどまでに保守的なんです。" http://ht.ly/Fz3AX〔6:00 - 2014年12月9日 〕
〔資料〕
「もう「貧困はかわいそう」という時代じゃない 『シングルマザーの貧困』著者が語る、人権意識が足りない社会」
ウートピ(2014.12.08)
☆ (前篇)記事URL:http://wotopi.jp/archives/13089
☆ (後篇)記事URL:http://wotopi.jp/archives/13096
<前篇>
2014年後半、女性の貧困について書かれた本が相次いで出版されました。鈴木大介著『最貧困女子 』(幻冬舎新書)、大和彩著『失職女子。』(WAVE出版)、仁藤夢乃著『女子高生の裏社会 「関係性の貧困」に生きる少女たち』 (光文社新書)。これまで存在自体に気づかれていなかった層にやっと光が当たりはじめたのです。
そしてこの流れに新たな1冊が加わりました。水無田気流著『シングルマザーの貧困』 (光文社新書)――女性がひとりで産み育てることに対してきわめて厳しい今日の社会が、6人のシングルマザーの実例を交えつつ、冷静に解き明かされていきます。その背景にあったのは、社会保障に女性の働き方、理想の家族像……。シングルマザーだけでなくすべての女性に「生きづらさ」を感じさせているものでした。どうしてそんな社会になってしまったのか? 解決策はあるのか? 著者の水無田気流さんにうかがいます。
シングルマザーが働いて得ている収入は一般世帯の29%
――現在、子どもがいる世帯のうち8世帯に1世帯は、ひとり親世帯です。そこに広がる貧困とは、どういったものでしょうか?
水無田気流(以下、水無田):ひとり親世帯のなかでも圧倒的に多いのは母子世帯ですが、女性の貧困問題が子どもの成育環境に直接的な影響を及ぼしている点は本当に深刻です。8世帯に1世帯というと決して多くはないですが、30年前と比べて1.7倍増になっていますし、今後も増えていくでしょう。特殊な例としてスルーしてはいけません。
そして母子世帯では、平均すると一般世帯の36%ほどの年収しかないんです。ここには養育費や児童扶養手当なども含まれますから、シングルマザーが働いて得ている収入となると、一般世帯の29%です。といっても、養育費は受けたことがない母子世帯が全体の6割、それも離婚から年数が経つほど支払われなくなりますから、ほんとんどアテにできません。
――シングルマザーになる=経済的リスクが高いというのは、なんとなくであっても女性たちの共通認識としてあるように思います。そう考えて離婚しない女性も多いのでは?
水無田:今回お話をうかがった女性はみなさん、子どものために離婚しています。暴力や借金、生活費を渡さないなど経済的DVがあり、「子どもに負の影響しかもたらさないため、父親はいないほうがいい」と判断したのです。シングルマザーから話を聞くというのは、ダメ男の話を聞くということでもあり、その点がしんどい仕事ではありました。
一方で、同じくDVや生活苦にさらされていても、経済的な事情やさまざまな理由で離婚できずにいる女性たちもたくさんいます。私はそんな彼女たちのことを「潜在的シングルマザー」と呼んでいますが、結婚しているうちは抱えている問題がひとつも解決されないので、思いきってシングルマザーになった人より大変な面もあるでしょうね。
必要なのは就労によって貧困から抜け出す支援
――さきほどシングルマザーが働いて得られる収入の低さに触れられましたが、なぜそのようなことが起きるのでしょうか?
水無田:もともと日本では、女性が出産を経て正規雇用の職を継続就労しにくい雇用環境があり、そのうえシングルマザーは「ハイリスクな人材」と見なされているからです。残業はほぼできないし、子どもが熱を出せば休む可能性が高い。つまりは、企業からすると中途採用したくない人材なのです。
――面接で訊かれることがその人のキャリアやスキルではなく、「残業できるか」ということばかりだった……というシングルマザーの苦悩も本書では描かれています。
水無田:そうなんです、その人ができることより、その人の属性を重視するのが日本の企業。個人の能力ではなく属性によって働き方が制限されるって、まるで封建社会ですよね。でも就労支援を受けるなどして、なんとか働けたとしても、次にシングルマザーを待ち受けているのは〈時間貧困〉です。
もともと日本では、専業主婦でもフルタイムで働く女性でも、日常的な子どもの養育者は9割が母親です。育児言説の国際比較で見ても、日本の子育ては「手間数が多い」「父親不在」が大きな特徴です。家事や育児、介護などのケアワークを一手に担っているのが、日本のお母さんたち。だから男性は、外で何の心配もなく長時間労働できたのです。
これまで女性は「働いて自活する誇り」を与えられずにきましたが、その裏にはこうしてケアワーカーとしての役割を期待されていたという事情があります。そうなるとシングルマザーは家計責任を果たすため、仕事人間として会社に勤めながら、家庭では母親役割として期待される100%のケアを提供しなければならない……これは無理ですよね。
――シングルマザーは、働けど働けど貧困から抜け出せないわけですね。
水無田:シングルマザーは8割以上が就業しているのに、貧困率は5割を超えます。だから、必要なのは就労支援ではなく、就労によって貧困から抜け出す支援です。拙書では、日本が参考にすべき諸外国の支援制度も紹介しています。
シングルマザーの方は、家計責任と家庭責任の両方をひとりで背負わされる状況が変わらないかぎりは、いつまでたっても苦しいですよね。ケアの時間が必要な人ほど、その時間を確保するためにある程度の所得が保障されなければならないのに、現実はまったく逆です。こうした社会保障制度のあり方は、早急に変えていかないといけないものです。
貧困を気の毒だねというだけの時期はとっくに過ぎている
――こうして社会保障制度にも守られているとはいえない状況下で、必死に子どもを育てているシングルマザーたちですが、世間が彼女らを見る目はあたたかいとはいえません。「貧困に陥ったのは自己責任」「親の勝手のせいで子どもがかわいそう」というバッシングもあります。
水無田:そんなことをいったところで、ただただ不毛ですよね。同時にあるのが、「かわいそうで気の毒なシングルマザーの人たちをなんとかしてあげましょう」という風潮です。テレビや新聞で報道されるのは、「クリスマスなのにおにぎり1個」とか、いかにも哀れな貧困家庭の悲惨な状況が多く、それはたしかに人々の関心を集めるのに一定の効果はあるでしょう。
でも、それだけではただの感情論に終わってしまいます。例えるなら、サファリパークの安全な車のなかから貧困という名の珍獣を眺めて、かわいそうだね、気の毒だねというだけの時期は、もうとっくに過ぎているんです。
――現状ではまるで「ほどこし感覚」ということですね。
水無田:かわいそう、気の毒だから助けてあげよう……という文脈では、おとなしくすまなそうにしているシングルマザーは助けてあげるけれども、そうではない場合は助ける必要はない、となってしまいます。
日本人は、物申したり権利を主張する弱者にものすごく厳しい傾向がありますが、社会の人権意識を変えていかないと、この問題は解決しません。シングルマザーが問題を抱えているということは、生まれてくる子どもの平等が守られていないということなので、そもそも民主主義社会が基盤とすべき人権の問題なんです。
どんな家庭環境にあっても、生まれてきた状況がどんなものであっても、子どもには平等に育つ権利があります。最近ではようやく婚外子差別もなくす方向で動いていますが、これも人権をベースに考えると当然ですよね。
感情論が先立ち、人権意識が未成熟な社会。そのひずみに陥って貧困と生きづらさを強いられているシングルマザーですが、「標準世帯を踏み外した人」というレッテルによってますます追い込まれているという事象も水無田さんは指摘しています。
<後編>
シングルマザーは貧困に陥りやすく、生きづらい。自分は未婚、または既婚だけど子どもはいないし離婚するつもりもないから関係ない……。はたして、そうでしょうか? ひとりで子どもを育てる女性を貧困に追いやっているのは、女性の労働環境や社会保障制度のあり方であることを、社会学者の水無田気流さんは『シングルマザーの貧困』 (光文社新書)で解き明かしました。いずれも私たちが社会で生きていくなかで、常に関わりつづけるもの。誰もが無関係ではないことが、本書を読むとよくわかります。
そしてもうひとつ、シングルマザーの貧困問題を通じて浮かびあがってきたのが、日本人の家族観です。家族のあり方がたいへんな勢いで多様化している現代にあってなお深く根を張り、女性の生き方を縛り、ほんとうに解決すべき問題を見えなくしている「標準世帯」について、引きつづき水無田さんにお話をうかがいます。
家族の変化に社会の意識はついていっていない
――現在の社会保障制度やいろんな世の中の仕組みが、正社員の夫に専業主婦の妻、子どもは2人ほど……という標準世帯を想定して作られていますね。
水無田気流(以下、水無田):はい。でも、実は標準世帯の歴史って、とても浅いんですよ。1950-70年代の高度経済成長期に一般化したものです。
――本書には最初からシングルで産むとみずから決めた「選択的シングルマザー」も登場しますが、世間的には、標準世帯を作るべく、子どもを産む前にまずは結婚することが求められます。
水無田:法律婚をしたカップル以外は子どもを再生産してはいけない、という風潮ですね。選択的に未婚で産んだ女性だけでなく、離婚してひとりで子どもを育てる女性も標準世帯から外れていますから、どちらも厳しいバッシングにさらされます。それが不毛であることは前編でも話しましたが、家族の現実は変化しつづけているのに、社会の意識はついていっていないため、こうした批判が出てくるのです。しかもさらなる前提として、家族は「愛情」によって結びついている、という考えがあるから厄介です。
女性はいままでだってケアの領域で活躍していた
――何か困ったことがあっても、社会保障制度を頼る前にまずは家族で助け合って何とかしましょう、という動きもありますね。
水無田:近代社会はあらゆる側面を合理化する方向で進行してきましたが、その最小単位である家族の根拠は愛情という非合理的なもの。これは、根本的な矛盾です。愛情は一定不変のものではありません。家族成員の健康状態や心理状態など、条件によってもどんどん変わるものです。それなのに、家族の愛情が全くうつろうこともなく、外で働く父、家族をケアする母というふうに期待される役割をはたすのが当たり前……。これはファンタジーですよ。でもこれが、確固たる現実として扱われてきました。
――まるで『サザエさん』の磯野家ですね。
水無田:サザエさんの新聞連載が始まったのが1946年です。それから70年近く経っているのに、ああいうユートピア家族とでもいうべき標準世帯を前提に、制度が作られているのが問題です。これではシングルマザーは救われません。現実に生きているシングルマザー、さらにその子どもたちに目を向けて社会保障制度や雇用のあり方を見直す必要がありますね。もちろん、できるだけ早く!
――それだけでなく、日本では「ふつうの母」に求められる基準がとても高いと指摘されています。
水無田:すでにお話しましたが、日本のお母さんは、子どもにかける手間の数がとにかく多いんです。ほかの先進国と比べても、段違いですよ。そのうえ、家庭のなかに父親が不在。せいぜい、たまに「パパにもお手伝いしてもらいましょう」程度でしょ。
「子育てはいつも楽しいか」を訊ねたアンケートで、楽しいと答えた日本人女性は半数以下でした。アメリカでは67%です。母親が子どものケア、家族のケアをぜんぶ背負いこむのを当然としてきたのが、日本の家族です。当たり前のことは評価されないから、楽しくない。それどころか、母親役割のハードルが高すぎるので、いい母親になれないと悩む女性が非常に多いのが日本の現状です。いま盛んに女性の活躍が叫ばれていますが、女性はいままでだってケアの領域で活躍していたんですよ。ただ対価も評価もないので、政治家のおじさんたちには輝いて見えなかっただけです。
誰もが標準世帯の枠組みから外れる可能性がある
――ケアの負担はそのままに、生産年齢人口が減ってきたから外でもどんどん働いてください、というのが、いまいわれている「女性の活躍」ということですね。
水無田:その一方で、ロイターが行った国際調査で「女性は外で働くべきではない」と回答した割合が多かったのは1位インド、2位トルコ、3位日本でした。カースト制度も宗教制度もない国なのに、家庭についてはいまなお、これほどまでに保守的なんです。日本人は無宗教だといわれていますが、実際は「家族教」を信仰する国といえるでしょう。母性神話をあがめる宗教ですね。そしてシングルマザーは、その教理に反した異教徒というわけです。
――では、シングルマザーへの風当たりの強さは、異教徒への迫害ということになりますか?
水無田:はい。でも目に見える形で迫害されるのではなく、ひたすら存在を無視されるんです。この国は標準世帯以外の人たちを見捨てることによって、美しい家族像の純粋性を守ってきました。歴史をふり返ると、不寛容で純粋性ばかりを追求するものはだいたい内側から滅んでいくのですが……。安倍首相はよく「美しい」という表現を使いますね。彼は美しい家族像に収まらないものに目を向ける気があるのかどうか……、とても心配です。
――そう考えると、「美しい」ってとても怖いことばですね。
水無田:私もすごく怖いです。民主主義国家が成立するためには、一見デタラメで不愉快に見える人たちでも、基本的人権があり、誰もが生きる権利を守ってもらえる……ということも必要なのですが、果たしてこれが容認されるのかどうか。
これは、繰り返しますが美醜や感情の問題ではなく、人権の問題です。さらに今の社会では、さまざまな領域で流動化が進んだ結果、誰もが標準世帯の枠組みから外れる可能性があります。家族のファンタジーを守るため、現実に苦しんでいる人たちを見て見ぬ振りをするのは本当に問題です。
この本を読んでもなお、シングルマザーは自分勝手で無責任だと腹を立てる人もいるでしょう。それはいいんです、思うのは自由です。でも、シングルマザーもその子どもも安心して暮らせる社会は、平等意識や人権意識のうえに成り立つものです。そしてその意識は、民主主義社会の拠って立つ基盤でもあります。これだけは、みんなで守っていただきたい。シングルマザーのことはきらいでも、民主主義のことはきらいにならないでください! というところですね。
(三浦ゆえ)
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