早速、実践

前略　忠太様

僕さ、あんた大嫌いだ。なぜってね、でこちんに「僕を認めてください」って書いて

あるお札が貼ってあるようなんだよね。言わしてもらうけど、あんた見るからに

”キョンキョン”だ。そりゃ、監視役がつけられて当たり前だわ。気色悪いんだよ。

でこちんに札つけてりゃ、誰だって、「このゾンビが・・・」と思うぜ。


事実を教えてやろうか。Ｂ施設の主任さん、あんたを解雇してよかったと、本心から

胸を撫で下ろしていると思うで。当たり前やん。資格、持ってないんやろ。主任さん、

何時、取るんやろ・・・と、多分ものすごく心配して下さっていたはずや。それくらい

のこと、想像せんかい。

最近、誰かに言われとったわな。今、５６歳やって？　”分別心”持てってか？

もっとしっかりせんかい。ただの餓鬼にそんなセリフ言われて、恥ずかしいやろ。

返す言葉があれへんやんけ。

一言で言って、あんた甘いんや。自分一人で何もかも背負い込み過ぎやわ。そういう

態度を嫌う人もいるってこと、頭に叩き込むべきやろな。

「事実が雄弁に物語る」なんて悠長なこと言うてたらあかんねん。知的障害者がすべ

てを知ってるってか。施設の幹部に言えよ。黙ってるから、ただの負け犬やん。

違うか。悔しいやろうが。

だけど、ほっとけないな、あんたのこと。一途やもんな。こんな話を聞いたことがある。

愛を捧げるのに二つのタイプがあるって。一つはな、愛する人に人生を捧げるタイプ

で、もう一つは、魂を捧げるタイプやて。忠太さんは、後のタイプやな。端から、命を

投げ出してしまってるねん。だから、”資格”とかいう世知辛いことに知恵が回らん

のやろ。

僕は、知ってんねん！　忠太さんがＢ施設でＴ君に肩を噛まれた後のこと。誰にも報

告せんかったやろ。ラグビーやってた兄チャンの顔、立てたげてたな。最後まで、秘

密を守り通したわけや。


そういう控えめなところがな、めっちゃ好きやねん。大阪人の誇りやと思うで。

そういうわけで、忠太さん。でこちんに貼ってある札、外してな。それだけが気に

なってしょうがないねん。そんなんなくても、生きていけると思うで。

では、では、また会う日まで。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　草々