Licensure、Certification、Certificate、Credential、Qualificationの違い

2013-02-18 23:51:01 | 医療用語(看護、医学)
  医療職者の免許や認定、登録システムは各国で異なることは、これまでもこのブログで触れてきた。日本では医師や看護師の資格は名称と業務が独占されている国家資格で、厚生労働省が国家試験を実施して、合格者が免許証を受け取る。住民票登録をしている保健所に登録はしなければならないが、免許更新制度はない。

 これは一般の人々を守るために(無資格の不適格者が医師や看護師業務を行わないように)コントロールしている制度管理あるいは規制といわれるものである。国際的にみれば、国がそうした規制を行っている日本は特異的で、世界標準の考え方は、専門職者の自治規制といって、専門職者が自分たちで規制を行う:つまり、専門職者が会費を払って専門職団体を作り、それと併設する形で自治規制を行う審議会(Council)や会議(Board)を作って、資格試験を実施し、免許を下付して、登録を行い、免許更新を何年かに一回課している(その時には継続教育を実施する。専門職団体と規制団体(審議会や会議)は監査を入れて独立性と透明性を担保している。そうのようにして専門職資格を出し、それを国が国家資格として認める。

アメリカは資格登録を州ごとでしているし、イギリスは資格試験を実施しないで認証された教育を受けたものを資格登録するなど、各国で違いはあるけれど、自治管理をすることが世界のnorm(規範)であるとされ、まだ制度管理がなされていない途上国もそれをモデルにしている。これが専門職が持つべきautonomy(裁量、自己決定権)に基づく規制である。(autonomyは、「自律」と訳され長くそのように使われてきたが、「自律」というのは、実は「裁量権」を意味し、その表れの大きなものが上記の制度管理の方法である)。

 そうした規制上の違いがあるために、英語の文献を読んでいると、資格を表す、licensure, certification, certificate, qualification, credentialといった単語がでてきて、どれがどうなのか、よく分からないと感じたことがあるかもしれない。辞書を見ても区別は明確でない。実際の文章に当たらないと、使い方はわからない。

 こうした区別について記している文書がある。Pew Health Professions CommissionのTaskforce on Health Care Workforce Regulation(保健医療職者規制実行員会)が1995年に出した"REFORMING HEALTH CARE WORKFORCE REGULATION Policy Considerations for the 21st Century"(保健医療職者規制 21世紀に向けての政策の検討)という文書である。http://www.soundrock.com/sop/pdf/Reforming%20Health%20Care%20Workforce%20Regulation.pdf

 有用な個所を引用してその下に要約をつけておく。使い方の区別はつくだろう。
(Pew Health Professions Commissionは、Pew慈善信託が助成金を出して、UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)保健医療職センターが管理をしている委員会で、医療労働力など政策関連のレポートを出している)

Professional “licensure” refers to permission granted by government to engage in a business or occupation or in an activity otherwise unlawful. With licensure, the government asserts that the licensee has met minimum standards of qualification* to ensure that the public health, safety, and welfare will be reasonably protected.
(licensure(免許制度):政府が与えた業務従事の許可(免許がなく行うことは不法行為になる)。免許とは、一般の人々の健康と安全、福祉が守られることを保証した最低水準の資格(適格性)を持っていることを政府が認めたこと)
 *qualificationは「資格」であるが、知識や技術だけでなく倫理も身に着けた専門家に必要な「適格性」を備えていること)

“certification” may mean several different things in different situations. State certification is a public function that protects a profession’s title. In contrast, private certification ― usually by private specialty associations or boards ― identifies practitioners who have met the standards of the private organization.
(certification(認定/認証):州(公的)認定は州がその専門職の名称を保護していること。民間認定は民間の専門団体や会議がその団体の基準を満たしたことを証明していること)

“certificates”awarded to graduates of graduate schools, community colleges, and vocational schools that only indicate completion of a specific program.
(certificates(修了書、証明書)は専門教育機関の修了証。専門教育プログラムを修了したことを示す)

 参考までに次の表現も引用しておく。
health facilities may be “Medicare certified.”Anyone or any organization can “certify” or attest to standards met.
(Medicare certifiedとなっている保健医療施設は、メデイケア診療ができる認証病院のこと)

“credential”is not usually defined in statute but is widely used by professionals, the
public, regulators and legislators as evidence (public or private) of someone’s qualifications.
(credential(資格認定(証))とは法的なものではなく、専門職者や一般人、規制担当者、政治家が使っているもので、公的民間を問わず、その人の専門職者としての資格/適格性の証拠)
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Multidisciplinary と Interdisciplinary

2012-09-10 22:43:00 | 医療用語(看護、医学)
  週末、聖路加看護大学の大学院のチームビルディングプログラムセミナーの通訳で軽井沢に行ってきた。軽井沢は湿度が低く、気温も日中、高いときも、26℃ぐらい、過ごしやすく、束の間、ほっとした。戻ってきて東京駅に着いたときの蒸し暑さに、現実に戻った。
 
 さて、表題のInterdisciplinary Approach「学際的アプローチ」は、ご存じの言葉だと思う。英語文献では、よく似た言葉に、Multidisciplinary Approachがあり、どう訳してよいのか、悩むことが多かった。医療以外でも使われる言葉だが、ここでは、医療で使われると限定して、この両者の大まかな区別をとりあげる。

 20~30年ぐらい前だっただろうか、がん関係の医療の世界では、「がんの集学的アプローチ」といって、multidisciplinaryがよく使われていた。医学、看護の文献だけでなく、患者団体の資料にも出てきていた。

 そのときの説明は「がんの場合、たとえば外科医が手術で切除するだけでは、治療成績は伸ばせず、化学療法、放射線科の医師、そして看護師、ソーシャルワーカー、心理療法士とともに、総合的に臨床データを検討して最善の治療の方針と計画を決め、治療を進め、フォローアップしていく」であった。

 そのうち、interdisciplinary approach(学際的アプローチ)という言葉がでてきて、multiとinterの両方が混在して使われ、区別もわからないようなときもよくあった。今でも、あまり区別なく使われていることもあり、訳者として困ることがある。「多職種協働アプローチ」ということもある。

 multidisciplinaryは「集学的」といわれるように、専門領域が中心になる考え方になる。各専門家の意見は聞かれるが、お互いに踏み込むことはない。
 
 interdisciplinaryは、患者が中心になって患者も参加して、多職種が関わり話し合いを重ね、多職種が互いに補いながら問題解決に向かうので、場面によって、リーダーの職種が異なる、包括的なケアになる。現在のチーム医療が目指しているのは、interdisciplinary approachになる。
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Evidence-based エビデンスに基づく

2012-03-17 17:42:46 | 医療用語(看護、医学)
 10年ぐらい前だろうか。「この頃、医学の世界ではevidence-based medicineという言葉をよく聞くけど、医学ってもともと科学的根拠があってやってきてたのではなかったのですか?どうして今になってそんなことを言い出したのですか?」と通訳関係者から尋ねられたことがある。今ではいろんなところでこの言葉が出てくるので、もうそんなことは聞かれなくなった。

 私がEvidence-Based Medicineという言葉を初めて聞いたのは1990年代の後半だった。「根拠に基づく医療」と訳され、そのうち「科学的」を足して「科学的根拠に基づく医療」というようになった。現在は、「エビデンスに基づく医療」と、そのままカタカナを使い、略してEBMといわれる。ただ、medicineは「医学」のことになるので、根拠に基づいて診療実践を行う部分ではEBMだが、もっと広い意味での医療全般の政策面の話になると、Evidence-based Healthcare (EBHC)が使われる。

 このように医療の分野から始まった言葉ではあるけれど、今では、「エビデンスに基づく実践」などという表現で、教育、社会学などの分野でも使われ、昨日の震災関連のシンポジウムの仕事でも「アメリカでは『エビデンスに基づく』ことを強調するが、日本ではその部分がまだ弱い」という発言を聞いたところだ。

 現在、「エビデンスに基づく医療/看護/実践/ケア」といった言葉を含めた題名の本も出ているし、ネットでも説明されている。エビデンスの強さはランダム化比較対照試験(RCT)が一番で(信頼性が高く)、階層化されている。

 アメリカで発達したという言葉だといわれるが、実は最初はイギリスである。言葉自体は1960年ぐらいからあったらしいが、「どこが始まりだ」と尋ねられると必ず出てくるのが、1972年初版のイギリスのArchiebald Cochrane(アーチボルト・コクラン)のEffectiveness and Efficiency(治療効果と経済効率): random reflections on health servicesである。コクランは、医療実践のほとんどが科学的根拠なく個人の経験や裁量で行われていると批判した。今でいう質と安全性を保障できないのだ。信頼性の高いエビデンスであるRCT(無作為比較対照試験)による評価の蓄積が必要だとした。これがのちの臨床研究の世界的レビューであるコクラン共同計画の設立につながる。

 エビデンスに基づく実践によって質と安全を保障するために、ガイドラインやスタンダード、プロトコールの整備になる。1990年代に入り、アメリカを中心にevidence-based medicineは発展することになり、医学、薬学だけでなく看護学、そして先述のように他分野にも広がっていく。

 (最初は、ガイドラインに基づいて均質なことをするのは医師の裁量権の侵害だという抵抗はあったが、医学の進歩とともにベストな科学的根拠を蓄積する必要性は必至で進んでいった)

 一つ忘れてはいけないことがある。この言葉には、政治経済的な意味合いがあることだ。
 
 コクランがそうした提唱を行った当時のイギリスは、経済成長が鈍化し、労働党が選挙に負け、保守党のサッチャー政権になる時代であった。ケインズ政策とは決別して公共部門の改革、民営化が進んでいた。医療についても、必要な治療にはその根拠になる証拠を持って説明する必要があった。国民保健サービス(NHS)のケアの質を費用対効果/効率で評価しなければならない。だから、医療はevidence-basedでなければならないのだ。

 イギリスではその後、ブレア政権(労働党)になり、費用対効果の高いNHSをさらに推し進め、政府自体でエビデンスを蓄積するためにNICE(医療技術評価機構:National Institute of Clinical Excellence)が作られる。治療ガイドラインの話の時にはNICEはよく出てくる。

 ざっと説明するとそういうことになる。evidence-basedという言葉が出てきたとき、そういう背景があることをちょっと頭の隅に置いておくといいと思う。

 

 
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Patient Safety :  医療安全

2012-02-19 09:58:41 | 医療用語(看護、医学)
  先月から何度か、ケアの質のことを話してきた。質と一体で議論されるのが安全なケアだ。だから、to provide safe and quality care(安全で質の高いケアを提供する)という表現になる。

 「医療(の)安全」の英語の訳は、Patient Safetyだ。ブログでIOMの看護レポートの話を取り上げていた最中に、日本看護協会出版会の編集者の村上さんから次の号(夏号)のINRの翻訳原稿が送られてきたが、それが、Patient Safetyに関する論文だった。同じテーマ関連の仕事が続くのは、そのテーマについて多角的に知れるし、考えを整理するのにとても役立つ。ただ、Patient Safetyはついては、偶然にも重なったというのではないと思う。日本だけではなくグローバルレベルでホットな問題なのだ。この論文の翻訳では、私はPatient Safetyを文脈により、「医療(の)安全」、「患者の安全」と訳し分けている。

 医療用語には漢語が多い。漢語を2つ、3つ重ねた熟語もよく使う。今問題にしている「医療安全」もその一つだ。かなり固い表現だが、もっと極端なものをみたことがある。「医療安全質確保対策」。漢字が重なり合いすぎて、途中で息継ぎがほしい。ここまでになると、行きすぎだ。できるだけこのまま使うとしても、日本語としては、ちょっと手を入れて分かり易く、「医療の安全」、「安全で質の高い医療のための対策」といった表現にしたほうがよい。私が訳すときはおそらくそうするだろう。

 漢語は外来語の訳である。もともと、明治維新の後、欧米から入ってきた概念を日本に訳すときに(日本語にはそのような意味の言葉がなかったので)漢語を当てはめた。医療の世界にそうした表現が多いのは当然だろう。ただ、漢語について注意しなければならないのは、漢語になった時点でその言葉をそのまま受け入れてしまって具体的に何を意味しているのか、疑問に思うことなく進んでしまうことがあることだ。翻訳研究の柳父章先生のいう「カセット効果」である。(「カセット効果」については、以前書いたブログ(2011年6/4付、「和製英語コ・メディカル」)で説明しているので参照してほしい。)

 漢語とはそういう魔力がある言葉であることはちょっと頭に入れておいたほうがよい。実際に、具体的にどのようなことを意味してどういう文脈で使われるのかを確認する必要がある。医療関係の仕事をするときは医療用語を縦横無尽の使えることが要件になるが、上記のことを注意する必要があるということだ。


 何年も前に会議の資料で「医療安全」という言葉が出てきたとき、通訳のための打ち合わせの席で、発表者に「『医療安全』とは何を指すのか?患者に対して安全なケアを提供するということか?」と尋ねたことがあった。発表者のその時の答えが、「『患者の安全』ということです」だった。「だったら「患者の安全」と表現すればよいのに」と思ったが、通常は「医療安全」が使われている。頻度は低くなるが、「医療における患者の安全確保」といった表現で「患者の安全」という言葉が入ることはある。(ちなみに、医療の世界の表現では「~における」という表現もよく使われる)。

 「医療(の)安全」は、「安全な医療のシステムを整備する(整える)」ための議論で使われている言葉で、これにあたる英語がPatient Safetyだ。英語の文献では、Patient Safetyという言葉が使われるとき、「患者を危険にさらす状況がある」ということが前提になる。だから「考えられる医療ミスを未然に防いで、患者に対して有害なことが生じない、安全なケアを提供し続けられるシステムを整備する」という文脈で使われるのである。

 医療安全をうっかり、medical safetyやhealthcare safetyと訳してしまわないように。
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Innovation(イノベーション)

2012-01-12 20:43:44 | 医療用語(看護、医学)
  保健医療の専門用語ではないが、innovationを取り上げる。4、5年前ぐらいから国際看護でよく使われるようになった言葉である。もともとは経済・経営学の言葉で、以前の訳は「技術革新」だった。ICNの大会やINRなどで出てくるときは、「革新」という訳を使っていた。必ずしも新しい技術やスキルのことだけではなく「これまでにない全く新しい考え方」を指している。今は、そのままカタカナで「イノベーション」を使う場合が多い。

 そしてinnovationと一緒によく出てくるのがentrepreneur(アントレプレナー)である。「起業家」になるのだが、看護の世界では、事業を起こすという意味に限らず、イノベーションの遂行者として使われている。

 
 ウィキによると、イノベーションは、必ずしも新技術の発明ということではなく、既存のものの中に新たな視点や考え方、活用方法を造り、新たに社会的に意義のある価値を創造する行為であり、社会に変化をもたらすものである。このような定義は、20世紀の初めに経済学者のシュンペーターが初めて使った。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3

 現在は、イノベーションというと、ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』(ダイヤモンド社)がよく出てくる。この本は分かりやすく面白い。

 
 看護に話を戻す。看護でイノベーションを使うとき、新しい技術というより、時代のニーズをいち早く分析し、これまでの看護の知識や技術に新たな価値を見出して、果敢に一般の人々に健康と福祉の増進を図り、よりよい社会に進めていくという意味で使われている。その意味では、プライマリ・ヘルスケアが注目されている。

 昨年のICN大会のときに、東日本大震災後の日本看護協会の災害支援ナースについてはイノベーションであるといわれた。確かに、阪神大震災を教訓に優れたボランティアナースのシステムを作り上げている。災害看護の講習会を開催して受講を修了した応募者のみ登録し、3人1組で短期間に順次派遣するとともに、現地コーディネーターがニーズをリアルタイムで本部に報告して派遣ナースの構成については、ニーズに即したスキルの組み合わせにした。以前紹介したボランティアナースの海外の論文で、希望者は多いが必要なスキルについての認識が不足していることが上がっていたが、日本の場合は災害が起こる前に、訓練も登録も終わっていて、スキルとモチベーションを含め即応能力が非常に高い。既存の知識とスキルに手を加えて新しいものにして、新たな価値を生み出し、社会に大きな影響を与えている。明らかに、イノベーションである。

 ちなみに、国際看護でイノベーターとして筆頭に挙がってくるのは、フローレンス・ナイチンゲールである。これまでのブログでも何回か取り上げたが、クリミア戦争で自身が組織したナース団によってナースのイメージを一気に専門職業人に変えてしまい、誰もしたことのない統計を使って陸軍病院の死亡率を激減させ、救貧院改革で平等な医療を求め、政策提言活動を果敢に行い社会を変えた正真正銘のイノベーターである。
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