世の中には不誠実な愛を囁く人間もいれば誠実な愛を貫こうとする人間がいる
だけど、人間はどちらかと言えば不誠実な愛の言葉に耽溺し、深い沼に引きこまれることが多々あるような気がする。
これは、私の見る世界がそうであるから偏見かもしれない
私の友は、死の宣告を受け、今まさに誠実な愛を貫こうとしていた。
「余命宣告を受けました。あと3ヶ月らしいです。本当に今までありがとう」
そう、彼は入院先の病床からわたしに電話をかけてきた。
友は、死に向け、残された妻への配慮を病床から準備していた。
私は絶句する。DVから逃れ小田急相模原へ来てから知りあい出来た私の友達
彼は、先日のブログにもアップしたが元、制作会社のプロデューサーでプロテスタントの長老をするクリスチャン
「私は、死ぬことは恐くないです。神の近くに行けるから」
私は無言のまま、彼の言葉に集中する
「だけど、妻のことを考えると、、」
受話器の向こう側から嗚咽が聴こえる
彼と奥さまの出逢いは、実にドラマティックだった。
制作会社のプロデューサー時代、彼はクライアントの願いを叶えロシアを案内した。クライアントは感激し、帰国後に彼を新宿にある韓国クラブに招待する。
彼は敬虔なクリスチャンであるからあまりクラブのような場所を好ましく思えなかったが、クライアントの押しの強さにクラブに入店した。
「誰でも好きな娘を呼んでよいですよ、なんなら店外デートもOK 」
クライアントが下卑た顔でおしぼりをふく、彼が周囲を見渡すと酷く痩せ干そった少女のような娘がうつむいていた。
「あの娘がよいです。」きっと、彼の中で勘のようなものが働いたのだろう。
指命をされた女の子は席に着くなり
「フード頼んでよいですか?」と聞いてきた。
「何でも好きなものおあがりなさい」
女の子は、接客もせず、ひたすらフードを平らげる。そして、一通り満足すると、今度は店外デートに行きたいと彼に願い出た。
「いや、しかし」彼がたじろぐ
しかし、女の子は必死に、まるで懇願するように、食い下がってくる。その気迫に押され
「よし、じゃあ喫茶店でも行こう」と女の子を店外に連れだした。
喫茶店に入り席に着くと、女の子は
「助けて、私、騙された❗ヤクザに見張られてる❗逃げられない」
なんともショッキングな言葉を並べてきた。
詳しく事情を聴いてみると、彼女は日本に留学しようと資金を貯めていた。
彼女は幼少期に母親を亡くし、父親と兄と暮らしていたが、そこへ父親が再婚し継母が家族として加わった。
継母は、非常に支配的で彼女を虐待したという、父親が他界してからは、その支配がさらに強くなり、彼女が社会に出てからは給与のほとんどを搾取された。
このままでは未来はないと、彼女は密かに貯金をし日本へ留学することを決意する。
血の滲むような生活に耐え、爪に灯をともし蓄えた金をブローカーに託して彼女は生まれ故郷の韓国を後にした。
しかし、ブローカーは二重の搾取を企んでいたのだ。留学資金と彼女から産み出される新たな資金を
「なるほど」彼はひと通りはなしを聴くとどこかへ電話をかけてしばらく通話した。
「よし、話はついた。君の寮へいき、荷物を取りに行こう」
彼女は信じられないという表情をしながら、喫茶店を出て彼を寮へと案内する。
荷物を取り、彼女が退寮の準備をする間、暴力団の末端らしき男たちは仕切りに彼に頭を下げに来る。
そして、無事に彼女を救いだし新宿のまちを二人は出るのであった。
「なんで、そんなことが出来たの?」
私が不思議全開で質問したら
「だって、当時の新宿を管轄していた暴力団の上層部の人は皆さん、知り合いだったから」
と静かにこたえる友に、敬虔なクリスチャンと暴力団が結びつかず、首をかしげるばかりだった。
「貴女をもう少し早く知っていたらな、僕がたすけてあげたのに」
そう、チャーミングに静かに笑った亡き友の顔を今パエリアをがっつき、スマホを打ちながら思い出している。
続く