アップルが3日発売したiPhone(アイフォーン)10周年記念モデルの「X(テン)」。ローマ数字の10ではなく、アルファベットの「エックス」と書いて「テン」と読ませている。「X」が「テン」となる理由を探ってみた。【岡礼子】 ◇Xはバージョン番号ではない これまでのアイフォーンは、機種名に洋数字が使われた。9月に発売したのが「8」で、次が「テン」だ。10周年だからと考えれば分かりやすいが、洋数字でもローマ数字でもなく、エックスを使ったのはなぜだろう。 アップル日本法人の広報に尋ねると、「(基本ソフトの)『OS X』(オーエス・テン)も、エックスと書いてテンと読む。経緯は分からない」。OS Xとは、アップルのパソコン「マッキントッシュ(Mac)」のOSで、2001年に発表された。アップル創業者の一人で、販売不振などで一時アップルを追放された故スティーブ・ジョブズ氏が、同社に復帰した時のことだ。 ジョブズ氏がいない間、MacのOSは「8」「9」と洋数字をつけて呼ばれていた。しかし、その次のOSの開発は自社ではうまくいかず、ジョブズ氏がアップルとは別に創業した「NeXT(ネクスト)」で開発したOSを基につくったのがOS Xで、「次世代のマッキントッシュ」と銘打って発表された。ジョブズ氏は製品の機能だけでなく、色や形、ロゴといったデザインにもこだわる人として知られる。X(テン)の呼び名にも、彼の意向が反映したと言っていいだろう。 しかし、当初は社内でも「エックス」と読む人が少なくなく混乱した。アップルは、16年に公表した「OSとは何か?」と題した文章の中で「テンと読む」と注釈をつけている。「Mac OS X v10.4」といった表記もあり、Xはバージョン番号とは別につけられたことが分かる。 ◇ローマ数字が扱えなかった? 当時のアップルを知る日本人技術者は「公式の説明は記憶にないが、ローマ数字の10が(コンピューター上で)使えなかったから、Xの表記になっただけではないか」と推測する。ローマ数字も元をたどればアルファベットで数を表現したものなので、Xと書いて「テン」でいいではないかと言う。 コンピューターは、漢字や記号を表現するための仕組み「文字コード」が組み込まれているが、初期のコンピューターは表示できる文字が限られていた。機種によって表示できる文字の種類も違い、メールなどに特殊な記号を書くと、その記号が表示できない機種では文字化けした。 特に米国ではアルファベットと洋数字、一部の記号しか表示できない「アスキーコード」が長く主流で、ローマ数字は含まれていなかった。ひらがなを漢字に変換し、ローマ数字も同じ要領で入力できた日本語と違い、英語はアルファベット以外の文字を入力するのは一手間かかった。かけ算の記号もエックスで代用するほどだ。こうした背景から、エックスの文字でローマ数字の「10」が使われ、これが継承された可能性がある。 「文字コード」に詳しい安岡孝一・京都大学東アジア人文情報学研究センター教授は「OSの名前が文字化けするのはかっこ悪いと思ったのではないか」とみる。だが、00年から05年にかけて、さまざまな文字を表示できる「ユニコード」の普及が進み、「文字化けは過去の話」とも指摘する。今は、多くのパソコンやスマートフォンでローマ数字も丸数字も表示されるはずという。最新のアイフォーンなら、ローマ数字を避ける必要はなさそうだ。 ◇飛躍を表す「エックス」 一方、「エックスにジョブズ氏のこだわりを感じる」という見方もある。「Xデー」という言い方があるように、エックスはほかのアルファベットとは違い、特別な意味を込めることが多い。米カリフォルニア州のクパチーノにあるアップル本社で、完成直前のOS Xの開発に携わった佐藤真治さんは、「OS Xも、特別なOSという意味で『X』を使いたかったのではないか」とみる。「エックスと読むのではありきたりすぎ、理由を聞かれる可能性も高い。10(テン)だということなら、見た人も納得すると考えたのではないか」 佐藤さんによると、OS Xは8、9とは別のチームで並行して開発された。9の次がXだったのは偶然で、今回のアイフォーンのように8の次がXだった可能性もあったという。「Xの文字には特別なもの、Next Generation(次世代)といった意味が込められていたのではないか。スティーブの思い入れを感じる」と佐藤さんは話す。 では、発売されたばかりのアイフォーンXはどうか。佐藤氏は、AR(拡張現実)や機械学習など、「これまでのアイフォーンの延長線上ではない考え方が取り入れられている。次の10年を担う新シリーズの位置づけ」として、アイフォーンの飛躍を「X」に期待している。 (毎日新聞) |
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