東京ディズニーシーで2024年春に開業予定の新エリア「ファンタジースプリングス」。「魔法の泉が導くディズニーファンタジーの世界」をテーマにした8番目のテーマポートだ。当初は2022年に開業予定だったが、2度延期しており、ファンは着々と建築されていく新エリアの姿を見ながら心待ちにしてきた。 ファンタジースプリングスへの投資金額は約3200億円。東京ディズニーリゾート最大級の拡張計画といえる。ちなみに東京ディズニーシー全体の建設費は約3350億円(ホテルミラコスタの建設費を含む)だった。今回の投資金額の大きさが分かるのではないだろうか。 今回の拡張では、ホテルの開業も予定されている。特筆すべき点は、既存のホテル「ディズニーランドホテル」「ホテルミラコスタ」「アンバサダーホテル」と同クラスのデラックスタイプに加え(419室)、最上級クラスとなるラグジュアリータイプの客室「グランドシャトー」(56室)が提供されることだ。 パークが拡張され、新しい体験が提供される一方、ディズニーリゾート訪問中の滞在費用は高騰していく。 図1は東京ディズニーリゾートのチケット価格の推移である。もちろん物価変動や時代背景を考慮に入れていないため、数字だけで評価するのは安直だが、1983年の開園当時と2023年9月を比較すると、3900円から9400円と5500円も上昇している。そんな過去と比べなくとも、19年からわずか4年間で1900円も増加しているのだ。 ちなみにオリエンタルランドがニューファンタジーランドの拡張を発表したのが17年、ファンタジースプリングスの開発を発表したのが19年。新しいエリアを開発するとチケット代が上昇する傾向がある。 10月1日からはさらに値上げする。現在の7900円/8400円/8900円/9400円の4パターンの価格変動制から、6パターンの価格変動制となり、最大料金は1万900円になる。当然ながら投資には資金がかかるわけで、その資金を捻出するためには売り上げを増加させる必要がある。その売り上げは消費者からの支出そのものであり、ディズニーも例外ではない。 オリエンタルランドが発表した24年3月期第1四半期決算の資料を見ると、テーマパーク事業の売上高は、前年同期比366億円増の1165億円となっている。来園者1人当たりの売上高が増加し、中でもアトラクション・ショー収入と商品販売収入が伸びたことが要因だ。同資料によると、アトラクション・ショー収入は、低価格帯チケットの構成比が増え、減少の影響があったものの、ディズニー・プレミアアクセスの増加により前年同期を上回ったという。 ディズニー・プレミアアクセスとは、22年5月から導入した時間指定予約サービスのこと。スマホアプリで1回2000円(施設によって値段の変動あり)を支払うと、対象のアトラクションの入場時間を指定して予約できるシステムだ。 このように、来園者の負担が増えるチケット価格上昇や、有料サービスの導入に踏み切らなくてはいけない背景には、新エリアの開発がある。これに加えて、入場者数も大きく影響していると筆者は考える。 オリエンタルランドが公表している年度別の来園者数を見ると、18年に3255万8000人と過去最高を記録している。東京ディズニーランド開業から40年、同社はパークに投資をして入園者数を増やして収益を拡大し、さらに投資を進めるサイクルを繰り返してきたが、新型コロナウイルスの影響もあり、大幅に入所者数が減少した。 しかし入場者数が減少し、かえってコロナ禍での来園者の満足度が向上したことを機に、22年5月に公表した中期経営計画からは、1日当たりの入園者数の上限を抑える方針を打ち出した。人数を制限することで、来園者が自由に使える時間が増え、「体験価値」が上昇し、満足につながると考えているわけだ。 25年3月期の入園者数は「2600万人レベル」としており、10年以上前の09年ごろの水準に戻ることになる。入場者数が多ければ、1人当たりの売り上げ単価が高くなくとも問題ないかもしれないが、入場者を減らした上で売り上げを維持・成長させるには、来園者1人当たりの売り上げを増加させる必要がある。 待ち時間を減らし、少しでも多くの体験を提供できるプレミアアクセスや、今までの価格帯のさらに上を行く「グランドシャトー」での最上級の宿泊体験など、高価格化によって体験価値を上昇させるビジネスモデルが、今後のオリエンタルランドの戦略の中核になっていくだろう。 コアなファンはともかく、ライトな消費者からすると、エリアが拡張されようが、パレードが新しくなろうが、ディズニーはディズニーであり、入園料が上昇していることは「自分たちがディズニーに行きづらくなる」と感じるかもしれない。しかし、入場制限によって待ち時間が減れば、より多くのアトラクションに乗れたりするので、満足度は高くなり、結果的にリピートにつながると推量できる。何より「高くてもディズニーに行きたい、行ってみたい」という、ディズニーに対する消費者のロイヤリティーは年々強まっているように思われる。 テレビでは連日のようにディズニーを特集し、SNSではディズニーに行った投稿があふれている。ディズニーは一過性のブームとして消費されているわけではなく、ある種の“聖地”として学生にとっても、大人にとっても、ファミリー層にとっても、定期的に行きたくなる非日常を消費できる場所として定着しているのだ。ディズニーが人々にとって「行ってみたい場所」であり続ける限り、チケット価格を上昇してもさほど影響は出ないだろう。(ITmedia ビジネスオンライン) |
影響が無ければ良いのですが・・・