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小説 薄桜鬼『十六夜の月-総司編-』(土方×沖田)

2011-04-18 | 薄桜鬼 小説

本日は、めずらしく、沖田さん目線の話になっています。
これには、土方さん目線の方もありまして、そちらは、明日、UP予定です。

陰りを見せ始めた、新選組や、沖田さんの病。
二人が抱く想いとは?

↓↓↓

◆十六夜の月-総司-◆

 慶応元年5月。
 この月、将軍の上洛に伴い、新選組は、二条城の警護をまかされている。
 二条城では、風間、天霧、不知火など、池田屋で一度交えた、「鬼」と名乗る存在との一悶着もあったらしいけど、この警備のおり、近藤さんと、意気投合した医者が屯所にやってくることになった。
 体調を崩す隊士も多かったため、健康診断をと、頼み込み、来てもらったのだそうだ。
 僕が、自分が、労咳にかかっていると知ったのは、この時のことだった。
 けれど、土方さんが、それを知ったのは、それからまだ後のことだ。
 黙っていてくれと行ったのに、土方さんが問いただし、結局、松本先生が口をわってしまったらしい。

 それから数年の間に、様々な事があった。何より大きかったのは、将軍が変わったことだろう。
 一橋慶喜。長く続いた江戸幕府の終焉を飾ることになる将軍である。
 英名で、天使様の信頼も熱く、近藤さんは、色めき立っていたけど、土方さんは、落ち着かなげに、よく愚痴をこぼしていた。
 僕は、別にどうでもよかったけどね。どう転んだとしても、僕にできることなんて、ほんの少ししかない。
 この身が朽ちてしまう前に、少しでも多く、新選組の前に立ちふさがる敵を斬ることだけしかできないのだから。

 さらに、慶応3年3月には、山南さんが生きていることが、伊東さんにばれてしまい、黙っていることとひきかえに、御陵衛士として一くんや、平助を含む伊東派の隊士たちが離隊していった。
 土方さんは、一くんに、何かを頼んでるらしいけど、それは周りには、秘密のことらしい。

◆◆◆
 慶応三年夏。
 刀を握りしめては、震える手を抑え、そればかりを繰り返す。
 島原で、秘密裏に宴席を開く尊攘浪士たちを取り締まるべく、御用改めが行なわれた。
 その時、遭遇した、風間の言葉がひっかかる。
 「捕物に、病人までかり出すとは、な。やはり新撰組はよほど人手が不足してるとみえる」
 まともに剣もふるえない、張り子の虎。
 まさに言葉の通りだった。
 自分の病状は、あきらかに悪化を進め、御用改めについていっていることさえ、奇跡に等しい。
 伊東さんについて、一くんや、ヘイスケが新選組をでた今、人員不足は否めない事実だ。
 土方さんは、「命がけの戦いがあるかもしれねぇからこそ、一番組組長、沖田総司をつれてきた」と言っってくれたが、あの時、もし、土方さんが止めにこなければ、僕はは確実に、風間にしとめられていただろう。
 時折、嫌な咳が思考回路の邪魔をする。
 手からこぼれ落ちそうな剥き身の刀を両の手で握り、握っては離す。肩に当たって、胡坐の間にストンと落ちる。柱に背をもたれたまま、一人、冴え渡る十六夜月を眺めていた。

 
 

 「総司?」
 いつから見ていたのだろう、庭先から、土方さんが声をかけてくる。
 月明かりに照らし出された顔は、島原で、さんざんもてるのもうなづけるほど美しく整っている。
 僕は、一瞥すると、気のないふりをよそおって、眼をそらす。
 ムッとした顔をした土方さんが、ズンズンと近づいてきて、後ろから頭をこついた。
 「こら、総司。無視するんじゃねぇよ」
 目をそらしたまま、憮然とした声で言う。
 「お邪魔虫が来たから見なかったことにしたんですけど。」
 目はあわさない。
 「ひでぇやつだな。」
 石段に草履をぬいだ土方さんが、よいしょと縁側に昇ってくる。
 身をかがめて、空の月を見上げてから、僕の横に腰をおろす。
 横に転がしていたもう一振りの脇差を手にして、鞘をつけたまま前につきだす。
 もう一度、引き寄せて、ツバを引いて刀身を見つめ、カチリと鞘に戻す。

 僕はそれを目を細めながら見ていた。
 「気にしてやがるのか?風間が言ってたこと」
 本当に、この人はいつも、お見通しすぎて、ストレートに痛いところに入ってくる。
 それは、僕のことを一番理解しているからで、誰よりも僕の事を思ってくれているからだ。そうであることは、嬉しかった。
 嬉しいけれど、心が痛む。
 僕にできるのは、人を斬ることだけなのに。この身はどんどん朽ちていく。
 その刀を握ることさえ・・・。
 不器用で、心配性で、一人で人一倍、いろんなものを背負いこむ愛しい人。

 

 力になりたいのに、どうしてうまくいかないのだろう。
 近藤さんに対しても、土方さんに対しても、何かをしようとすればするほど、うまくいかない。
 一緒に、そう約束したのに。

 「誰がなんと言おうが、新選組の1番組組長はおまえしかいねぇ。そうだろう?その手に刀が握れなくなっても、動けなくなったとしても、お前と共に、この新選組を、近藤さんを、押し上げる。それだけはかわりはしねぇ。いつもみたいに、悪態ついて、喧嘩うってくれねぇと、調子がくるってしかたねぇ」
 背中あわせに、柱にもたれ、土方さんがまっすぐな、通る声で言う。
 「土方さんが調子を崩してたら、それはそれで面白いじゃないですか。」
 悪戯っぽくいうと、
 「なんだとっ」
 土方がさんの体が後ろ向きのまま抗議をしめす。
 「あはは」
 自然と笑みがこぼれる。
 きっと、ものすごく真面目な顔で言っていたのだろう、土方さんの表情を思うと、おかしい気持ちになってくる。
 本当に、かなわないね。
 それでもねぇ、土方さん、僕には、この腕でしか、この手で邪魔者を斬ることしか、できないんですよ。
 ねぇ、土方さん。

 二人、背中あわせのまま、静かに、空を見上げる。

 十六夜月。満月を超えて、かけゆく月。
 かけてもなお、かけたることを気付かせずに輝く。

<散らない花 第九章-総司->
 終

 

 

※十六夜の月=十五夜の満月をこえて、かけて行く月だが、見た目は、まだ満月とそう変わららない。満月の時よりもためらっているかのように遅く昇る。

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