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小説 薄桜鬼『十六夜の月-土方編-』(土方×沖田)

2011-04-19 | 薄桜鬼 小説

昨日の、沖田編と対になる、土方さん側からみたお話です。


だんだん、話が暗くなってきましたので、このままとりあえず、最終回までUPしていくべきか、間に、ちらちら書いてる昔の話なんかをはさむかとか悩んできました。

この間の18禁話の続きみたいなのも用意してたりするのですけどもどうしようかなぁ。

と、とりあえず、本編へどうぞ。

 

↓↓↓

◆十六夜の月-土方-◆

 慶応元年5月。
 この月、将軍の上洛に伴い、新選組は、二条城の警護をまかされている。
 二条城では、風間、天霧、不知火など、池田屋で一度交えた、「鬼」と名乗る存在との一悶着もあったのだが、この警備のおり、近藤さんと、意気投合した医者が屯所にやってくることになった。
 体調を崩す隊士も多かったため、健康診断をと、頼み込み、来てもらったのだった。。
 総司が、自分が、労咳にかかっていると知ったのは、この時のことだ。
 ただ、俺がそれを知るのは、それからまだしばらくたった後のことになる。
 松本先生に問いただし、それを聞きだすまで、総司はその事実を隠し続けた。

 それから数年の間に、様々な事があった。何より大きかったのは、将軍が変わったことだろう。
 一橋慶喜。長く続いた江戸幕府の終焉を飾ることになる将軍である。
 英名で、天子様の信頼も熱く、近藤さんは、色めき立っていたが、何かが崩れていくようで、腑に落ちない嫌な予感が渦巻いていた。

 さらに、慶応3年3月には、山南さんが生きていることが、伊東さんにばれてしまい、黙っていることとひきかえに、御陵衛士として斎藤や、平助を含む伊東派の隊士たちが離隊していった。
 「鬼」の襲撃も多々うけるようになり、総司も寝込むことが増えていた。

◆◆◆

 慶応三年夏。
 島原で、秘密裏に宴席を開く尊攘浪士たちを取り締まるべく、御用改めが行なわれた。
 その時、遭遇した、風間の言葉がひっかかる。
 「捕物に、病人までかり出すとは、な。やはり新撰組はよほど人手が不足してるとみえる」

 あいつに、いわれなくとも、わかっちゃぁいる。
 伊東さんについて、斎藤や、平助が新選組をでた今、総司をつれださなきゃいけねぇほど、人手は、ぜんぜんたりねぇし、総司の病状考えりゃ、そりゃぁ、休ませてやらなきゃいけねぇんだろうさ。
 総司の病状は、あきらかに悪化を進め、御用改めについてきていることさえ、奇跡に等しい。
 それでも、一秒だって長く、総司と共に走りたい。走らせてやりたい。
 『命がけの戦いがあるかもしれねぇからこそ、一番組組長、沖田総司をつれてきた』あれだけは、誰が何と言おうと、本心。

 月明かりの下、庭先から総司の姿をみつめる。
 ときおり、咳をくりかえしては、刀を持ち上げるしぐさをする。
 縁側の柱にもたれて、剥き身の刀を両の手で握り、握ってははなす。肩にあたって、胡坐の間にストンと落ちたのを気に、けだるげに上を見上げる。
 冴えわたる、十六夜月をぼんやりと眺めていた。

 

 俺は深いため息をつきながら、総司のいる縁側へと足を進める。
 「総司?」
 病のせいで、随分とやせた体がそれに反応し、俺の姿を一瞥する。
 一瞬だけ困ったような顔をして、何事もなかったかのように目をそらす。
 都合の悪い時はいつでも、眼をそらそうとする。
 わかりやすい奴だと思いつつ、呆れながら、さらに近づく。

 「こら、総司。無視するんじゃねぇよ」
 ずんずんと近づいて、なお、顔をそむけたままの総司の後にたつと、その頭をこついてやる。
 まだ、眼をそらしたまま、憮然とした声があいかわらずの嫌味をはく。
 「お邪魔虫か来たから見なかったことにしたんですけど。」
 俺は、一瞬口をあけて、心の中でため息を吐くと、
 「ひでぇやつだな。」
 石段に草履をぬいで、総司がすわる縁側に上った。
 身をかがめて屋根の向こうの空を見上げると、黄青く輝く、丸い月がよく見えた。

 酒は、飲める口じゃねぇが、原田や新八が、月を魚にいっぱいやろうと盛り上がるのもわからなくもない。
 目を細めながら、総司の隣に腰をおろした。
 総司が横に転がしていた、もう一振りの脇差を手にすると、力強く鞘をつけたまま前につきだす。
 もう一度、引き寄せて、ツバを引いて刀身を眺める。
 自分の顔がぼやけて写る。
 一度深呼吸をしてから、カチリと戻す。
 その姿を、総司は横目で、眼を細めながらみていた。
 
 「気にしてやがるのか?風間が言ってたこと」
 総司のことだ、自分には、人きりでしか役にたたねぇとか、思い通りにならない、自分の体をうらめしく思っているのだろう。
 あの時は、総司も、風間に嫌味のひとつもいって立ち去りやがったが、どうにもおさまらない気持ちが、もやもやと胸をうずまく。
 何をいってるのか?と人ごとをよそおおうとしているが、一瞬、ぴくりと眉が動いた。
 いつだって、人をみすかしたような態度をとり、言いたい放題な物言いをするくせに、肝心なことは言おうとしない。
 ただ、かすかに零れるそのひずみを、いつだって俺は、やり切れない思いで見せられることになるのだ。
 人一倍、つらい思いを背負いこむ、感情表現が不器用な総司。

 なんとかしてやりてぇと思うのに、どうしていつも、うまくいかないのだろうな。
 今この時でさえ、迷ってる。どうしたら一番よいのか、道が見えない。
 一緒にと、そう約束したのに。

 不器用なのは、俺も同じか・・・。
 総司と同じ、柱にもたれ、触れた肩のぬくもりを感じる。
 何もしてはやれねぇが、一つだけ、たがえねぇ思いがある。
 「誰がなんと言おうが、新選組の1番組組長はおまえしかいない。そうだろう?その手に刀が握れなくなっても、動けなくなったとしても、お前と共に、この新撰組を、近藤さんを、押し上げる。それだけはかわりはしねぇ。いつもみたいに、悪態ついて、喧嘩うってくれねぇと、調子がくるってしかたねぇ」
 総司によく届くように、ゆっくりと言葉をつむぐ。
 聴いていた、総司が肩をすくめて言う。
 どんな表情をして聞いているのか、こちらからはわからない。

 「土方さんが調子を崩してたら、それはそれで面白いじゃないですか。」
 悪戯っぽい、いつもの声で。
 「なんだとっ」
 顔をあわさぬまま、体をゆすって抗議をしめす。
 「あはは」
 総司が笑い声をあげると、こちらも自然と笑みがこぼれる。
 こうやって、悪態つけるうちは、まだ、大丈夫だと思うと、おかしい気持ちになってくる。それでもお前は、心が晴れたわけではないのだろう?
 本当に、かなわねぇな。
 いつだって、お前ばかりが前を行く。
 なぁ、総司。

 二人、背中あわせのまま、静かに、空を見上げる。

 十六夜月。満月を超えて、かけゆく月。
 かけてもなお、かけたることを気付かせずに輝く。
 否、かけたることに気づかないふりをする。

<散らない花 第九章-土方->
 終

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