野良猫本舗~十六夜桜~

十六夜桜(通称;野良猫)と申します。
薄桜鬼中心。BL、乙女ゲー話や二次イラストなど更新中。
京都旅に夢中。

小説 薄桜鬼『散らない花3』(土方×沖田)

2011-06-12 | 薄桜鬼 小説

 

◆◆◆


すべてが終わり、静けさが広がる。

状況を把握すべく、外へでると、あちらこちらに、死骸が転がり、入って日の浅いだろう隊士たちが、茫然と口をあけて立っていた。

おおかた、この惨劇を繰り広げたのは、総司なのだろうことが見てとれた。

しかし、見渡せど、その姿は、どこにもない。

いいようのない不安が押し寄せる。


「土方さん、ご無事で」

斎藤が情報収集に走りそばを離れると。

島田とともに、戻った千鶴が俺の姿をみつけて声をかけてきた。

しかし、その声すら耳に入らない。俺は必死で総司を探した。

隊士が見据える先を追う。

先ほど無理に動いたのがたたったのか、包帯から血がにじむ。

忘れていた痛みが押し寄せてくる。

「総司・・・」

不安が心臓をつかみ上げる。必死で前へとふみだす俺に、千鶴が叫び声をあげた。

「土方さん、どこへいくんですか!」

千鶴が走り寄り、留めようと腕をつかむ。その華奢な手をはらいのけて前へと進む。

「土方さん、戻って下さい」

「うるさい!!あいつを一人にしちゃぁいけねぇんだよ」

前を見据えたまま突き進む。

「沖田さんが来られていたのですか?・・・、待って下さい!私もお伴させて下さい」

「局長!」

向こうで隊士に支持をだしていた島田も気づいてそれに追随する。まだ、残党がいるかもしれないと止める声も届きはしない。

わき目もふらず、前へ前へと足をふみだす。

俺はただ、ひたすらに、重い体をひきずって歩いた。


◆◆◆


陣屋の脇の竹林の奥、空がうっすらと白み始める。

その抜け道の向こうに、光を背負う影を見つけた。

無残に、切り刻まれ紅く染まった浪士の躯が転がり、持ち手をなくした、何本ものぼろぼろの刀が無造作につきささっている。


暁に染まる光の中に、影が泳ぐ。

白とも茶色ともとれない、柔らかな髪が、風にゆらいで。

俺は、ぼんやりとしたその姿を、立ち尽くして見つめた。

「総司・・・・」

愛しいその名を呼ぶと、

こちらの姿を見つけた、影が、嬉しそうに笑う。

くったくのない、あの頃のような、悪戯めいた顔をして。

けれど、その影は、ふらふらとボウフラのように怪しくゆれて、やがて、ぼろぼろと、こぼれおちながら、崩れていく。



『僕は、消えたりしませんよ』

あの日と同じ、儚げな笑みから一滴こぼれおちる水滴が光とともに消えていく。

風にあおられて、散りそよぐ花弁のように。

陽光に煌めいて霧散して消えた。

短かったのか、長かったのか、その様をぼやけた瞳で見つめ続けた。

こぼれおちた刀が一振り、ザックリと音をたてて、地上に突き刺さる。

絡んだ細い布切れが、所在無げにたなびいた。


「土方さん」

追いついた、千鶴と島田が、声をあげて走ってくる。

それに背をむけたまま、死骸の山を越えて、その一振りに手をかける。

戦いの壮絶さを物語るかのように、原型をとどめぬほどに刃こぼれを起こした、総司の愛刀。

まだ温もりのある、突き刺さったままの、刀身を両手でつかみ、首を垂れる。

しがみつくように、体重をあずけ、膝をつく。

また・・・・・。

それにしがみついたまま、小刻みにゆれる俺の背中をみつめ、二人は、近寄ることもできず、それを見ていた。。



『土方さん、僕は、新選組の剣になりますよ。近藤さんを守る剣になるんです』

『あぁ』

『こんな僕でも、土方さんはいいんですか?』

『あぁ、かまわねぇさ。もう決めたんだ。必ず、近藤さんを押し上げてみせる。お前と一緒に・・・な』


◆◆◆


四半刻ほどたっただろうか、

目を堅く結び、やがて、意を決して立ち上がる。

刺さったままの刀を見下ろし、微笑みかけ、拳を握りしめると、そのまま、ゆっくりと、背を向けて歩きだす。

陣屋へと引き返す俺の後をあわてて、千鶴が追いかける。

「沖田さんの刀・・・」

放り出して歩き出す、そのことが理解できないのだろう。俺の服をつかんで、置き去りにされた、それに向かってたちつくす。

「あぁ、いいんだ。飾り物の刀なんていらねぇよ。誠の刀は、この手の中にあるからな」


<今度こそ・・・一緒に行こう。>


◆◆◆


いつもいつも、間に合わない。

いつも、いつも、つかんだ先からこぼれ落ちていく。


重たいものばかり残していきやがる。

それでも生きろといいやがるから・・・・。

いいやがる・・・から・・・


だから、総司、せめて、最期の最期まで、俺の生きざまを、そこで見て・・・いやがれよ。

お前が守りたかったもの全部、責任とって守ってやるから。


明治2511日、函館五稜郭で、銃弾に倒れるその日まで、鬼のごとく前を見据え、ついてくるものの、武士としての魂を守るために、一人、誠の旗を掲げたまま、銃弾の降り注ぐなか、刀一本握り璃締め、ひたすらに駆け抜けて、そして散った。

『誠にあの人は、最期まで本物の武士であったよ。』

後に語りつがれるその人の、

一人の鬼に、『薄桜鬼』と言わしめたその人の、

生きざまのごとき、凛と誇る桜が咲く。花びらが、崩れゆくその亡骸を守るように舞い散っていた。


散ってなお、咲き誇るのは・・・。


<散らない花 最終章>

−完−


Web拍手→

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿