野良猫本舗~十六夜桜~

十六夜桜(通称;野良猫)と申します。
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小説 薄桜鬼『散らない花2』(土方×沖田)

2011-06-12 | 薄桜鬼 小説

 

陣屋へのりこむ一団を目視すると、総司は静かに、剣をぬく。

その鉄の重みが手のひらに伝わる。かつてあれだけ、軽々と振り回していたその一振りは、とてつもなく重く感じられた。

握る力をなくした腕が、刀を落としてしまわないように、細くちぎった布で、ぐるぐるとまきつける。


たとえ、ここで果てるとしても、あの人を生かしてみせる。

誰よりも、あの近藤さんが生かしたかった人を、新選組を背負うその人を。誰よりも大好きな・・・

浪士や、隊士たちが入り乱れての乱闘が始まる。

総司は、迷わず、陣屋の中を目指した。

途中、総司に気付いた、隊士たちが声をあげたが、

「僕にかまってる暇があったら、浪士どもをなんとかしなよ。陣屋の中まであげて、どうするのさ」

怒りまじりに声をあらげて先へと切り込む。

多勢で押し掛けた浪士どもが、もう、屋内にまで入り込んでいる。

頼りの斎藤も、会津藩への用向きで不在ときてる。

先の戦いでの負傷者が多かったのも災いしていた。


目指す部屋をみつけると、その中からも刃がかち合う音が聞こえた。

中に数人、襖扉をあけようとすると、総司をおった浪士どもも多勢でせまってくる。

「ちっ」と舌打ちをしながら総司がそれを薙ぎ払う。

と同時に部屋の中から、「ぎゃー」という断末魔の悲鳴があがり、襖ごと、吹っ飛んできた。

追いかけるように、そのできた空洞から外へでようとした瞬間目にうつる総司の姿に、瞠目する。

それをしり目に総司が、次々と多勢の浪士をきりふせる。

それでも埒があかない。


「貴様、何者だ!!」

一歩もひるまぬ総司を目にした浪士たちが、口々に声をあげる。

総司は不敵な笑みを浮かべて見せた。

みるみるうちに、髪が白く染まりゆく。

風に揺れる髪の隙間から、紅い瞳があやしくゆれる。

「化け物・・・」

その姿の変貌に、おののく浪士を射すくめて自分の存在をたからかに名乗る。

「新選組、一番組組長、沖田総司!!この先へ行こうとする奴は、僕が全員斬って捨てる」

腕についた血の塊をぞろりと舌でなめとりながら、刀を握る手に力をこめる。

新選組にあだ名すものを許しはしない。

言い終わるが早いか、閃光が閃く。

立ち向かう幾多の群れに、おくすことなく、打突をくりだす。

『まだ、戦える』

新撰組、最強の剣士。

近藤勇に育てられ、土方歳三に愛された、1番を背負うその名を。

血しぶきが、その身をよごし、視界をさえぎろうとも、一歩もひくわけにはいかないのだから。


俺もまた刀を構え直し、その戦線に加わる。

何故、そこに総司がいるのか、それを聞いてる暇はなかった。

総司と背中合わせに浪士どもと対峙する。

「ちょっと、土方さん、隊士の教育、なってないんじゃないですか?」

背中がふれるなり、総司が不平をいいだす。

「うるせぇ、相変わらずの人手不足なんだよ」

緊張感のかけらもない会話。

「ほんと、これじゃぁ、おちおち休んでられないじゃないですか。千鶴ちゃんはどうしたんです?」

「あぁ、島田に頼んで裏口から逃がした。」

「そういうところはぬかりないんだ」

向かい来る浪士どもをあしらいながら、無駄口をたたき、前からくる浪士を蹴飛ばし、刀を振るって次の新手をねじふせる。


懐かしい、まるでまだ、日野にいたころのようだった。

喧嘩をうってくる輩の挑発をかっては、二人で暴れた。

総司はめっぽう強かったし、俺も、そうだったから、よくこうして、総司が嫌味をいい、俺もそれにのって、こんな調子で戦っていた。

それを知った、近藤さんや姉には、よく怒られたものだが、総司ときたら、

「僕のせいじゃないですよ。土方さんが喧嘩を買うからいけないんです。囲まれちゃったら、倒すしかないじゃないですか」

と言うものだから、自分が先に喧嘩を買ったくせに人のせいにしやがって、と言い合いが始まり、「まぁまぁ」と困った顔をして近藤さんがなだめ、姉は深いため息をはく。

あまりにとめどなくやっていると、しまいには、姉が切れて、木桶にためた水を勢いよくかけはなち、水浸しで二人、茫然と姉を見上げた。それが日課のようなものだった。



斬っても斬ってもきりがない。

風間にやられた切り傷が、ずきりと痛む。嫌な汗が額を伝わり、背中へとおちていく。

「きつそうですね、土方さん。けが人はそっちで休んでたらどうです?」

総司がいう。

そういう総司も、息があがってきていた。

羅刹で、常人ではない力を発揮しているとはいえ、労咳を抱えた総司にとって、これほど動きまわるのは、自殺行為に等しい。

「てめぇにだけは言われたくねぇな。そっちこそ病人のくせに無茶しやがって」

「ご老体の土方さんと違って、僕はまだ若いですから。多少無理をしても平気なんですよ」

「誰が老体だ、まだまだ、負けるわけにゃぁいかねぇんだよっ!!」

まだ動こうとする、足元の浪士の手を踏みつけ、横からくる奴の溝打ちに、刀の柄を力強くうちこむ。

総司の打突が、得意の二段突きを見舞う。

それでも絶えずに無駄口をたたく。

こいつがいれば、負けることなどありえないと信じているから。


「副長、ご無事ですか」

裏口のほうから、隊士が数人入ってくる。先頭にいたのは、斎藤だった。

会津藩に用向きにでていたのだが、どうやら帰ってこれたらしい。

「遅いよ、一くん」

打突でつらぬいた浪士を足でけり倒しながら、援軍に笑みを送る。

「総司・・・」

斎藤が、驚いた顔で口をあけた。襲いかかる浪士を五月蠅いとばかりに腕で押しのけながら、抜刀を放つのを忘れない。

「一くんが来たなら、ここは大丈夫だね。僕は、外のやつらをなんとかしてくるよ。」

総司が身をひるがえし、突破をかけようとする。

「待て、総司!」

斎藤が声をあげるが、総司はにいっと笑うと、

「土方さんは、まかせたよ、一くん」

猫のように軽やかに、止める間もなく、刀を翻して廊下の闇へと消えていった。


-つづく-

 

 


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