野良猫本舗~十六夜桜~

十六夜桜(通称;野良猫)と申します。
薄桜鬼中心。BL、乙女ゲー話や二次イラストなど更新中。
京都旅に夢中。

小説 薄桜鬼 もう一つの最終章 『散らない花-2』(土方×沖田)

2011-07-12 | 薄桜鬼 小説

◆◆◆
陣屋の脇の竹林の奥、空がうっすらと白み始める。
その抜け道の向こうに、光を背負う影を見つけた。
無残に、切り刻まれ紅く染まった浪士の躯が転がり、持ち手をなくした、何本ものぼろぼろの刀が無造作につきささっている。
その暁に染まる光の中に、影が背中を向けてゆらりと動く。
真っ白な羅刹の髪が、飛び散った血で紅くそまり、風にゆらいでいた。
俺は、ぼんやりとしたその姿を、立ち尽くして見つめた。
「総司・・・・」
愛しいその名を呼ぶと、こちらの姿を見つけた影が、ふらりと揺れて、ゆっくりと振り向いた。
紅い双眸が俺をとらえて光る。
俺の姿を凝視すると、眼を座らせて腕を持ち上げる。
手にした刀の刃を紅い舌がぞろりと舐めた。
「総司・・」
あまりに、多くの人を殺し、血にのまれ、狂う羅刹。
総司の顔をした・・・・。
『もしも、僕が血に狂ってしまうようなことがあったら、その時は、土方さんが斬って下さいね。』
忘れたかった言葉が蘇る。
「総司」
もう一度名を呼ぶ。
獲物をみつけて喜び光る
瞳は、明らかに、総司の自我をもたぬ羅刹の姿にうつって見えた。
ニイッと口の端が引きあがる。
息を飲み、目を閉じて、自分の刀に手をかけ、それを曳いて構えた。
空気を読み、戻って欲しいと願いながら、間合いをとる。
しかし、目を見開いた総司が、自身の刀を構えて、飛び込んできた。
「くっ」
どこに、これほどの力が残っていたのかと思うほどの衝撃が、しのいだ刀に伝わって四肢をしびれさせる。
すぐさま、構え直して、次の衝撃にそなえる。
願いを打ちのめすような次の衝撃がさらに、刀の刃を押し上げる。
さすがに、近藤さんの一番弟子、新選組最強と謡われた剣の腕は、一筋縄ではかえせない。
油断をすると、鋭い二段突きが容赦なく差し迫る。
狂気に満ちた顔が、クククと笑いながら、息があがる、俺のあがく姿を舐めるように見下ろした。
「くそったれ、総司っ!!」
ガンっと激しく、剣をあやつり、その手を払う。
『何故、こうなる?何故、こんなことになる?』
 総司の放った剣先が、腕を裂く。
 自分にも流れる羅刹の血が、それを追うようにふさいでいく。
 総司に放ったその剣筋もまた、スーッと何事もなかったかのように消えた。
「土方さんっ」
「局長っ!!」
追いついた斎藤と千鶴が、声をあげるが、その手の先で嘲笑う、総司の姿に目を見開いた。
斎藤が、自分の刀に手をかける。
 「斎藤、手を出すなっ!!」
 総司に対峙したまま、俺はありったけの怒声をはなつ。
 「しかしっ!!」
 斎藤が食い下がるが、俺は引く気はない。
 「手を出すなっ」
 その鬼気迫る声に、刀に手をかけたまま、斎藤が息をのんだ。
 降り注ぐ次の一振りをさらに、押さえて、間合いを測る。
 容赦なく繰り出す刀の切っ先が、また俺の腕を斬り裂く。
 「痛っ」
 唇をかみ、それに耐える。
 人の力では勝てぬその力に、荒い息を繰り返し、力を開放する。
 総司と同じ羅刹の力を。
 黒い髪が、白く色を変えて行く。
 瞳は紅く、総司を睨んだ。
 負けるわけにはいかなかった。
 生きて、新選組を守る。
 近藤さんに託されたあいつらを守なくちゃぁいけねぇ。
 こんな列強にも耐え、ついてきてくれた奴らを。
 
 最期の約束、これくらい、守れねぇなら、俺の立つ瀬がない。
 そうだろう?
 目の前の狂気した総司の奥底に眠るだろう、心に語りかける。
 お前に、俺は殺させない。
 必ず、俺が、お前を斬る。
 斬ってやるから・・・。
 襲い来る総司に向かい、足元を蹴りあげて、砂をまく。
 ひるんだすきに、次の手をだす。
 それでもさすがは総司だ、それくらいじゃぁ、やらせてくれねぇか。
 また、次の手を考える。
 そうして何度も交わし、剣をとらえ、押しやり。そして・・・
 「ぐあっ」
 鈍い総司の悲鳴が、竹林に響く。
 俺の手に握られた、刀の剣先が、まっすぐに総司の心臓をつらぬく。
 その、ほんのわずかな瞬間、総司が安堵した顔で笑った・・・気がした。
 ささったまま、落ちてくる身体を俺はその腕で抱きかかえた。
 「・・・・・土方・・さ・・・ん」
 総司の声。
 「そう・・・じ・・お・・・前・・」
 気のせいじゃない・・・
心臓を貫いたからといってすぐに正気に戻るわけがない。
・・・こいつは、初めから・・・。
 痛みに耐えながら、上げられた顔が太陽の光にゆらいた。
くったくのない、あの頃のような、悪戯めいた顔をして。
「ごめん・・ね、土方さん・・・」
けれど、その形は、ふらふらとボウフラのように怪しくゆれて、やがて、ぼろぼろと、こぼれおちながら、崩れていく。
ざらりとした、灰の感触がはらはらと、頬をあたって零れていく。
『僕は、消えたりしませんよ、今度こそ、あなたのそばについていてあげるから・・』
消えゆく中、小さく薄れていく声が耳を駆け抜けていった。
あの日と同じ、儚げな笑みから一滴こぼれおちる水滴が光とともに消えていく。
風にあおられて、散りそよぐ花弁のように。
「総司っ!!」
陽光に煌めいて霧散して消えた。
目の縁を涙がにじむ。
とめどなく頬を伝って零れ落ちた。
短かったのか、長かったのか、その様を腕に抱えたまま、ぼやけた瞳で見送った。
こぼれおちた刀が一振り、ザックリと音をたてて、地上に突き刺さる。
絡んだ細い布切れが、所在無げにたなびいた。
その様を、見て、千鶴が膝をついて、その場に崩れ落ちる。
怪我をしないようにと守っていた斎藤が、やはりその双眸を開いたまま、千鶴の肩を支えていた。
それに背をむけたまま、足元につきささる、その一振りに手をかける。
戦いの壮絶さを物語るかのように、原型をとどめぬほどに刃こぼれを起こした総司の愛刀。
まだ温もりのある、突き刺さったままの、刀身を両手でつかみ、首を垂れる。
しがみつくように、体重をあずけ、膝をつく。
・・・・・。
それにしがみついたまま、小刻みにゆれる俺の背中をみつめ、二人は、近寄ることもできず、見ていた。。
『土方さん、僕は、新選組の剣になりますよ。近藤さんを守る剣になるんです』
『あぁ』
『こんな僕でも、土方さんはいいんですか?』
『あぁ、かまわねぇさ。もう決めたんだ。必ず、近藤さんを押し上げてみせる。お前と一緒に・・・な』
消えて行く約束。
『近藤さんの願い、生きて、しっかり守ってくれなくちゃ、いけないんですよ。でも、大丈夫ですよ。僕は、ここにいます。たとえ、この身がつきたとしても、です。人であるあなたのそばにも、鬼の局長、である、あなたのそばにも。だから、局長仕事で胃がキリキリしたら、僕のところで泣いたらいいですよ』
近藤さんの願いには、お前を守るってことも入ってんだよ、馬鹿野郎が。
てめぇの姿がなきゃ、泣けねぇだろうが・・・
胃が痛くなったら誰が面倒みるんだよ。
勝手なことばかりいいやがって、
こんな事まで・・・・。
本当に、我儘で、我儘で・・・・・最期まで・・・・・・・・・・素直じゃねぇ・・・・。
◆◆◆
四半刻ほどたっただろうか、
目を堅く結び、やがて、意を決して立ち上がる。
刺さったままの刀を見下ろし、微笑みかけ、拳を握りしめると、そのまま、ゆっくりと、背を向けて歩きだす。
陣屋へと引き返す俺の後をあわてて、千鶴と斎藤が追いかける。
「沖田さんの刀・・・」
放り出して歩き出す、そのことが理解できないのだろう。走り寄った千鶴が、俺の服をつかんで、置き去りにされた、それに向かってたちつくす。
「あぁ、いいんだ。飾り物の刀なんていらねぇよ。誠の刀は、この手の中にあるからな」
そう言って、笑いかけた。
今度こそ・・・一緒に行こう。
◆◆◆
いつもいつも、間に合わない。
いつも、いつも、つかんだ先からこぼれ落ちていく。
重たいものばかり残していきやがる。
それでも生きろといいやがるから・・・・。
いいやがる・・・から・・・
だから、総司、せめて、最期の最期まで、俺の生きざまを、そこで見て・・・いやがれよ。
お前が守りたかったもの全部、責任とって守ってやるから。
てめぇがもう、疲れたって駄々こねるまで、生き抜いてやるよ。
そうしたら、遅いって、いつになったら、いちゃいちゃしてくれるんですか?とか言いながら、迎えにくればいい。
明治二年五月十一日、函館五稜郭で、銃弾に倒れるその日まで、鬼のごとく前を見据え、ついてくるものの、武士としての魂を守るために、一人、誠の旗を掲げたまま、銃弾の降り注ぐなか、刀一本握り璃締め、ひたすらに駆け抜けて、そして散った。
『誠にあの人は、最期まで本物の武士であったよ。』
後に語りつがれるその人の、
一人の鬼に、『薄桜鬼』と言わしめたその人の、
生きざまのごとき、凛と誇る桜が咲く。
花びらが、崩れゆくその亡骸を守るように舞い散っていた。
散ってなお、咲き誇るのは・・・。

 

 

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