野良猫本舗~十六夜桜~

十六夜桜(通称;野良猫)と申します。
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小説 薄桜鬼 もう一つの最終章 『散らない花-1』(土方×沖田)

2011-07-12 | 薄桜鬼 小説

終章 『散らない花』(土方歳三)
(慶応四年四月 会津)
「あんたがついていながら!何故、近藤さんを見殺しにしたんですか!!」
総司が襟元をつかみながら、激しく詰め寄る。
新選組局長である、近藤勇が、投降し、斬首させられたことを知った総司は、無我夢中で、馬を走らせ、俺のいる会津においたこの陣屋まできたのだ。
江戸で別れたあの日から、たった二カ月。
風間との一戦で大きくおった傷を治し、立て直しをはかるべく、駐屯していた最中のことだった。
風間の攻撃はすさましく、それを受けるために、自らも変若水をのみ、羅刹となって戦った。
そうまでして突き進もうとする俺の姿を、近藤さんは身の詰まされる思いで見ていたのだろう。
きっとそれは、あの日、羅刹になった総司を目のあたりにした俺と、そう変わらない思い。
『なぁ、歳。そろそろ楽にさせてくれ。俺を担ぎあげるために、あちこち走りまわって、しまいには羅刹にまでなって・・・。そんなお前を見ているのは、辛いんだ』
そう言って、今まで、言ったこともないくせに、局長命令と言い放ち、近藤さんは俺を生かした。
何もできなかった、何も・・・。
どれだけ、責められても、何一つ口にすることはできなかった。
一緒に守ると誓った人、何をおいても連れ帰らなけりゃいけなかった人を。
置いて、きちまったのだから。
この人しかいないと信じ、あきらめきれず、抱いた夢を、侍になるという夢を一緒に歩いてきた。
百姓あがりの田舎者が、ここまで這い上がるのに、血を嘗めるような努力をしてやっとつかんだはずの、儚い夢。
自分ひとり生き延びて、ここにいる。
こんなはずではなかったのに。
総司が、どれだけの思いを抱いて、ここまできたのかなど、痛いほどわかるのだ。
何故?それは、俺自身が一番・・・・。
「どうして・・・」
俺の胸襟を握りしめたまま、力なく、その胸元に、総司が頭をうずめる。
ただなされるがまま、俺はその体重を受け止め、天空を見上げた。
長い沈黙。
「すまない・・」
絞り出した声は、自分自身の心をえぐる。
胸にしがみつき、声を出さずに泣く総司を抱きしめることすら、罪な気がした。
 そうして、どれくらい、総司が俺にしがみついていたのか、月明かりが、二人を照らす。
と、ふいに総司が、苦しげに、身体を揺らした。。
「けほっ、カハッ」
 激しい咳を繰り返し、総司が服をつかんだまま、胸をえぐる。
何度も激しい咳をして、鉄くさい血の匂いが口の中に広がる感覚に、総司が苦痛の表情を浮かべ、脂汗がにじみ出る。
無理をしたつけがきている。
体中におもりをつけて歩いているような感覚が、総司の頭上から全身へと重力をかける。
「グッ」
やがて、喉を突き上げる逆流が、押し上げて、俺から身体を話、口を押さえた瞬間に、赤黒い血液が勢いよく零れ落ちた。
「・・・・ぁ」
とめどなく、何度も喀血を繰り返す。
「総司」
あわてて、その背を撫でるが、荒い息を繰り返しながら、咳と喀血の苦しさに、歯を噛み胸を上下させている。
より強く、押し上げた逆流が、今までにないほどの血を肺から押し出し、口を押さえた手のひらから、紅い水滴がボタボタとこぼれ、砂地を染めた。
立ちこめる血の匂いに、俺の血がざわめく。
羅刹となった身が、血の誘惑にひきよせられる。
なんとか衝動を抑えながら、崩れ落ちる総司の身体をだきとめていた。
◆◆◆
運ばせた部屋に一人残り、総司のそばに腰かける。
青白く、明かりに照らされる総司の頬に手をふれて、かかる前髪をすく。
『トシ、新選組の隊士たちと、それから・・・総司を宜しく頼むよ』
最期に残した、近藤さんの言葉がよぎり、目の前が霞んだ。
「土方さん、泣いてるんですか?」
気がづけば、床にふした総司が、まっすぐに俺の顔を見ていた。
俺はあわてて、自分の眼がしらを手の甲でぬぐった。
「泣いて・・ねぇよ」
鼻をすすり、そっぽを向く。
「泣いても、いいですよ?」
クスリと総司が笑う。
「泣かねぇよ」
「全く、強情な人だなぁ。・・・・・土方さん、こっちを向いて下さい。」
あわせる顔がなく、違う方を向く俺の袖を総司がひっぱる。
「俺は・・」
「こっちを向いて下さいよ」
言いかける俺の袖をさらに総司がひっぱる。
しぶしぶ向けた俺の顔を見て、総司が目を細め、腕につかまりながら身体を起こす。
「総・・・司」
身を起こした総司の唇がぐっと、顔を寄せ、俺の唇に重なる。
 そして、首に腕をまわし、耳元に囁く。
 「・・・・土方さんが、生きていて、良かった」
 「・・・・」
 「おかしいですね。近藤さんを亡くしたらもっと、悲しいと思っていたのに、土方さんのことばっかり考えて、僕はここまで来たんです。土方さんが負傷してるって聞いて、心臓が・・・止まるかと・・生きていると分かったら、ひどいことを・・」
 ギュッとつかまる総司の腕の力が少しだけ強くなる。
 「総司・・・・本当に・・・」
 謝罪しようとする俺の口を総司は人差し指を差し入れて制止した。
 「駄目ですよ、土方さん。近藤さんは、新選組を、土方さんに託した、そうでしょう?」
 「・・・あぁ」
 「なら、僕が守るべき人は、土方さん、あなたじゃないですか。僕の大好きな近藤さんが、あなたに託したのでしょう?あなただから、託したんです。近藤さんは、そういう人ですから。だから、悔んでいる時間なんて無いんじゃないですか?近藤さんの願い、生きて、しっかり守ってくれなくちゃ、いけないんですよ。でも、大丈夫ですよ。僕は、ここにいます。たとえ、この身がつきたとしても、です。人であるあなたのそばにも、鬼の局長、である、あなたのそばにも。だから、局長仕事で胃がキリキリしたら、僕のところで泣いたらいいですよ」
 「それは、・・痛い話だな」
クスクス笑う総司の身体を今度は俺が抱きしめる。
 『お前は、強いな、総司。追いかけても、追いかけても、一歩前を逃げて行く。』
もう人眠りするからと言うので、部屋をあとにする俺の背中を見つめながら、総司は心の中で呟く。
『土方さんと共に、ありたかった・・・あなたのそばに・・・いたかった・・
いてあげれれば、良かったのに・・・。
あなたは、一人、どんな思いで、ここまで来たのだろう。
もう、僕にはそれほど時間がない。
この肺も、この手にあるまがいものの力すら・・・』
総司は、布団で顔を覆い、ギュッとそれを握りしめた。
胸元に、忍ばせた、俺の髪を、そっと開いて、抱き寄せる。
「ゴホッゴホッ」
付きあげる、咳に耐えながら、眼を閉じた。
◆◆◆
次の日の夕刻、陣屋はにわかに騒がしく、多勢の男たちがおしかけて、乱闘が始まっていた。
『土方を探せっ』
怪我をしていると効きつけた浪士たちが、今が好機とばかりに、攻め込んできたのだ。
その声を聞きつけて、総司は服を整え、枕元の刀を握りしめる。
俺の部屋は、総司のいる場所とは、逆の離れにあった、
万が一にこういったことがあった時、少しでも離れた場所の方が、逃しやすいと考えていたからだ。
しかし、総司は、そこを抜けだし、襲撃をかけようとする集団を追う。
気を張り詰めているせいが、不思議と、あれだけひどかった咳はなりをひそめていた。
  
陣屋へのりこむ一団を目視すると、総司は静かに、剣をぬく。
その鉄の重みが手のひらに伝わった。
かつてあれだけ、軽々と振り回していたその一振りは、とてつもなく重く感じられた。
握る力をなくした腕が、刀を落としてしまわないように、細くちぎった布で、ぐるぐるとまきつける。
たとえ、ここで果てるとしても、あの人を生かしてみせる。
誰よりも、あの近藤さんが生かしたかった人を、新選組を背負うその人を。
誰よりも大好きな・・・
浪士や、隊士たちが入り乱れての乱闘が始まる。
総司は、迷わず、その人がいる、陣屋の中を目指した。
途中、総司に気付いた、隊士たちが声をあげたが、
「僕にかまってる暇があったら、浪士どもをなんとかしなよ。陣屋の中まであげて、どうするのさ」
怒りまじりに声をあらげて先へと切り込む。
多勢で押し掛けた浪士どもが、もう、屋内にまで入り込んでいた。
頼りの斎藤も、会津藩への用向きで不在ときている。
先の戦いでの負傷者が多かったのも災いしていた。
目指す部屋をみつけると、その中からも刃がかち合う音が聞こえた。
中に数人、襖扉をあけようとすると、総司をおった浪士どもも多勢でせまってくる。
「ちっ」
と舌打ちをしながら総司がそれを薙ぎ払う。
と同時に部屋の中から、
「ぎゃー」
という断末魔の悲鳴があがり、襖ごと、吹っ飛んできた。
追いかけるように、そのできた空洞から外へでようとした瞬間目にうつる総司の姿に、瞠目する。
それをしり目に総司が、次々と多勢の浪士をきりふせる。
それでも埒があかない。
「貴様、何者だ!!」
一歩もひるまぬ総司を目にした浪士たちが、口々に声をあげる。
総司は不敵な笑みを浮かべて見せた。
みるみるうちに、髪が白く染まりゆく。
風に揺れる髪の隙間から、紅い瞳があやしくゆれる。
「化け物・・・」
その姿の変貌に、おののく浪士を射すくめて自分の存在をたからかに名乗る。
「新選組、一番隊組長、沖田総司!!この先へ行こうとする奴は、僕が全員斬って捨てる」
腕についた血の塊をぞろりと舌でなめとりながら、刀を握る手に力をこめる。
新選組にあだ名すものを許しはしない。
言い終わるが早いか、閃光が閃く。
立ち向かう幾多の群れに、おくすことなく、打突をくりだす。
『まだ、戦える、もう少し・・・もう少しだけ』
新選組、最強の剣士。
近藤勇に育てられ、土方歳三に愛された、1番を背負うその名を。
血しぶきが、その身をよごし、視界をさえぎろうとも、一歩もひくわけにはいかないのだから。
俺もまた刀を構え直し、その戦線に加わる。
何故来たのか?と論議している時間を周りは与えてくれそうにない。。
総司と背中合わせに浪士どもと対峙する。
「ちょっと、土方さん、隊士の教育、なってないんじゃないですか?」
背中がふれるなり、総司が不平をいいだす。
「うるせぇ、相変わらずの人手不足なんだよ」
緊張感のかけらもない会話。
「ほんと、これじゃぁ、おちおち休んでられないじゃないですか。千鶴ちゃんはどうしたんです?」
「あぁ、島田に頼んで裏口から逃がした。」
「そういうところは、ぬかりがないんだっ」
向かい来る浪士どもをあしらいながら、無駄口をたたき、前からくる浪士を蹴飛ばし、刀を振るって次の新手をねじふせる。
懐かしい、まるでまだ、日野にいたころのようだった。
喧嘩を売ってくる輩の挑発を買っては、二人で暴れた。
総司はめっぽう強かったし、俺も、そうだったから、よくこうして、総司が嫌味をいい、俺もそれにのって、こんな調子で戦っていた。
それを知った、近藤さんや姉には、よく怒られたものだが、総司ときたら、
「僕のせいじゃないですよ。土方さんが喧嘩を買うからいけないんです。囲まれちゃったら、倒すしかないじゃないですか」
と言うものだから、自分が先に喧嘩を買ったくせに人のせいにしやがって、と言い合いが始まり、
「まぁまぁ」
と困った顔をして近藤さんがなだめ、姉は深いため息をはく。
あまりにとめどなくやっていると、しまいには、姉が切れて、木桶にためた水を勢いよくかけはなち、水浸しで二人、茫然と姉を見上げた。
それが日課のようなものだった。
斬っても斬ってもきりがない。
風間にやられた切り傷が、ずきりと痛む。嫌な汗が額を伝わり、背中へと落ちていく。
「きつそうですね、土方さん。けが人はそっちで休んでたらどうです?」
総司がいう。
そういう総司も、息があがってきていた。
羅刹で、常人ではない力を発揮しているとはいえ、労咳を抱えた総司にとって、これほど動きまわるのは、自殺行為に等しい。
「てめぇにだけは言われたくねぇな。そっちこそ病人のくせに無茶しやがって」
「ご老体の土方さんと違って、僕はまだ若いですから。多少無理をしても平気なんですよ」
「誰が老体だ、まだまだ、負けるわけにゃぁいかねぇんだよっ!!」
まだ動こうとする、足元の浪士の手を踏みつけ、横からくる奴の溝打ちに、刀の柄を力強くうちこむ。
総司の打突が、得意の二段突きを見舞う。
それでも絶えずに無駄口をたたく。
こいつがいれば、負けることなどありえないと信じているから。
「副長、ご無事ですか」
裏口のほうから、隊士が数人入ってくる。先頭にいたのは、斎藤だった。
会津藩に用向きにでていたのだが、どうやら帰ってくることが出来たらしい。
「遅いよ、一くん」
打突でつらぬいた浪士を足でけり倒しながら、援軍に笑みを送る。
「総司・・・」
斎藤が、驚いた顔で口をあけた。
襲いかかる浪士を五月蠅いとばかりに腕で押しのけながら、抜刀を放つのを忘れない。
「一くんが来たなら、ここは大丈夫だね。僕は、外のやつらをなんとかしてくるよ。」
総司が身をひるがえし、突破をかけようとする。
「待て、総司!」
斎藤が声をあげるが、総司はにいっと笑うと、
「土方さんは、まかせたよ、一くん」
猫のように軽やかに、止める間もなく、刀を翻して廊下の闇へと消えていった。
◆◆◆
すべてが終わり、静けさが広がる。
状況を把握すべく、外へ出ると、あちらこちらに、負傷者と死骸が転がり、入って日の浅いだろう隊士たちが、茫然と口をあけて立っていた。
おおかた、この躯の惨劇を繰り広げたのは、総司なのだろうことが見てとれた。
しかし、見渡せど、その姿は、どこにもない。
いいようのない不安が押し寄せる。
「土方さん、ご無事で」
斎藤が情報収集に走りそばを離れると。
島田とともに、戻った千鶴が俺の姿をみつけて声をかけてきた。
しかし、その声すら耳に入らない。
俺は必死で総司を探した。
隊士が見据える先を追う。
先ほど無理に動いたのがたたったのか、包帯から血がにじむ。
忘れていた痛みが押し寄せてきた。
「総司・・・」
不安が心臓をつかみ上げる。必死で前へとふみだす俺に、千鶴が叫び声をあげた。
「土方さん、どこへ行くのですか!」
千鶴が走り寄り、留めようと腕をつかむ。
その華奢な手をはらいのけて前へと進む。
「土方さん、戻って下さい」
「うるさい!!あいつを一人にしちゃぁいけねぇんだよ」
前を見据えたまま突き進む。
「沖田さんも戦っていらしたのですか?・・・、待って下さい!私もお伴させて下さい」
「局長!」
向こうで隊士に支持をだしていた斎藤も気づいてそれに追随する。
まだ、残党がいるかもしれないと止める声も届きはしない。
わき目もふらず、前へ前へと足をふみだす。
俺はただ、ひたすらに、重い体をひきずって歩いた。

<2へ続く>

 


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