野良猫本舗~十六夜桜~

十六夜桜(通称;野良猫)と申します。
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小説 薄桜鬼『晦日の月』(土方×沖田)<通常版>

2011-06-05 | 薄桜鬼 小説

 

今回のタイトル『晦日の月』は、その月の最後の日である晦日、その新月間近の見えるはずのない月であることから。あり得ないことを例えたものです。
次回が、最終回となります。(随想録などは残っているのですが、本編としては、最期です。)
なお、今回は、こちらの通常版と、R18に該当する部分をくわえた完全版の2通りを用意しています。
18歳未満で、小説を読み進めていただいている方は、こちらの、通常版をご覧ください。
内容は、濡れ場部分を除いてかわりはありません。
18歳以上の方で、濡れ場部分も読みたい!という方は、R18指定の方をご覧ください。
こちらの文章をそのままに、濡れ場シーンが追加されていますので、宜しくお願いします。
いつもは、18指定は、読んでも読まなくてもOKな、随想録につっこんでいたのですが、ここだけは、どうしても本文につっこみたかったので、ややこしくて申し訳ないです。
↓↓↓
◆晦日の月◆ 土方×沖田

総司と二人、花火をした翌日の早朝。
新しく作った、洋服に腕を通すのを、総司は、布団に寝転んだまま見ていた。
長かった髪はばっさりと切り落とす。
もったいなそうに総司が見ていたが、せっかく、動きやすい洋装にすることを決めたのだ。それで、髪だけ今まで通りというのもいまいち恰好がつかない。
とはいえ、いざ切ってみると、首筋がスースーして落ち着かないものだ。
それを見ていた総司がほんのり頬をそめてはにかむ。。
「わぁ、髪切ると、ちょっとだけ若く見えたりするんですね。」
「ちょっとだけってなんだよ」
それでも嬉しそうに、しげしげと見返してくるので、こっちのほうが恥ずかしくなった。

最期のジャケットに腕を通し、襟を正して総司の方を向く。
「どうだ?おかしくねえか?」
まだ、明け方近くで暗く、ともした蝋燭の炎に浮かび上がる姿を総司が起き上って見上げる。
ひとしきり見たあと、恥ずかしそうに、布団に顔をうずめた。
「なんだよ?どこかおかしいか?」
「おかしくは・・ないですけど・・・なんていうか・・・・」
布団に顔をうずめたまま、もごもごといいごもる。
なんなのだと腰をおろして総司に近づくと、総司が嫌だとさらに顔をかくす。
「おいっ」
「もう、だって、なんか、恥ずかしいんです!!」
追いこむように、布団をめくろうとすると、布団を離さないように、ぎゅっとつかんだまま、身をじちめて、必死のかな切り声をあげた。
「恥ずかしいって」
声が笑う。
「だって、なんか、いつもと違いすぎて・・・」
布団にうもれたくぐもった声がかえってくる。
「ふうん」
そう言われると、余計に追い詰めてみたくなる。
一度はなして、あきらめたふりをしてから、小さくなる総司を見下ろし、唇の端をあげると一気にその布団をひっぱってやると油断してゆるめていた手のひらから布団がはなれる。
あらわになった体を抱きよせて、はがいじめにする。
総司は必死で見ないように、向こうをむいて抵抗をするが、強引に、その顎をひっぱって自分の方へむけた。
おそるおそる半目をあけた総司と眼があう。一瞬見つめあったあと、その唇に、自分の唇を近づけようとすると総司が声をあげた。
「駄目です、土方さん」
「それでもかまわず近づく」
「うつったらどうするんですか?」
そう言って、もう何年も口づけをかわしてはいなかった。あれだけ、交わりを求めていたはずの、総司は、かたくなにそれを拒みつづけた。
いっときよりもこうして、触れ合うことはできるようになったが、唇に触れることだけは、こばみ続ける。
総司の体が震える。それでも。
「うつらねぇよ。」
唇を重ねる。
総司のぬくもりを一つ一つたしかめるように、かたくなに閉じようとする唇をおしわってその奥へと舌を差し入れ、深く何度もからめとる。
「んんっ」
苦しそうに総司が艶めいた吐息をもらす。

まだ、時間はある。
着たばかりの洋服のボタンをはずし、胸元をはだける。
それを総司が凝視している。コクリと喉のなる音がした。
昨日まで、迷っていた。さっきまで迷っていた。
けれど、このまま去りたくはない。
昨日、心に決めたことがある。口づけをして、もしも総司がそれを求めたら、禁を解こうと。
もう、十分すぎるほど、我慢をしたのだ。長くは無い道先。
今日、今この時が今生の別れになってもおかしくはなかった。
総司が先か、今行く戦場で、自分が先にいくのか。先は見えず、地が揺らぐ。
後悔して死にたくはない。後悔して死なせたくはない。

そして総司は、俺を求めた。拒みながらも、絡む舌は熱っぽく俺を求めた。
何一つ、肝心な事を語らぬ唇が、心が、啼いている。
声にならぬ、声。
たまりにたまった鬱憤をはきつくすかのように、求めあう。
やがて、互いに欲望を放つと、
荒い息をはき、涙を流し、総司が天を仰いた。
離れようとする身体を離すまいと引き寄せて、総司の顔が、俺の髪にうもれ、声をあげる。
「好きです。。土方さんが・・好き・・」
「・・・・」
「・・・好き・・・だよ」
嗚咽のもれる押し出された声。
素直じゃない総司は、俺に対して好きとは言わない。一度も言ったことがない。
俺がどれだけ愛してると囁いても、その口からは、語らない。
どれだけ身体が反応しても認めない。
はじめて聞いた告白に、眼がしらが熱くなる。
「総司・・・」
顔があげれず、総司の身体にしがみつく。
声が震えた。
やっとの思いで顔をあげる。
総司の茶色い髪が白い布の上に、広がり。その双眸は悲しげにゆらめきながら、俺の顔を見ていた。
その姿を見下ろしながら、優しく、その髪をなでる。
そして、もう一度その胸元へ顔をうずめて抱きしめる。
「愛しているよ、総司」
聞こえる心音に耳を傾けると、ドクンドクンと早い音が何度も何度も繰り返す。
生きている音がした。
総司は何もいわず、そのまま天井を見上げていた。

「副長、そろそろ、時間なのですが」
控え目に、外から、山崎が声をかけた。
山崎も、今日、新撰組について、甲府へでることになっている。
俺は、体をおこすと、
「あぁ、すぐに行く」
そう短く返事をかえした。

もう一度だけ、総司の顔を名残惜しくみつめてから、乱れた服をなおし、出かける準備をする。
そうだ、と思いだし来るときに持ってきた風呂敷の中身をとりだす。
隊全員を洋装にかえる為に、総司の分も作らせていたのだった。
差し出された総司が、まだ布団に寝転がったまま、ちらりと横目で見て、訝しげに眉をよせる。
手の届くところへ持っていくと手をのばして受け取った。
「なんですか?これ」
「お前のぶんの洋服だよ、趣味合うのかどうかはわからねぇがな」
発注をかけるのに時間がなかった為、総司の好みを聞いてやることはできなかったから、似合いそうな色をみつくろって作らせた。気に入ってもらえるのかも謎だが、ここに置いてでるにしても、総司を璃隊させたわけではない。
そういう意味でも同じように作っておきたかったのだ。
「だって、僕、ついていけませんよ」
当然のように、総司は困った顔をしたが、それでも。
「そうだけどな、怪我や病気がよくなったら来るのだろう?その時のためにもな」
「あはは、いつになるかわからないのに」
「いいんだよ、その辺にでも飾って、早くいかなくちゃいけねぇなと思ったら、ちょっとはおとなしくしてられるだろ」
膨れたふりをして見せながら嬉しそうに洋服をつかんで笑った。
「あいかわらず、ひどいこといいますね」
「お前ほどじゃねぇってんだ」

◆◆◆

支度を終えて、外にでる。すでに用意を終えた山崎が門のそばで待機していた。
外は寒いから、見送りは良いといったが、総司は、結局、外まででてきた。
「必ず、直して、追ってこいよ」
「はい」
子供のように、無邪気に笑うその顔に、まだ消えぬ不安がゆらぐ。
「山崎、すまねぇが、ちょっとの間だけ、後ろを向いていてくれねぇか?」
「はぁ?」
いきなりふられた山崎が、何を言われたのか一瞬うけとめられずおかしな声をあげる。
俺が少し困り顔で笑いかけると、察して「失礼しました」とかしこまって後ろを向いた。
いつもなら、うつったらどうするのか、と山崎はおこっただろうが、さすがに今日は何も言わなかった。
はじめは、総司との恋仲を隠しているつもりだったが、すぐにばれた。
平隊士たちはどうかしらねぇが、長いこと一緒にいる幹部連中や、直接接することが多い山崎には、どうにも隠しきれなかったようで、かなり早い段階でばれ、原田や永倉あたりには、よくからかわれもした頃が懐かしい。
本当に、あまりにも環境がかわりすぎた。
山崎が後ろを向いたのを確認すると、今一歩、総司に歩み寄る。
自分よりも背の高い総司を見上げ、引き寄せると、軽くその唇に口づける。
「またな」
長くかわせば、別れがたくなるから。
そのまま、総司に背を向けて歩きだす。
と、不意に総司が大きな声をあげた。
「土方さんっ!!」
そして、走りよった総司は、振り向いた俺の懐に手をのばすと、腰にさげた刀をひきぬいた。
「おいっ」
とっさのことに、何をするのかと身構える。
総司はその刀を落とさないように、握り締め直し、首元で一度支え直すと、一気に、自分の髪をばっさりと切った。
いきなりのことに、俺も山崎も目を丸くする。
「洋装には、長髪は似合わないんでしょう?だから。」
そう言って、泣きそうな顔で笑うと、抜き取った刀と、その髪の束を差し出した。
「僕がいくまで、持っていて下さい。・・・僕の匂いだけじゃぁ、・・・満足できないんでしょうけど」
悪戯っぽい顔をして精一杯笑いながら、それでも、泣くことを必死で我慢しているような。
一緒に行きたいと言いたいが、言えない。一緒に来いと言ってやりたいが、言えない。それだけ、今の新撰組の状況は、暗雲の中にある。
「そうだな」
優しく笑んで、その束をうけとった。
そして今度こそ、歩き出す。幾度となく、見送る総司が咳こむ音が聞こえたが、振り返らずに前へと進んだ。


その日、新撰組は甲州鎮撫隊として進撃、その後、4月には流山に転陣するも、追い詰められ、逃げ場を失った。それを打破すべく、局長、近藤勇が投降することを決意する。
近藤さんに逃がされた俺を含む新撰組は、一路、宇都宮をめざした。さらに、そこで負傷をおったことにより、傷の治るまで、身をかくすべく、会津へと向かうことになる。
一度崩れた道筋は、二度と修復されることはなく、ただ、前へ、北へ、進むしかなかった。


 

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