野良猫本舗~十六夜桜~

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小説 薄桜鬼『散らない花1』(土方×沖田)

2011-06-12 | 薄桜鬼 小説

本編最終章です。

アニメのルートにのりつつ、こうであって欲しかったという展開でお送りしております。

今回も文字数制限にひっかかる為、数個にわけてお贈りします。

それでは、本編へ、どうぞ。

 

 

↓↓↓

 

 

◆散らない花◆


慶応44月、会津。


「あんたがついていながら!何故、近藤さんを見殺しにしたんですか!!」

総司が襟元をつかみながら、激しく詰め寄る。


新選組局長である、近藤勇が、投降し、斬首させられたことを知った総司は、無我夢中で、馬を走らせ、俺のいる会津においたこの陣屋まできた。

江戸で別れたあの日から、たった2カ月。

風間との一戦で大きくおった傷をなおし、立て直すべく、駐屯していた最中のことだった。

風間の攻撃はすさましく、それを受けるために、自らも変若水をのみ、羅刹となって戦った。そうまでして突き進もうとする俺の姿を、近藤さんは身の詰まされる思いで見ていたのだろう。

きっとそれは、あの日、羅刹になった総司を目のあたりにした俺とそう、変わらない思い。


『なぁ、歳。そろそろ楽にさせてくれ。俺を担ぎあげるために、あちこち走りまわって、しまいには羅刹にまでなって・・・。そんなお前を見てるのは、辛いんだ』

そういって、今まで、言ったこともないくせに、局長命令と言い放ち、近藤さんは俺を生かした。

何もできなかった、何も・・・。


どれだけ、責められても、何一つ口にすることはできなかった。

一緒に守るとちかった人、何をおいても連れ帰らなけりゃいけなかった人を。置いて、きちまった。

この人しかいないと信じ、あきらめきれず、抱いた夢を、侍になるという夢を一緒に歩いてきた。

百姓あがりの田舎者が、ここまで這い上がるのに、血を嘗めるような努力をしてやっとつかんだはずの、儚い夢。

自分ひとり生き延びて、ここにいる。こんなはずではなかったのに。

総司が、どれだけの思いを抱いて、ここまできたのかなど、痛いほどわかるのだ。

何故?それは、俺自身が一番・・・・。


「どうして・・・」

俺の胸襟を握りしめたまま、力なく、その胸元に、総司が頭をうずめる。

ただなされるがまま、俺はその体重を受け止め、天空を見上げた。

長い沈黙。

やがて、総司が力なく手を離す。

されるがまま、たたずむ俺の体は、すぐ後ろにあった壁にぶつかり、ずるずると、それに沿って落ちていく。

見上げる瞳と、見下ろす瞳がかちあう。

何かを言いかけて、けれど、何も言わぬまま、もう一度口をつぐみ、総司がゆっくりと背を向ける。

「沖田さん」

何もかもを見てきて知っている千鶴が、案じて声をあげるが、総司は振り返らない。

そしてまた、俺もその背中に声をかけることはなかった。

あの時、何が言えただろう。いまだに、どうすればよかったのか、わからない。

経緯など、言うまでもなく、言ったところで互いにどうにもならないことを知っている。

ただ、それでも、一言恨み事を言わずにはおけなかったのだろう。

近藤さんは、総司にとって、特別なのだ。兄のように、時に父のように。

父親や母親の愛情を知らない総司にとって、近藤さんは、総司の中で、まさにそんな無二の存在だった。

病のせいで、その場にいることができなかった無念の矛先が、ここにしか見いだせなかっただけなのだ。

「土方さん、私、沖田さんにもう一度説明を」

そう言って、走りいこうとする千鶴の腕をつかんでとめた。

「どうして?」

千鶴が責めるが、俺はゆっくりと首を振った。

どれだけ声をあらげても、決して、刀をぬかなかった、それが・・・答えなのだと思う。

怒りを露わにした瞳の向こう、最期に落としたその表情は・・・・・・。

手のひらに、爪が食い込み跡を残すほど、強く握りしめたまま、総司の後姿をぼんやりと眺める。

見えなくなったその残像を惜しむように、静かに目を閉じた。



◆◆◆


陣屋を後にした総司は、ふらふらと路地をさまよって歩いた。

時折、突き上げる胸の痛みにむせかえる。

「けほっ、カハッ」

幾度となく咳をして、鉄くさい血の匂いが口の中に広がる。

血の匂いが、ときおり、羅刹の衝動とあいまって眩暈をおこさせる。

無理をしたつけがきている。体中におもりをつけて歩いているような感覚が頭上から全身へと重力をかける。

「グッ」

幾度となく喀血を繰り返した。

より強く、押し上げた逆流が、今までにないほどの血を肺から押し出す。

口を押さえた手のひらから、紅い水滴がボタボタとこぼれ、砂地を染めていく。

荒い息をくりかえし、それに映る自分の姿をみつめて、悲しげな笑みを浮かべてみせる。

「何を、してるんだろうね」

誰にともない嘆息。

「本当に・・・何を、してるんだろうね」

同じ言葉をもう一度、つぶやいた。


◆◆◆


男たちが、陣屋に、副長をふくむ新選組をみつけ、狙っているのを知るのは、それから数時間後のことだ。

行き場もなく、結局、陣屋のそばまでもどり、近くの境内で休んでいた時。

『あれは、土方だ。間違いない』

『怪我をしている情報もある、やるなら今だろう』

不穏な会話。

総司は、のろりと立ち上がる。

『近藤さんが新選組を土方さんに託したのなら、僕も守らなくちゃ駄目・・だよね』

「ねぇ、土方さん」

大切な近藤さんを亡くしたはずなのに、不思議なくらい土方さんが生きていたことに、安堵した。

『土方さんと共に、ありたかった・・・あなたのそばに・・・いたかった・・いてあげれれば、良かったのに・・・。あなたは、一人、どんな思いで、ここまで来たのだろう』

自分にできることを・・・。

腰に据えた刀を確かめるかのように、鍔を一度ぬいて、カチンと音をならして歩きだす。

総司は、襲撃をかけようとする集団を追う。

気を張り詰めているせいが、不思議と、あれだけひどかった咳はなりをひそめていた。

  


-つづく-

 

 

 

 


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