パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

スーサイド・ショップ ★★★.5

2013年11月01日 | さ行の映画
ジャン・トゥーレの小説「ようこそ、自殺用品専門店へ」を原作に、「髪結いの亭主」の鬼才パトリス・ルコントがアニメに初挑戦したコメディー。自殺用品店を営むマイナス思考を極めた一家が、赤ちゃんの誕生を機に変貌を遂げる姿を追い掛けていく。コミックを描いた経験があるルコント監督が、その経験を生かしてダークでありながらもユーモラスなビジュアルを構築。ミュージカル仕立ての語り口もさることながら、人生の素晴らしさを高らかにうたったテーマにも魅了される。

<感想>「仕立て屋の恋」や「髪結いの亭主」で知られるフランスの巨匠パトリス・ルコントが発表したアニメーション映画を見ながら、思ったのは彼の脚本・監督らしい暗さが遺憾なく発揮されたコメディ・ミュージカルである。
とにかく人々が誰も彼も自殺しまくる、コメディタッチの物語です。アニメの色調と舞台は灰色の暗い雨がしきるディストピア。高層ビルから投身自殺者がビュンビュン飛び降りてくるので、空の鳥もうかうか飛んでいれられないほどで、こういったブラックユーモアは確かにアニメじゃないと生々しすぎて実現不可能な映像ですよね。

主人公のトゥヴァシュ一家は、先祖代々自殺用品一式を取り扱うお店を経営していて、自殺志願者たちに見合った様々な商品を、首つりロープ、腹切りセット、毒リンゴといった、自殺するのに便利なアイテムを販売する「自殺用品専門店」を開いている。貴婦人にはまるで高級な香水のような毒、金持ちの紳士には純銀の弾丸が1発だけ入ったピストルを、浮浪者には窒息用のビニール袋を厚意でタダです。

そういうわけで、商売熱心で客が引きも切らず訪れる店。この来客たちの見た目もマフラーが何気にお洒落でおフランスざます。そんなトゥヴァシュ一家も当然死に陶酔していて、父親の名前はミシマ(腹を切って死んだ)息子のヴァンサンや娘のマリリンなど、自殺者の名前を付けられており、一家は日々死を思いながら生きているのに、自殺志願者たちのため、自分たちは生きねばならないというジレンマを抱えているんです。

そこに、トゥヴァシュ一家に新しい赤ん坊アランが生まれる。ところがこのアランはこの一族にはあり得ない生きる喜びを体現したかのような子供だった。そんな末っ子のアランが誕生したことで、一家の生活が変わり始める。
姉のマリリンの誕生日に、皆が棺の形をしたケーキを囲み、「早く死にたいわ~」と祝っている中で、アランだけは年頃の姉にピンクでスケスケの美しいスカーフとアラビア音楽のCDをプレゼントするのですね。
今まで自分のことを不細工だと思っていたお姉さんが、自分も美しくなれると、人生を生き直すわけ。マリリンの中にも意外にナイスバディな自分の体を着飾ることに、奇妙な感情が芽生えてくるんです。

とにかく、バッタバッタと人が死に絶えていくのだから、でもアランによって、これだと悲劇的な結末を大きく変更させたということですよね。お店の中で、お姉さんが腰を振ってダンスを踊ると、自殺志願者のお兄さんが薬を買いに来て、マリリンの魅力的なボディにクラクラして、生きる勇気をもらいプロポーズ。そして、そのお婿さんがクレープを焼くのが名人で、今まで代々営業してきた「自殺用品専門店」をクレープ屋さんに変更したら大繁盛で、死にたいと寝込んでいた父親も元気になり、家族揃ってクレープ屋を盛り立てる。

ミュージカルだから、ふんだんに歌が入ってダンスをしたり、始めは暗い内容でしたが、最後が目出度くハッピーエンドで締め括る。
だから、ラストは原作を180度変えてしまった展開になっているようです。賛否は別れるようですが、ネガティブな人は中盤まで景気がいいほど自殺の乱打ぶりを、ポジティブな方には本作のメッセージに安堵という楽しみ方もありなんじゃないかと思うんです。とにかく、フランス、ベルギーと、アニメーションに実績のあるカナダとの合作だから、画の質もよくこういう暗い面と明るい面を映しだし、人物の造形も気に入りました。
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