パピとママ映画のblog

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三姉妹 雲南の子 ★★★★

2013年09月05日 | さ行の映画
『鉄西区』『無言歌』のワン・ビン監督が、中国で最も貧しいとされる雲南地方の寒村に暮らす幼い3姉妹の日常を追ったドキュメンタリー。近所に親戚がいるものの両親が不在で、長女10歳、次女6歳、三女4歳という幼い彼女たちが農作業と家畜の世話を行い、子どもだけで生活している様子を映し出す。貧しく過酷な環境の中たくましく生きる少女の姿を通し、中国の現状を捉えた本作は、ベネチア国際映画祭をはじめ数多くの映画祭で絶賛された。
<感想>舞台となるのは80戸の家が点在する中国雲南地方、標高3200メートルの高地。ここに暮らす10歳の英英(インイン)、6歳の珍珍(チェンチェン)、4歳の粉粉(フェンフェン)の幼い3姉妹が主人公である。中国でも最も貧しい地域と知られ、電気が通ったのもわずか5年前のこと。標高が高いため作物は充分に育たず、ジャガイモだけが貴重な食料源になっている。

過疎化が進み、村には老人と子供しかいない。この三姉妹の家にいたっては母親が子供を置いて出て行ってしまい、英英が妹の面倒を見ながら子供だけで暮らしている。
同じ村に住む祖母や親類から多少の援助があるとはいえ、長女が下の子の面倒を見ながら、わずか2頭の豚の世話や畑仕事に一日を費やし、食べ物は畑でとれるジャガイモばかり、子供だけで生活をやりくりしているのだ。数年ぶりに戻って来た父親は経済的な問題から妹たちだけを町へ移住させ、長女を村へ残すことを決める。

英英はたった一人で学校へ通い、畑仕事を続ける。薄暗い岩窟のような土間で、少女英英は一人蒸した芋を剥いて食べている。突然「羊はどこだ」という祖父の声が聞こえ、彼女は羊の群れを追って駆け出す。じめじめとした道を登り、叔母の子供が英英にもあげるか訪ねるが、「やらなくていい、全部うちのものだ」と叔母はさえぎる。親族でもこの村には、自分の家族以外を助ける余裕はない。
カメラは叔母の家を離れ村はずれに向かって走り去る彼女の後ろ姿を追う。その先には、遥か彼方まで段丘上の高原地帯が広がる。雲南は高地にあり空は高く、強風が吹きぬける。その風の中を、英英は羊を眼下に駆け抜ける。薄暗い、狭く閉ざされた土間からとてつもなく広々とした連山の風景へと転換する。
それにしても、このわずかな10歳の少女が醸し出す不思議な存在感がどこから来るのだろうか。彼女の祖父は、嫁の価値は結納金の額でしか考えず、羊の群れが自分の最大の財産と信じている。

英英が土間で自習をしていると、「勉強なんかして」と吐き捨てるように言う。子供たちは野で燃料の馬糞を集めるのが日々の仕事だ。この村にはまだ「子供時代」は存在せず、村人全員がいつも羊や豚を追い、燃料を集め、その繰り返しの日常が続く。
叔母の家にはテレビがあり、テレビのドラマの怖い場面で叔母が顔を覆ったりもするのだが、すぐ横にいる英英らはテレビにはさほど関心を示さない。
やがて父親が町での出稼ぎに見切りをつけ、妹2人、そして子守の女とその娘を連れて戻ってくる。一家は6人の大家族となった。冷たい風が吹きすさぶ中、今日も父親は畑仕事に出かけ、女と子供たちは川で洗濯をする。

三姉妹は逞しく生きている。10歳の長女が妹たちの世話をしながら畑仕事を手伝って、生計を立てていくのだ。監督はその姿を感動的に映そうとも、憐れみの視点で映そうともしない。日々繰り返される彼女たちの生活にカメラを同化させ、彼女たちと同じ目線で世界を見つめる。例えば、ぬかるみの中ですぐにドロドロになってしまう靴を焚火で乾かしたりして何とか使っている三姉妹。ずっとこのままなのかと思っていると、父親が突如戻ってきて、新品のスニーカーをプレゼントしてくれる。逃げた羊を追い掛け、妹のシラミを取り、かじかんだ足先を温めることが、貧困よりも両親の不在よりも重要なのだ。
村人の言動を常にうかがう長女の挙動、鋭い目つき、近所の少女と母親に因縁をつけられると、スケバンばりに即座に言い返す姿は、ここで生きていくための本能が顔を出す瞬間だ。特別大きな物語もなければ、幸福な結末も待っていない。虚勢を張ってきた英英が、無邪気な子供らしい顔をする瞬間をこれ見よがしに映して、観客に媚びることも当然ないのだ。しかしだ、英英の心が荒んでいて友達もいないのかと思っていたら、優しいイケメン風の男の子と案外親密な関係だったり。「えっ、そうだったの」、という驚きとともに、細部と細部が繋がり物質的な物語が訪れることの興奮たるや、構成が巧いのだ。
監督は子供たちに無意味な希望もメッセージも託さない。それでも生きていかねばならない三姉妹は、今日もまた姉が険しい顔で妹の手を引きながら歩いていく。2時間半、ずっと姉妹を映しているだけの記録映像なのに、退屈どころか全篇緊張感をもって観られるのは、姉妹の存在そのものが威厳に満ちているからだろう。
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