パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

アンチヴァイラル ★★★

2013年09月04日 | アクション映画ーア行
鬼才デヴィッド・クローネンバーグの息子、ブランドン・クローネンバーグが長編の初メガホンを取ったSFサスペンス。有名人から採取したウイルスが売買される近未来を舞台に、その密売に関与した注射技師が陰謀に巻き込まれる姿を追う。『ハード・ラッシュ』のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、『時計じかけのオレンジ』のマルコム・マクダウェルらが出演。異様な設定や世界観など、クローネンバーグ監督の手腕に期待。

あらすじ:著名人本人から採取された病気のウイルスが商品として取引され、それをマニアが購入しては体内に注射する近未来。注射技師シド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、持ち出した希少なウイルスを闇市場で売りさばきつつ、自身も究極の美女ハンナ(サラ・ガトン)のウイルスを投与していた。そんなある日、ハンナが謎の病気で急死したのを機に、異様な幻覚症状に襲われる。未知のウイルスの宿主でもあるからなのか、何者かに追われるようにもなったシド。休むことなく続く幻覚と追撃に疲弊する中、彼は自分を取り巻く陰謀の存在に気付く。

<感想>クローネンバーグの息子ブランドンが今回デビューを果たした。この作品では、グロテスクな肉体変形を重ねる過程で、その精神もやがて変容していくという、いかにも父親デヴィッドの初期作品に見られた、科学がもたらす精神的及び肉体的変化の要素が盛り込まれている。
俳優や歌手などセレブが最高に持てはやされ、彼らから譲り受けたウイルスが売買される。セレブのウイルスをマニアが注射をして倒錯的な愛を感じて、至福感、または愉悦感を味わう近未来の新手の風俗は、愛に飢えた人々のダークで空虚な心のあらわれなのか。

舞台はウイルス性疾患にかかったセレブから採血して得たウイルスを、高額で売ることを専門とするクリニック。顧客はその病原体を接種し、自分が崇拝するセレブと同じ病にかかることで、高次元の一体感を得ることができるというわけだ。そのウイルスは院外への持ち出しが厳重に管理されているため、主人公は、自らの体内にウイルスを注入することで、闇市場に売りつけている。当然、そのウイルスの作用で身も心も壊れるが、同時に企業間の陰謀にも巻き込まれていくというお話。

クリニックでウィルスを注射する技師のシドは、憧れの美女セレブ、ハンナのウィルスを自らの肉体に注射し、主人公の幻影の中で、メカニックに変形した彼の口からどす黒い液体が垂れ、両手の皮膚を突き破って鋼鉄の管が伸びるという、あまりに無防備に、悪く言えば露骨に、徐々に体調不良になって幻覚に苦しみ出す。美女セレブ、ハンナには、サラ・ガトンが演じて、ポスターやベッドの上で寝ているだけの出番なのだが、本当に綺麗なのに驚く。

現実とシュールでグロテスクな妄想を巧みに交錯させるあたりは、まるで父親作品と同じく、肉体変容を彷彿とさせる、白と黒を基調にしたモノトーンのグラフィカルな映像は、ハンナのウィルスに病むシドのみならず、温もりがまったく伝わってこない人間の孤独感を強調しているようにも見える。
ハンナのウィルスを解明するため、黒いコートとスーツを着たシドが、背中を丸めながら一人歩く姿は、どことなく退廃的で悲哀が漂い、まるで吸血鬼のように見えた。
この作品を語るために息子のクローネンバーグは、「フランシス・ベーコン」の絵画を忠実に、揺るぎなくフォーマット化している。冒頭で、自ら勤めるクリニックの巨大ポスターの前で、電子体温計を口に加えて佇む主人公の図像は、いかにも象徴的に映る。

大量のウイルス接種で、慢性的な体調不良に苦しむ主人公が、そこでかすかな吐き気をもよおすその表情もまた、絶妙である。ともかく映像スタイルが独創的。それがSF的なイメージをCGで実現したのではなく、現実にちょっとだけ手を加えたところからできていることが憎い。発病した有名人のウイルスの売買だの、有名人の細胞を培養したステーキ肉だのという、実に寒々としたおぞましい話をスタイリッシュに語るあたりは、なかなかの映像センスを感じさせる。最後の血(ウイルス)が意志を持っているように蠢くのが実に見事。
鈍くいつまでも続く頭痛を思わせる、E.C.ウッドリーによるドローン系の音楽が、禁欲的な映像と相まって、性的な描写が排除されていることも、本作品がアーティスティックな透明度を高めているようにも見えた。
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