さまよえる魂が出会った束の間の夢の世界。カンヌ映画祭常連の監督と主演女優が組んで、2003年のコンペ部門に出品されたのが本作。
物語:第二次世界大戦最中の1940年、戦火を逃れてパリから南ヘ向かう人々の列を、ナチス・ドイツ空軍の機銃掃射が容赦なく襲う。
幼い息子と娘を連れた未亡人のオデール(エマニエル・ベアール)は、恐怖と疲労から半ば放心状態で立ち往生してしまう。
そこへ突如現れた見知らぬ若者(ギャスパー・ウリエル)が親子を窮地から救い出す。イヴァンと名乗る若者は、オデールたちを安全な森の奥へ誘う。空き家となっている他人の屋敷でオデール親子とイヴァンの奇妙な共同生活が始まるのだった…。
<感想>「かげろう」という邦題は、うまく付けたものだと思う。何故かと言うと、ひっそりと悲しいこの作品を的確に表現しているから。1940年6月、ドイツ軍に攻勢をかけられ陥落寸前のパリから脱出した母親と二人の子供、未亡人のオデール(エマニエル・ベアール)が、南へ逃れようとする市民たちが街道につくる長い長い列で、身動きがとれなくなった状態からこの映画は始まります。
そこに、ドイツ軍機が現れて空爆、という、これまでのテシネ監督作品にはなかった大掛かりなスペクタルに驚かされる。が、攻撃から救ってくれた少年(ギャスパー・ウリエル)と共に、親子が金色の麦畑を抜けて、森の中の屋敷へ逃げ込むあたりから、物語は少しずつ変化していく。
フランス人気作家ジル・ペロー原作を「かなり自由に脚色させてもらった」と言うテシネ監督自身の言葉からも伺えるように、空き家となっていた屋敷が舞台となり、外界から遮断されてからの展開は、監督が原作を自分の世界に引き寄せた感が強いと思う。
電話もなく、時計も止まったまま、日々は異空間のように静かである。なのに、常に緊張感が漂う。13歳の息子と7歳の娘を持つヒロインの夫は、戦死しており、サバイバル能力に長けた得体の知れない少年に対して、彼女が抱く警戒と依存がないままになった心の揺れが、その場にいる全員に伝染していくのである。
喪失感と不安、強い拒絶に遭うことで憎しみに転じる憧れ、無知が引き起こす悲しみ。戦争中だからというよりも、いつの世でも我々の生活と隣り合わせにある悲劇をさりげなく、微妙な表現で描いている。
特に、いくつもの禁忌をはらんだヒロインとイヴァンと名乗る若者のラブシーンの醸し出す切なさは感動的です。美しいベアールと、過去を何も語らず狂気や粗暴さを垣間見せる謎の少年を演じたウリエルの輝きについては言うまでもありません。
ベアールは疲弊しきった未亡人から、子どもたちを正しく導こうと奮闘する母親、成熟したおとなの美しさで17歳の孤独な青年を魅了する女まで、ひとりの人間の持つ複雑でアンバランスな様々な顔を見せてくれる。
そのベアールと堂々と渡り合うのは、フランス映画界期待の新星ギャスパー・ウリエル。彼が演じる粗野だが幼さの残る青年は、不遜なまでのサバイバル能力を発揮しながらも、精神的な脆さを隠し切れない。
彼らは別々の世界からの哀しい逃亡者で、束の間、外界から遮断された夢の楽園で至福の時を過ごすが、否応無く残酷な現実へと引き戻されてしまう。
名匠アンドレ・テシネがつきつける現実の厳しさは、深くずっしりと心に残る。
異様な空気に侵食されていく子供を演じた子役2人の、熱演も言うまでも有りません。エマニュエル・ベアールの相手を演じた、ギャスパー・ウリエル(2003年では19歳)は2001年の「ジェヴォーダンの獣」で映画デビューを果たし、続いて「ロング・エンゲージメント」では、オドレイ・トトゥと共演している。「ハンニバルライジング」ではコン・リーと共演して、今や年上キラーとして愛され、美貌と才能で注目されているギャスパー。これからが楽しみですね。
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物語:第二次世界大戦最中の1940年、戦火を逃れてパリから南ヘ向かう人々の列を、ナチス・ドイツ空軍の機銃掃射が容赦なく襲う。
幼い息子と娘を連れた未亡人のオデール(エマニエル・ベアール)は、恐怖と疲労から半ば放心状態で立ち往生してしまう。
そこへ突如現れた見知らぬ若者(ギャスパー・ウリエル)が親子を窮地から救い出す。イヴァンと名乗る若者は、オデールたちを安全な森の奥へ誘う。空き家となっている他人の屋敷でオデール親子とイヴァンの奇妙な共同生活が始まるのだった…。
<感想>「かげろう」という邦題は、うまく付けたものだと思う。何故かと言うと、ひっそりと悲しいこの作品を的確に表現しているから。1940年6月、ドイツ軍に攻勢をかけられ陥落寸前のパリから脱出した母親と二人の子供、未亡人のオデール(エマニエル・ベアール)が、南へ逃れようとする市民たちが街道につくる長い長い列で、身動きがとれなくなった状態からこの映画は始まります。
そこに、ドイツ軍機が現れて空爆、という、これまでのテシネ監督作品にはなかった大掛かりなスペクタルに驚かされる。が、攻撃から救ってくれた少年(ギャスパー・ウリエル)と共に、親子が金色の麦畑を抜けて、森の中の屋敷へ逃げ込むあたりから、物語は少しずつ変化していく。
フランス人気作家ジル・ペロー原作を「かなり自由に脚色させてもらった」と言うテシネ監督自身の言葉からも伺えるように、空き家となっていた屋敷が舞台となり、外界から遮断されてからの展開は、監督が原作を自分の世界に引き寄せた感が強いと思う。
電話もなく、時計も止まったまま、日々は異空間のように静かである。なのに、常に緊張感が漂う。13歳の息子と7歳の娘を持つヒロインの夫は、戦死しており、サバイバル能力に長けた得体の知れない少年に対して、彼女が抱く警戒と依存がないままになった心の揺れが、その場にいる全員に伝染していくのである。
喪失感と不安、強い拒絶に遭うことで憎しみに転じる憧れ、無知が引き起こす悲しみ。戦争中だからというよりも、いつの世でも我々の生活と隣り合わせにある悲劇をさりげなく、微妙な表現で描いている。
特に、いくつもの禁忌をはらんだヒロインとイヴァンと名乗る若者のラブシーンの醸し出す切なさは感動的です。美しいベアールと、過去を何も語らず狂気や粗暴さを垣間見せる謎の少年を演じたウリエルの輝きについては言うまでもありません。
ベアールは疲弊しきった未亡人から、子どもたちを正しく導こうと奮闘する母親、成熟したおとなの美しさで17歳の孤独な青年を魅了する女まで、ひとりの人間の持つ複雑でアンバランスな様々な顔を見せてくれる。
そのベアールと堂々と渡り合うのは、フランス映画界期待の新星ギャスパー・ウリエル。彼が演じる粗野だが幼さの残る青年は、不遜なまでのサバイバル能力を発揮しながらも、精神的な脆さを隠し切れない。
彼らは別々の世界からの哀しい逃亡者で、束の間、外界から遮断された夢の楽園で至福の時を過ごすが、否応無く残酷な現実へと引き戻されてしまう。
名匠アンドレ・テシネがつきつける現実の厳しさは、深くずっしりと心に残る。
異様な空気に侵食されていく子供を演じた子役2人の、熱演も言うまでも有りません。エマニュエル・ベアールの相手を演じた、ギャスパー・ウリエル(2003年では19歳)は2001年の「ジェヴォーダンの獣」で映画デビューを果たし、続いて「ロング・エンゲージメント」では、オドレイ・トトゥと共演している。「ハンニバルライジング」ではコン・リーと共演して、今や年上キラーとして愛され、美貌と才能で注目されているギャスパー。これからが楽しみですね。
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