『母なる証明』などのポン・ジュノ監督が、フランスのコミック「LE TRANSPERCENEIGE」を原作に放つSF作。新たな氷河期が到来した地球を列車でさまよう数少ない人類の生き残りが、支配層と被支配層に分かれて車内で壮絶な戦いを繰り広げていく。『アベンジャーズ』などのクリス・エヴァンス、『JSA』などのソン・ガンホ、『フィクサー』などのティルダ・スウィントンなど、国際色あふれるキャスティングを敢行。彼らが見せる濃密なストーリー展開に加え、絶望の近未来を具現化した鮮烈なビジュアルにも目を奪われる。
あらすじ:地球温暖化を防ぐべく世界中で散布された薬品CW-7により、氷河期が引き起こされてしまった2031年の地球。生き残ったわずかな人類は1台の列車に乗り込み、深い雪に覆われた極寒の大地を行くあてもなく移動していた。車両前方で一部の富裕層が環境変化以前と変わらぬ優雅な暮らしを送る一方、後方に押し込められて奴隷のような扱いを受ける人々の怒りは爆発寸前に。そんな中、カーティス(クリス・エヴァンス)という男が立ち上がり、仲間と共に富裕層から列車を奪おうと反乱を起こす。
<感想>氷河期に突入した地球で、ただ1か所、人間が生き残る場所は、走り続ける列車だけ。そんな設定だけでショッキングな上、虐げられた最後尾に乗っている貧困層が決起し、富裕層が暮らす列車の前方へ向かって革命を起こす、超スリリングな物語で一瞬たりとも息つくヒマがありません。
ドラム缶を繋ぎ合わせて猛突進し、兵士たちを撃破したり、監獄セクションではセキュリティの達人のナムグン、ソン・ガンホを解放。クロノールというドラッグ中毒で、そのクロノールを固めて爆弾にするアイディアも最高。
扉を開けるたびに現れる兵士たち、そして黒ずくめの殺人マシン軍団。手には斧を持ち、拳銃には弾が入ってない。つまり拳銃を乱射するとガラス窓や壁に穴が開き、そこから冷気が入って来て大事になるからなのだ。
自分たちが食料として配布される黒いプロティンという食べ物。それはゴキブリを粉々にして混ぜ合わせたもの。さらには、窓のある明るい車両に子供たちの教室など、前に行くにつれだんだんと文化的になっていく。
前方車両の目を疑う風景や、それは植物園のような果物、野菜が栽培されている車両とか、魚がたくさん泳いでいる水族館みたいな車両とか、そこでは寿司職人がいて、にぎり寿司を食べさせてくれる。それに、サウナ風呂にシャワー室、バーや踊り放題のディスコクラブ、コカインや薬づけになっている富裕層の人たち。
扉を開けるたびに新たな危機が待っている。いわゆるステージクリアーものみたいな、観客は主人公たちが次の車両へのドアを開けるたびに緊張感が味わえる仕組みになっているのだ。かと思えば戦いの最中に年明けのカウントダウンが始まるってどういうこと。
要所、要所での血なまぐさいバトル、さらには濃密な人間ドラマと、あらゆる要素が絶妙にシンクロしている。
スノーピアサーを開発し、先頭車両で運転をコントロールしている、全車両を統括するウィルフォードのエド・ハリス。貫録十分で、何十年もの間地球を走り続ける列車の動力源は、原子力か?・・・先頭車両の床下に動力源があるのだが、そこには下層階級の小さい子供が働いていた。それにしても、雪崩や、雪の固まりが線路にあるのも平気で突破する列車って、線路の補修だってどうしているのだろう。
考えてみればこの列車は、戦いの場であると同時に、生活の場でもあり、そんな地上にあったすべてをぎゅっと凝縮した世界が、1台の列車内に渦巻いていることの空恐ろしさが、この緩急のリズムによってじりじりと浮かびあがってくるのだが、・・・。ラスト直前には、ある意味、生命の心理をついたとも言える、さらなる恐ろしい事実が明らかとなる。
原作がフランスのコミックということだが、残念なことに日本では未出版だそうで、救いのない悲壮感が漂う終わり方なのだが、実際には二人の生き延びた少年と少女が列車から降りて、雪山で白熊を見るという、希望が湧いてくるような終わり方になっている。
熱演や怪演を見せるのは、各国から集められた実力派キャストたち、貧乏人のリーダー格カーティスにクリス・エヴァンスが、反乱部隊の青年エドガー役には「リトル・ダンサー」の少年だったジェイミー・ベルも良かった。
そして、精神的リーダーにはジョン・ハートが、それに列車を知り尽くしている男にソン・ガンホとその娘には「グエムル~」でも娘役をしたコ・アソンが演じて、キャラが強烈で申し分ない。それに、もっともインパクトがあったのは、ウィルフォードの右腕として活躍する、メイソンを演じたティルダ・スウィントン。美女のティルダがまさかこんな姿で登場するとは、入歯を外した時には口あんぐりでした。彼女の演技の素晴らしさには恐れ入りました。
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