高見沢隆の詩的ライフ

軽井沢の木陰に吹く風のように、高原の空を渡る白い雲のようにワタクシの詩的な生活を綴ります。

万葉集ー美しき川辺の恋歌(2)

2025-01-23 11:10:19 | 軽井沢 

 こんにちは。高見沢隆の詩的ライフです。

 今回は前回の続きです。

 さらに信濃の国を流れる千曲川の上田市付近には信濃国分寺・国文尼寺があった。国分寺と国衙(こくが)(国司が地方政務を行った役所)は密接な関係にあり、国司が国分寺の造営の管理をしていたので信濃国分寺の近くには国衙(七世紀後半造)があったことになる。この信濃国分寺近くの千曲川の畔には河原があり、その辺り(上田市から千曲市)がこの歌の舞台になっているところだと思う。歌のなかの「君」はかなりの身分の高いお方と思われると同時に歌はよみ人しらずであるが、歌の作者も身分が比較的高い女性で国衙や国分寺に関係の深い人物である可能性が非常に高いと考えられる。国分寺は七四一年(天平十三年)に聖武天皇が仏教での国家鎮護のため全国に建立を命じたが、多くの国では建立がされなかったため七四七年、国分寺の造営督促の詔により建立を推進させた。しかし、信濃の国の場合、国衙は後に筑摩地方へ移転したとされている。

 これらを考えてみると玉の呪術性のことが関係してくるとも思うので国分寺の建立年代を考慮して、この歌が謡わられた年代についてはおそらく七五〇年代頃のことと思われる。

 この恋歌についてはよみ人しらずでも集団の歌とはいえないように思う。というのも作者は比較的身分の高い方を推定でき、その場合はほとんどが作者名を記されているが、たまたまこの恋歌については何らかの理由でよみ人しらずとされているだけで歌に流れている感情は恋するものの孤独感が強く滲みでている。恋する者の気持ちはだれでも変わりなく、歌にしたときはその喩えが異なるだけである。

 このような純粋な歌を万葉集でみることができることはいろいろな想いを掻き立てさせられる。純粋なゆえにこの歌には微笑みを投げかけたい。今の時代なら純粋病と一言で片づけられてしまうかも判らないが、わたしは作者の純粋な気持ちの向こうに美しくも透明な風景を観るのである。それは水の風景に似ている。 (終わり。)

                                             *歌番号については『万葉集』日本古典文学大系 岩波書店を参考に付した。

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万葉集―美しき川辺の恋歌(1)

2025-01-22 19:39:27 | 軽井沢 

こんにちは。高見沢隆の詩的ライフです。

 今回は昨日の「旅人」8号で発表した作品の一部を公開します。

 碓氷峠を中心に軽井沢地方をみたとき、そこは高地であったため四世紀の県遺跡が示すようにそこで長く住居を構える人々はいなかったと思われる。次に考える万葉集の歌は信濃国分寺(現在の上田市)近辺の歌であるが、川辺の美しい歌として防人の歌(四四〇七番)のような土の匂いが漂う歌の対極に位置するものとして掲げたい。

  信濃なる筑摩の川のさざれ石も君し踏みてば玉と拾はむ (巻第十四 歌番 三四〇〇)

   大意「信濃の千曲川の川原の小石も、あなたがお踏みになったのだから、宝石として拾いましょう。」 佐佐木幸綱著 『万葉集東歌』 東京新聞出版局 昭和五十七年より   

 この歌は美しい恋歌だと思う。「多麻」(玉)という語句は美しい石、宝石、海ならば高貴な真珠のことを指していてこの作者は川原の小さな丸い石でも素敵なあなたが踏んだものなら美しい宝石としてわたしは拾いましょうというように川原の小石を宝石に変えるという恋する想いのちからを歌に込めて詠っている。女性の純粋な恋心がそこには流れている。

 「玉」については万葉集巻七の「玉に寄す一二九九番 ~ 一三〇三番」(柿本人麻呂歌集)に五つの歌が収められている。これらの玉は白玉で真珠のことを指している。万葉集巻九には七〇一年(大宝元年)に文武天皇が紀伊の国に行幸したときに歌を詠んでいるが、このなかの白玉という表現も真珠のことを指している。「多麻」という語句については(三四〇〇)の歌のほか、巻第一四の「多麻河」多摩河(三三七三番)という地名で使われている。これらを見てくると海との関わりではその多くが「白玉」で、川との関わりでは「多麻」という語句が使われていて、これは歌を詠うときの約束事にはなっていないもののいずれも水に関係していて「玉」は高貴な方が好んでいることが判る。 

 また、この「玉・多麻」は古墳時代には山の神などを鎮める祭祀として使われたり、装身具として使われてもいた。その場合は玉の種類により権力や身分の象徴ともなった。玉には丸玉、菅玉、臼玉、勾玉などがあり、材質は滑石、凝灰岩、メノウ、水晶、琥珀などであった。時代は下がり、飛鳥時代になると石類の玉は減少して装身具は水晶製、ガラス製や金属製のものが生産されてくる。奈良時代以降は装身具に使われていた玉は見られなくなってくるが、島根県出雲地方で石類の平玉(紐孔のないもの)が生産されてくる。玉の意味は魂・霊(タマ)にも通じる。万葉の時代の人々は祭祀や呪術的な超自然的な感覚を備えたちからをそこに感じてもいた。

 この歌(三四〇〇番)の作者はおそらく宝石というものについて東国の万葉人のなかでもより理解していて歌を詠んだのではないか、石に宿る超自然的なちからを信じて自らの恋しい気持ちを歌のなかのあなたに届けたいと詠ったのではないかと思う。 次回へ

                                              *歌番号については『万葉集』日本古典文学大系 岩波書店を参考に付した。

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「旅人」8号を発行しました。

2025-01-21 21:09:28 | 日記
 こんにちは。高見沢隆の詩的ライフです。
ようやくいままで発行してきた「旅人」の8号を昨日、発行することができました。一年近く休んでいましたが、その間に『明治期、日本の避暑地』の発刊をすることができました。
 「旅人」は長野県立図書館、上田市立図書館、小諸市立図書館、佐久市立図書館などに送付していますので、興味のある方はどうぞ閲覧してください。内容については今回は万葉集の上田地域や碓氷越えをした防人の歌を取りあげています。そこに必ず毎回、詩を載せております。わたくしは詩人ですからそれが基本になっております。
 この「旅人」はコピーで作成した、少し昔なら手作りの雑誌というものです。このような雑誌を迷惑と思っても丁寧に受け入れてくださる図書館に感謝を申し上げます。
 小生のケガもほとんど良くなりましたので今後は雑誌の発行にちからを注いでいこうと思います。ケガをした指は完全には元に戻らないと医師からは言われてしまいました。
 残念。。。

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『明治期、日本の避暑地』からいま一つはっきりしなかったこと

2024-12-29 11:24:43 | 軽井沢 
 こんにちは。高見沢隆の詩的ライフです。
 小著『明治期、日本の避暑地』(龍鳳書房)の発刊から約半年ほど経ちました。そのなかで今一つはっきりしなかった事項について考えてきました。

 「Gleanings From Japan」 Walter G. Dickson ( William Blackwood and Sons) 1889年のなかでは「山の湯」というものがでてきましたが、これについては資料が乏しくはっきりしたことが判らなかったのですが、最近、書斎を整理していましら『日本に於ける集落の高距限度』小牧實繁著(地理論集別冊)昭和七年という冊子が見つかり、そこから山の湯が鹿沢温泉のことを指しているということが判りました。

 この冊子は過去にどこかの古書店から購入したものと思いますが。本はスペースが許せば、できるだけ取って置いた方がよいと思いました。どこかで必ず役に立つと思います。過去に二回ほど本を整理したましたが、いま考えれば惜しいことをしたと反省しております。

 今年ももう過ぎ去ろうとしています。みなさま、よいお歳をお迎えください。

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ケガをしてしまいました。

2024-11-28 14:41:18 | 日記
 こんにちは。高見沢隆の詩的ライフです。
紅葉も終わり、すっかり早冬といったところです。
寒いから炬燵を出し、ファンヒーターを出しています。
軽井沢はこれからとても寒くなりますので辛いです。

 寒くなる折に廊下で転倒してしまい、ケガをしてしまいました。本当に一瞬のことでしたので自分がどんなふうに転倒したかは判りません。
転んでケガをする歳ではまだありませんが、運悪く、治るまで50日かかると医者から言われました。
 いまは何とかPSに向かっています。原稿も進ませなければならないときに何ということでしょうか。(絶対に間に合わせます。)

 今度は万葉の歌について碓氷にまつわるものを書いております。4-5頁くらいになると思いますが、活字になるのが楽しみです。

 12月も近いので、皆さま、お体を大切になさってください。


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