NPOもやいの事務局長で反貧困ネットワークの事務局長でもある湯浅さんも冒頭の序章「若者と貧困を語ること」で述べられているように、本としての統一性より、多様な広がりを許容したつくりになっているため、各論文は様々な観点から「若者と貧困」にアプローチしたものとなっています。
06年以降、労働や貧困が日本の中で大きな社会問題となった後、格差や労働や貧困といったテーマで多種多様な主張が現れましたが、最近では、格差や労働、貧困に関する本やドキュメンタリーが非常に増え、「貧困に陥ってしまった人のライフヒストリー」や「派遣村に象徴されるような派遣労働の問題」などに関してはある程度知っている、という人も社会的には以前よりずっと多くなったと思います。むしろ今では問題があるのは分かったけれど、ではどうすればいいのかという人が多いのではないでしょうか。
それまで、日本に格差や貧困があること自体を否定したり、どんな状況に陥ってもそれは「自己責任」であるとされていた状況があり、そうした中では、労働問題、貧困問題の実態を社会に知らせることが大切でした。そこで、支配的な自己責任論や若者論(若者が経済的に不安定なのは若者自自身がだらしないからだとする言説)に対抗して、「就職氷河期」や「ロスジェネ」などの言説が広まっていきました。
しかし、第三章「「若者論」批判の陥穽」で佐々木隆治さんが、述べているように世代論的に問題を把握することは、労働や貧困の問題がなぜ出てきているのかといった構造の問題を世代的な観点からしか把握できないため、実際に問題を解決していこうとするときにどうすればいいかが見えないという問題も孕んでいると指摘しています。第四章「世代論を編み直すために」では、仁平典宏さんが、自己責任論を否定するために苦境に陥った人のライフヒストリーを持ち出すというやり方は、自己責任と非難されないほどひどいライフヒストリーを経た人だけが自己責任を免責されるという問題も持っていると指摘しています。
こうした議論に対抗するには仁平さんも述べられているように、個人の選択の問題、性質の問題に還元されない社会構造の問題を明らかにしていくことが重要でしょう。また、それをどのように現状を変えることに結び付けていくかという点では佐々木さんがいう、個人の問題だけでなく「普遍的な問題設定」をすることの重要性が参考になります。たとえば「反貧困」というスローガンも、立場の違いを超えて社会的に「貧困問題をなんとかする必要がある」という規範を創り出すのに効果的な役割を果たしているといえるでしょう。
労働や貧困が06年以降特に日本の中で大きな社会問題となった後、格差や労働や貧困といったテーマで多種多様な主張が現れました。そういったさまざまな主張、「若者と貧困」を語るさまざまな立場を垣間見ることができるという点でこの本は貧困論・格差論の現状把握として面白いのではないでしょうか。
最新の画像もっと見る
最近の「書評・メディア評」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事