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野川忍教授が語る「解雇規制の誤解」

労働法学者の野川忍さん@theophil21が解雇規制に関する誤解についてtwitter上でコメントされています。
「日本は解雇規制が厳しい。これを緩和しなければ雇用は改善されない」というような雇用流動化論に対し、実態に基づく議論を呼びかける内容になっています。

***以下、野川忍さん@theophil21の連続ツイートより掲載***

@theophil21 2012/07/20
解雇規制の誤解(1) 相も変わらず「日本は解雇規制が厳しい。これを緩和しなければ雇用は改善されない」という何とかの一つ覚えの主張が垂れ流されている。しかし、日本の法制度は、厳しい解雇規制などしていないし、実態も解雇が厳しいために雇用が制約されているなどという具体的事実はない。

解雇規制の誤解(2) 「解雇規制を緩和しろ」という論者には立証責任があるので問いただしたい。第一に、いったい日本の法制度のどこに「厳しい解雇規制」があるのか、具体的に明確に示してほしい。第二に、「解雇規制があるので解雇できず困っている」という具体的な実例を、ぜひ示してほしい。

解雇規制の誤解(3) 日本の法制度には、正当な理由がなければ解雇はできないとか、解雇をするには役所に届け出が必要だとかいったルールは全くない。あるのは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当性が認められない解雇は権利の濫用となる、という抽象的規定だけである(労契法16条)。

解雇規制の誤解(4) たとえば、無断欠勤ばかりで出てくれば暴力沙汰を起こして仕事は全くできない、という労働者を解雇するのに、日本の法制度に障害となる規定はない。まず、法制度において解雇規制が厳しいなどということはない。では実態はどうか。

解雇規制の誤解(5) 解雇規制緩和をとなえる主張をさんざん見てきたが、具体的実例を挙げて「かくも解雇規制は雇用を妨げている」と指摘するものは皆無である。これに対して、「やらずぼったくりのトンデモ解雇」なら、何千件でも実例があがる。一例として濱口桂一郎先生の「日本の雇用終了」参照。

解雇規制の誤解(6) 公平の為に指摘しておくが、裁判所は確かに解雇に対して比較的厳しい態度をとっている。解雇権濫用法理の内実は、一般的な権利濫用法理とは似て非なるものであることは周知のとおり。しかし、裁判所は解雇を厳しくするルールをことさらに作ってはいない。

解雇規制の誤解(7) 裁判例をみると、実は企業自身が、自ら解雇を自制することを労働者に約束していたとみなされる場合に、実際になされた解雇を「それは労働者に対する裏切り」として無効としているというのが通例である。ではなぜ日本の企業は解雇を自制してきたか。

解雇規制の誤解(8)
 日本の企業は、「雇用保障」と引き換えに他の先進諸国ではみられないような「強大な人事権」を 取得してきた。わかりやすく言えば「めったなことであなたをくびにはしません。だから、会社に絶対服従してください」という取引を企業側から提示し、それ が社会的慣行となったのだ。

解雇規制の誤解(9) したがって今までも、雇用保障も強大な人事権の下への服従も内容としない労働契約においては、 裁判所も解雇を自由に認めていた。「担当すべき仕事だけきちんとやってください。過酷な残業も家族を引き離す転勤も一方的に命じたりしません。」というド ライな労働関係がその例だ。

解雇規制の誤解(10)
 日本の企業社会は、そうしたドライな雇用慣行を自ら拒否し、雇用保障を労働者に与えることで会社の為に身を奉げるロイヤリティーを獲得してきた。したがって、解雇をもっとしたいなら、労働者へのロイヤリティーの要請もやめることだ。

解雇規制の誤解(11) 私見では、日本の労働市場がもっと活性化し、転職市場が充実して、「解雇されてもすぐ転職できて転職先の方が待遇がよかった」という可能性も十分にあるような状況(アメリカでは珍しくない)ができるなら、雇用保障と強大な人事権の取引などやめたほうがよい。

解雇規制の誤解(12) 労働者の側も、自分を解雇しようとする企業など、後足で砂をかけてこっちから辞めてやる、と言える状況になるほうが望ましい。企業もそれを望むなら、まずは企業から、ドライな個別労働契約の慣行、職務給の徹底、雇用平等の実現などを通して労働市場の活性化をはかることだ。

解雇規制の誤解(13) 日本の労働市場が硬直的であることは確かである。それを改善するのは、ありもしない解雇規制 の緩和などではない。まずは企業自身が、労働関係をめぐる自己改革をとげること、そして政府は、雇用平等法制の徹底と非雇用就労の拡大のための制度整備に 本格的に取り組むことである。

解雇規制の誤解(14) そして、濱口先生が指摘するように、日本においても非正規労働者など縁辺的な労働力として扱われてきた労働者については、雇用保障と強大な人事権という慣行自体が希薄であった。そこでは昔も今も、レッセフェールの状態における解雇が日常的に行われているのである。

解雇規制の誤解(15) 最後に確認したい。現在の日本の労働市場において「解雇規制の緩和」を主張するのは、事実認識として単純に誤りであり、実態の評価として全く的外れであり、政策的主張としておよそ説得力がない。この主張が現実味を帯びるような労働市場の形成から検討し直すことを勧めたい。
theophil21 2012/07/20 14:09:58

***以上***

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