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義援金を受け取って生活保護打ち切り


 義援金や東京電力の仮払い補償金を受け取ったことにより、生活保護が打ち切られる事例が多発しています。

【義援金理由に生活保護停止 説明なく日々不安 2011年7月3日 東京新聞】
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/tohokujisin/list/CK2011070302100005.html

 東日本大震災後、生活保護を受けていた被災者が、義援金を受け取ったことなどを理由に保護を打ち切られる事例が相次いでいる。生活保護受給者を支援する民間団体「全国生活と健康を守る会連合会」(東京都新宿区)によると、福島県南相馬市だけで約200世帯。被災者らは「生活が不安」「説明なく打ち切られた」と、見直しを求めている。(星野恵一)
 「生活保護を復活してほしい」。義援金四十万円を支給され、生活保護を打ち切られた南相馬市の無職渡辺保男さん(64)が話す。
 自宅は福島第一原発から二十~三十キロにある緊急時避難準備区域。原発事故直後から五月末まで、新潟県内の避難所に集団避難した。同月中旬に義援金を受け取った後、南相馬市役所の担当者から連絡があった。「義援金を収入とみなして生活保護を打ち切る」
 厚生労働省は同月初め、保護を受けている人に生活再建の計画を立ててもらい、再建に必要な分は義援金を収入とみなさないよう自治体に通知した。しかし、「市から再建計画について説明はなかった」と渡辺さん。
 保護は四月から振り込まれていない。市は「避難生活で居住費などがかからない場合、保護を一時停止する場合がある」と話すが、渡辺さんはその説明も受けていないという。
 一人暮らしの渡辺さんは十年前、脳梗塞で倒れた。三年間は退社した会社の傷病手当で暮らしていた。手足のまひなど後遺症で仕事に就けず、七年前から保護を受け始めた。生活費は一カ月約五万円の生活保護と三万円余りの年金だけだった。
 「自宅が避難準備区域なので、避難に備えて少しは蓄えも必要だと思い、義援金には手を付けていない。生活はギリギリです」と不安そうに話した。
 これに対し、南相馬市は「厚労省の通知に沿って、義援金を収入とみなすか生活再建資金とするか、受給者に説明しているが、受給者側の認識が違う場合もある」と回答。「いったん保護を打ち切っても生活が苦しければまた相談に乗る」と話す。
 しかし、全国生活と健康を守る会連合会は「生活再建という義援金の趣旨が生かされていない。厚労省の通知が守られていない可能性がある」としている。

 
 義援金を受け取ったことによる生活保護打ち切りが起こったのは、宮城県仙台市や福島県南相馬市、同いわき市などです。原発事故の警戒区域、計画的避難区域、緊急時非難準備区域を抱える南相馬市では、震災以前405世帯が生活保護を受給していましたが、現在では生活保護廃止世帯が219世帯に上ることが明らかになっています。(6月22日の時点で既に、南相馬市において東京電力の仮払い補償金を受けた168世帯が生活保護を打ち切られていたことが明らかになっています)。またいわき市では東京電力からの仮払い賠償金などの支給を受けた20世帯のうち2世帯、県が支給を担当する町村では4世帯が打ち切られています。

 日本弁護士連合会の宇都宮健児会長は7月22日に南相馬市による生活保護打ち切りは、放射能被害から避難する自由を奪い、人道にもとるものだとして是正を求める声明を発表しています。この声明では、1960年の厚労省次官通知を根拠として義援金を全額収入認定の対象外とすることを主張しています。そして今年5月2日付の「東日本大震災による被災者の生活保護の取扱いについて(その3)」(義援金を原則として「収入」とみなすよう指示しているもの)、福島県による通知(第1次義援金においてのみ生活保護の取扱いについて定めたもの)の問題点を指摘し、被災自治体の適切な対応と、国の適切な指導を求めています。
(日弁連HPで拝見することができます。http://www.nichibenren.or.jp/

 今回の義援金や仮払い補償金による生活保護の打ち切りによって、脆弱なセーフティネットの問題が大々的に示されたと言えるでしょう。生活保護を取り巻く問題についてはPOSSEでも幾度となく取り上げてきましたが、そもそも生活保護が十分な生活保障を期待できるものであったか、きちんとした運用がなされていたかというところにも疑問符をつけざるを得ません。単純に額が低すぎたことも挙げられますが、それすら打ち切られてしまっては、たかだか数十万の義援金支給では避難はおろか当面の生活にも困窮してしまいます。そしていままで窓口で申請を拒否する「水際作戦」が広く強固に行われてきた事実を前提にして、この問題を考えなくてはなりません。かつては国が生活保護費の5分の4を負担していましたが、89年の改正により国の負担が4分の3になり、自治体が4分の1を負担するようになりました。ここで地方自治体の負担が増やされることで、「水際作戦」は強化されていったのです。このような文脈から、義援金や仮払い補償金が収入認定され、生活保護の打ち切りが行われることも「考えられうる」現象であったと言えるでしょう。国は財政負担を地方自治体に押しつけ、適切な措置を採りうる土台を廃させてきたのです。そしてその上に原発事故が重なれば、216もの世帯で生活保護が打ち切られることも、(それは決して許されざることではあっても)考えられないことではないのです。

ここで、「義援金」という支援の限界も明らかになってくるでしょう。もともとの制度、もともとの社会のありようを問うことなしに金を渡すことのみによって「支援」しようと試みても、国や企業(今回の場合では東京電力)の責任を回避させる方向にばかり役立てられてしまうことが分かります。

また、忘れてはならないことは、今回の震災、原発事故によって失われたものごと自体は、どれだけ金銭的な支援をしたとしても二度と帰ってはこないということです。揺れによって住んでいた家屋が倒壊してもといた地域からは切り離され、津波によって人も家も全て流され、原発事故によっては永久に生まれ育った環境に戻れなくさせられたのです。人の命、その地域で培ってきた文化、つくり上げてきた生活、自然と人との関わり合い…金や数字では換算できない、あらゆるものごとが失われたのです。東京電力が経済的利益を優先させ、ずさんな管理と多くの労働者の犠牲のもとに維持してきた原発が事故を起こした責任としての仮払い補償金、それによっても到底「責任としては十分」などと言うことは出来ませんが、それによって生活保護が打ち切られることなどは論外と言えます。

また「義援金」というのは、被災者の顔の見えない抽象的な金銭的支援を行うことで、現実の問題や現地の苦しみに関して人を無感覚に陥らせる装置として働いてはいないでしょうか。いま求められているのは「募金」という抽象的支援ではなく、被災者一人一人に寄り添い、一つ一つの具体的事案を制度的に支援していくこと、制度的不備があればその問題を可視化させ、制度自体を変えていくことだと思います。この必要性、緊急性が「義援金によって生活保護打ち切り」という問題から浮き彫りになりました。実際に生活保護を打ち切られ、最も政府の対応に疑問、怒りを抱いているはずの当事者は、生活に余裕がない故に訴訟を起こすことすらできません。私たち一人一人が社会のありようを問い、「人のために」行動していくことが、現実に求められているのです。

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