本紙は今年三~六月、百社の本社所在地の労働局に各社の「時間外労働・休日労働に関する協定(三六協定)届」を情報公開するよう求めた。さらに各社の労務管理についてアンケートし、三十六社から回答を得た。
開示資料によると、労使で残業の上限と決めた時間が最も長いのは、大日本印刷の月二百時間。関西電力の月百九十三時間、日本たばこ産業(JT)の月百八十時間、三菱自動車の月百六十時間と続いた。百社のうち七十社が八十時間以上で、そのほぼ半数の三十七社が百時間を超えていた。百社の平均は約九十二時間だった。
国は労働基準法に基づき、労使間の協定締結を条件に月四十五時間まで残業を認めており、特別な事情があれば一年のうち半年まではさらに上限を延長できる。一方で、厚労省は過労死認定基準として「発症前一カ月に百時間か、二~六カ月に月八十時間を超える残業は業務との因果関係が強い」と通達している。
アンケートでは、健康被害の原因となる長時間残業が可能になっている現行制度について、三十六社のうち二十二社が「見直しは必要ない」「見直すべきだが現実的に難しい」と回答した。「見直しが必要」は二社だけだった。
厚労省は長時間労働を抑制するため労基法を改正し、一〇年四月から残業の賃金割増率を引き上げた。しかしアンケートでは十三社で、法改正前より実際の残業時間が長くなっていた。改正前より協定の上限を下げたのは、日野自動車だけ。
経団連労働法制本部の鈴木重也主幹は「協定の上限時間が長くても実労働時間はもっと短い。経営側は需給調整のため労働時間に柔軟性を持たせたいという思いがある。円高などで今、国内で事業を続けるのは大変。過労死は重要な問題だが、法律で残業時間の上限を定めるなど労働規制を強めれば、企業はますます活力を失い、成長は望めなくなる」と話している。
◆法律に限度時間を
西谷敏・大阪市立大名誉教授(労働法)の話 企業が労働者側と長時間の協定を結ぶのは、繁忙期や突発的な事態に備えるためだが、大手の七割で協定時間が過労死基準を超えているのは、ゆゆしき事態だ。法律そのものに限度時間を定めるべきだ。例えば欧州連合(EU)では、残業を含めて週四十八時間が限度となっている。大手企業の大半には労組があり、労組も協定を見直して残業制限に努力すべきだ。
(2012年7月25日朝刊)
東証一部上場の売り上げ上位100社(2011年決算期)の7割が、厚生労働省の通達で過労死との因果関係が強いとされる月80時間(いわゆる過労死ライン)以上の残業を社員に認めているということが、東京新聞の調査で明らかになりました。
はじめに、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させることを、労働基準法は禁止しています。1日8時間以上の労働や、休日労働をさせるときは、会社は必ず労働者の過半数代表、もしくは過半数で組織された労働組合と三六協定を、双方の合意により結ばなければなりません。
さて、使用者と労働者の協定残業上限時間で1位をとっている大日本印刷の月200時間労働まで認めるということはどういうことでしょうか。週5日間労働して、さらに月200時間の残業があったとすると、単純計算で毎日8時間の労働をしたあとに、さらに10時間の残業をしていることになります。週6日間働いていたとしても、1日8時間ほどの残業ということになります。ここから、法定労働時間をはるかに超えた労働を強いる、大日本印刷の「月200時間」は異常であることがわかります。また、調査対象の100社の内50社が月80時間以上の残業を認めていますが、これもかなりの長時間労働です。月80時間の残業だとしても、週5日の計算で1日当たり5時間の残業という計算になります。あくまで計算上の話ですが、このような働かせ方をさせてもよいというのがこの三六協定なのです。 月80時間以上の残業は、過労死ラインを超える水準であり、ワークライフバランスはおろか、健康さえ害する危険性が高い働き方といえます。
これに対して、経団連労働法制本部の「協定の上限時間が長くても実労働時間はもっと短い」「過労死は重要な問題だが、(中略)労働規制を強めれば、企業はますます活力を失い、成長は望めなくなる」というコメントがありますが、年間数万人の過労死・過労自死される方がいるという現状を鑑みると、実労働時間が健康的に働けるレベルでないことがわかります。企業成長を至上命題にして制度の抜け道を利用し、青天井に労働時間を増やすことは、労働基準法の趣旨に反し、労働時間規制を形骸化させています。労働時間を規制する大きな理由は、人間はロボットのように無制限に働けるわけではないからです。休息を十分にとれないと作業能率が下がり、また疲れが残ったまま仕事を続けることで体調を崩したり、最悪の場合死に至ります。人間が死ぬまで働かされる三六協定は、企業が適正に利用できないのであれば見直すべきであり、さらには労働時間に上限を設けるなど、労働時間規制自体のあり方を議論する必要があると思います。
(大学2年生、ボランティア参加1年半)
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