#1 雇用戦略対話の公式HP http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koyoutaiwa/
◆「大卒の二人に一人、高卒の三人に二人」が「教育から雇用へ」と接続できず!
報道で最も注目されたのは、何と言っても「大卒の二人に一人、高卒の三人に二人」が「教育から雇用へ」とうまく接続できていないというものでしょう。これは内閣府が取りまとめた「若者雇用を取り巻く現状と問題」[2]に示されたデータです。
学校を中退した人・学校を卒業して一時的な仕事に就いた人・学校を卒業したけれども就職できなかった人・卒業して就職できたけれども3年以内に離職した人が「教育から雇用へ」の接続がうまくいかなかった者に該当します。ちなみに、大学院などに進学した人はいずれも除いています。二人に一人と聞くと、就職事情は厳しくなったんだと不安に感じる人も多いでしょう。
(下線部が非安定就労者)
単位:万人
学生//→//中退//6.7
//////////卒業///85//→//大学院等進学///////////7
/////////////////////////無業・一時的な仕事////14
/////////////////////////就職////////////////56.9//→//早期離職//19.9
#2 内閣府「若者雇用を取り巻く現状と問題」(PDF) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koyoutaiwa/dai7/siryou1.pdf
◆多く見積もられた数字
この情報は、非常にわかりやすいものでした。しかし、「わかりやすさ」とは数字のインパクトが伝わりやすいということであって、この数字を鵜呑みにしてしまうと問題の所在はかえってわかりづらくなるようにも思えます。最も懸念しているのは、「(今までは大したことなかったのに)急に悪化したんだ」という誤解や、「震災の影響で一時的に落ち込んだ(だからすぐ回復する)」という誤解が生じないかということです。
今回示された「大卒の二人に一人」というデータをじっくり見てみて、資料作成者の手際の良さに感嘆しました。数字上のインパクトということで言えば、最大限に評価しているものと思います。それだけに、「実は大したことはない」という「正しい」見解が出てこないかという懸念も抱いています。
具体的に検討してみます。まず、「大卒者の二人に一人」という割合の出し方に注目してみましょう。
一つ目に指摘したいのは、中退者や卒業時に無職だった者が含まれていることです。確かに「学校から雇用へ」の接続がうまくいかなかった事例としてカウントすることはできますが、不安定な雇用そのものを軸に考えるのであれば、中退者や卒業後に無職だった者のどの程度が現実に不安定な雇用へ就いたのかということを吟味する必要があります。
二つ目の指摘として、報道でも資料でも「大卒者」とありますが、同じ資料の別の箇所では「大卒・専門学校卒」とあります。専門学校卒の方が大卒よりも就職率は良いと言われていますが、一時的な仕事に就かざるをえない場合も多く、中退や早期離職問題なども含めて考えると、大卒に限った推計よりも深刻さが増す結果になるものと思われます。
三つ目に指摘すべきは、分母と分子のずれです。分母は、「卒業者から進学者を除いたもの」です。しかし、先ほど示したように、非安定就労者に該当する者の中には中退者が含まれます。その数はおよそ6.7万人(卒業年次前の者も含まれます)。卒業者の総数が85万人であるため、この数は決して少ないものではありません。この6.7万人は、分母には含まれていないのに分子には含まれています。
今度は、早期離職者の人数に注目してみましょう。今回推計の対象となっているのは、2010年に学校を卒業した人です。ここでの早期離職とは、3年以内に離職した人を指します。今回の資料によれば、一時的でない仕事に就いた者のうち、早期離職者はおよそ35%でした。これが、就活市場の悪化として取り上げられています。いわゆる七五三退職(3年以内に離職する人の割合が、中卒者で7割・高卒者で5割・大卒者で3割いる)という言葉がありますが、まだ2010年に学校を卒業した人は2年しか経っていないのにもう35%も辞めているのかという驚きを報じたところもありました。
しかし、この種の報道に対しても慎重な検討が必要です。まず、早期離職者の人数は2年間の実数値ではなく3年間の推計値です。また、既に指摘したように、早期離職者の割合は大卒者と専門学校卒者をあわせたものです。大卒者の方が人数として多いものの、専門学校卒の早期離職率はは平均して4割程度ですので、大卒者の早期離職率と単純に比較することは適切ではありません。
更に、そもそも何らかの変化を示す言葉としての「七五三退職」自体が、実態をきちんとつかんだ概念ではありません。たとえば2004年に大学を卒業した人の早期離職率は36.6%ですし、1999年から2008年までの卒業者の早期離職率は平均で34.4%です[3]。単純に数字を比較すると、「(今までは大したことがなかったのに)雇用情勢が厳しくなった」とはとても言えないのではないでしょうか。
以上の点から、今回のインパクトばかりが一人歩きしてしまうと、精緻に分析を行った人が「実は大したことないんだよ」と結論づけたとき、逆に力を持ってしまいかねません。これから「非安定就労状態の若者が増えたのは若者のせいか、会社(社会)のせいか」という議論が噴出することになるかもしれません。その際、若者のせいばかりではないという事実を提起していくことも重要ですが、「早期離職が増えた」という土俵がどのように設定されたのかを知っておかないと、思わぬ形で足元をすくわれてしまうでしょう。
こうした事実を考慮してなお、やはり「学校から職場へ」の接続は多くの若者にとって自明のものだとは言えないことは今回の資料が明らかにしている通りです。であるならば、むしろ問題なのは、過去のデータを基に同じようにデータをとってもそれほど変化がないものと推測されるにもかかわらず、これまで実効的な対策が講じられてこなかったことでしょう。
私自身は、今回の資料に示される数字からは出てこない変化がある(たとえば早期離職の内実など)と考えていますが、本稿はそれを実証する趣旨ではありません。ここで指摘しておきたいのは、今回の数字が若者雇用の深刻さを示していると言うなら、多少の程度の差はあるとしてもこれまでも同様に深刻だったと認めざるをえないだろう、ということです。
#3 「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」(PDF)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/dl/data_1.pdf
◆若者の雇用政策の出発点に
今回報告されたデータは、本来は私達のように若者の支援を訴える団体が出すべきものだったと言えるでしょう。実は、こうした仕事は都留文科大学の後藤道夫さんが積み重ねているものでもありました(最近のものでは、たとえば『ワーキングプア原論』に情報がまとまっています)。こうしたデータを駆使して、若者の雇用不安をインパクトのある数字に置き換えて発信することができれば、もう少し早めに今回のような問題提起をできたかもしれないと反省しています。官僚の仕事に見習わなければいけません。
これまでは十分検討されてこなかった「学校から雇用へ」の接続の悪さがようやく国レベルで論じられるようになっています。そうした出発点になる意義を、今回の報告は持っていると評価できるでしょう。ただし、今回の資料はあくまで出発点として考えるべきであるとも思います。現在の問題がどのように生じているのか、どのような解決の方向性を目指すのかについては、今後の「雇用戦略対話」を注視していかなければなりませんし、私たち自身も、学校中退者・失業者・非正規の労働者・早期離職者のそれぞれについて細かく検討していかなければならないでしょう。
NPO法人POSSE(ポッセ)事務局長 川村遼平
(参考文献)
後藤道夫[2011]『ワーキングプア原論――大転換と若者』花伝社
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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。
なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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