京都POSSEのメンバー18名が会見に参加しました。
舞鶴市役所西支所では、 600円しか所持金がなく母子世帯で現在も妊娠しているために働くことができない人が何度も生活保護を申請したいと訴えたにもかかわらず、追い返していました。6月12日に私たちのスタッフが同行しても「お断りした」などと申請をさせない対応を一貫させ、閉館後まで粘った私たちに「業務妨害だ」とどなりたて、申請書を置いて帰ろうとしたところ「忘れ物ですよ!」と正当な理由もなく申請を拒否しようとしました。この日のやり取りは全て録音に残っています。
私たちが府と交渉し、市に指導させる過程で、市の担当者は「忘れ物」だと言っていた申請書を後になって「受理していた」と態度を翻しました。しかし、実際に反省の色は見えず、後日5名もの職員で当事者の家に押しかけ、現在は連絡を絶っているお腹の子の父親を同じ世帯にいるものとして申請しなおすことを迫りました。
6月初頭から保護を申請していた彼女は、今もなお保護が決定されていない状態にあります。急迫性の高い場合は速やかに保護をするよう生活保護法に定められていますが、この点については京都府は自治体の裁量として指導することを避けています。
2012年度の札幌市の姉妹孤独死事件も、3回も福祉事務所を訪ね、その全てを断られています。これは人の生命にかかわることです。舞鶴市が謝罪・釈明を行い、こうした生活保護制度に逸脱する対応を改善するまで、さまざまな働きかけを行っていきたいと思います。
今回の記者会見は、そのような狙いのもと、京都・大阪の多くの弁護士・支援団体の協力で成功させることができました。みなさんの注目が、現状を打破する声となります。私たちだけの力では、舞鶴市に謝罪させることも、京都府に十分な指導をさせることもできませんでした。本当に悔しく思っています。舞鶴市での不当な水際作戦を無くすには、多くの方の監視や抗議の声が必要です。今後も本ブログなどで報告してまいりますので、よろしくお願いいたします。
より詳しい経緯については下記の抗議文をご覧ください。
(PDFはこちら:http://www.npoposse.jp/seihomaiduru.pdf)
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京都府知事 山田啓二様
舞鶴市長 多々見良三様
京都府健康福祉部福祉・援護課長殿
京都府舞鶴市保健福祉部福祉援護課長殿
京都府舞鶴市市民環境部西支所保健福祉係長殿
抗 議 文
2012 年6 月19 日
NPO 法人POSSE(ポッセ) 事務局長 川村遼平
NPO 法人POSSE 京都支部 代表 川久保尭弘
京都市下京区西木屋町通上ノ口上る梅湊町83-1 2 階
「ひと・まち交流館」京都市市民活動総合センター内
TEL:075-365-5101 FAX:075-365-5102
E-mail:kyoto@npoposse.jp
1、抗議文を送るに至った経緯
去る6 月11 日、木村さん(30 代・女性・仮名)からPOSSE 事務所へ生活相談の電話がありました。シングルマザーで小学生以下の3 人の子どもを抱える木村さんの所持金は600円しかない状態でした。彼女は持病や借金を抱えながら、子どもの養育や自身の健康状態のため仕事ができず、ガスや電気の料金も滞納してしまっている状態でした。また、彼女は現在妊娠中で、今すぐに働ける状況ではありませんでした。今年の2 月から失業しており、現在は児童扶養手当と子ども手当による収入しかなく、月約8 万円で家族4 人で生活していました。市内に住む母親や兄弟も生活苦で、とても木村さん一家を援助することは難しい状況でした。
そのような状況下で、木村さんは6 月初頭に舞鶴市役所に自身の窮状を訴えましたが、社会福祉協議会の貸付制度を利用することを勧められただけでした。その後社会福祉協議会から借り入れた2 万円も使い果たし、6 月11 日に再度市役所(西支所)を訪れたにもかかわらず、きちんとした説明もなく追い返されました。木村さんは11 日に再度電話で「相談ではなく申請したい」と訴えましたが、出せんもんは出せん、法律分かってるのか、業務妨害だ、などの厳しい応対をされ、電話を切られてしまったそうです。11 日に電話で木村さんから相談を受けた京都POSSE のスタッフ3 名が12 日に西支所へ同行し、「生活保護を申請したい」と木村さんとともに約30 分にわたり主張し続けました。ところが、対応した職員は「お話については先ほどさせてもらった通りなので」と説明を拒みました。同じく担当職員であるA 氏は、申請したいと伝えても「それはもうお断りしたんですよ」と、申請させないという態度を貫きました。また、木村さん一人であれば相談を受ける、あるいは私たちPOSSE スタッフと職員だけで話をしよう、とA 氏から提案がありました。本人のいない場で私たちが意思決定することなどできませんし、申請を受けるかわからない「相談」に木村さん一人だけ連れて行かれることも避けたかったため、その提案を断りました。すると、「もういいです」と、職員たちは自分のデスクに戻ってしまいました。
このやり取りで気分が悪くなってしまった木村さんが外の空気を吸いに出ると、その隙にA 氏はデスクからも姿を消しました。フロアにはA 氏の部下である他の係員も数名いましたが、「(担当者のA 氏を)呼びに行っている」、「担当じゃないのでわからない」ととりつくしまもありませんでした。
1 時間近く待ってもA 氏が姿を現さないため、自前で用意した申請書を提出しようとしても、「分からない」「私は受け取る担当ではないので」などの回答を繰り返しました。私たちが閉館時間を過ぎても職員と押し問答していると、A 氏が戻ってきて、「もう時間です」「業務妨害」と強い口調で怒鳴り出しました。最終的には数名の職員が立ち上がり、「帰ってください」と口々に言う、異様な光景となりました。一向に申請書を受け取ろうとしようとしない舞鶴市の対応に対し、木村さんは申請書をカウンターに置き「申請します」とはっきりと伝え、私たちはその場を後にしました。しかし、職員は「それは受け取りませんよ。持って帰ってくださいよ。」と言い、私たちの後ろから、カウンターに置いた申請書を「忘れ物ですよ!」といってつき返そうとする職員の大きな声が何度も聞こえました。
私たちはこのやり取りの間、厚生労働省や京都府の担当者にも電話をし、当然このような対応は違法であると回答を得ました。京都府の担当者であったF 氏から舞鶴市役所へ指導していただきましたが、結局現場での対応は変化がありませんでした。舞鶴市役所本庁は、京都府から指導を受けたにもかかわらず西支所を指導しませんでした。帰途、他の支援者の方の情報で、舞鶴市の本庁でも水際作戦が起きていたことを聞きました。
その後、6 月15 日に、5 名の職員が木村さん宅を訪問しました。「忘れ物」と言っていた申請書は「受理した」と伝えられましたが、書類に不備があったとの理由で申請書の再提出を迫ったそうです。そこで指示された内容は、完全に縁が切れてしまっているにもかかわらず、妊娠している胎児の血縁上の父親を、同一世帯としなければ手続きを進められないというものだったそうです。当然、急迫保護の実施には至っていません。15 日に舞鶴市役所にあらためて急迫保護の要請をおこなったのですが、「個別のケースにはお答えできない。どう判断するかは行政の裁量だ」との回答でした。
以上のような経緯から、今回私たちが経験した異様な実態についての釈明・謝罪と、この異様な実態が常態となっているのであればその改善を訴えたく、抗議文を送る決心をいたしました。
2、舞鶴市役所による対応の問題点
上記の対応は、明らかに生活保護制度の趣旨に反しています。
第一に、木村さんは明確に申請したいと伝えていたにもかかわらず、西支所の職員は生活保護の申請書を渡さず、申請すること自体を阻止しました。申請の意思をはっきりと示しているにもかかわらず申請させないという対応は個人の申請権を侵害する違法行為です。
第二に、A 氏は、木村さんが承諾しているにもかかわらず話し合いの場において私たち支援者の同席を拒否し続けました。A 氏は、個人情報やプライバシーを持ち出して私たちの同席を認めようとしませんでした。しかし、木村さん本人が私たちの同席を許可しているのですから、それを拒む権利は行政にはないはずです。
第三に、木村さんには申請する権利があるにもかかわらず、木村さんが提出した申請書類を「忘れ物」として、西支所はその場では受け取ろうとしませんでした。申請書類を「忘れ物」として受け取ろうとしない行為も申請権の侵害です。
第四に、京都府が今回の舞鶴市西支所の対応は違法だと述べ、舞鶴市に対し指導したにもかかわらず、西支所は対応を改めませんでした。舞鶴市役所本庁は、十分有効な指導をしなかったばかりか、西支所の対応を支持しました。
第五に、妊娠中の胎児の血縁上の父親を同一世帯に含めることを迫りました。すでに木村さんはこの方とは連絡を絶っており、現在は法的にも実態としても無関係な状態にあります。そのような人を同一世帯としてカウントすることを強要するのは、明らかに生活保護制度の原則から逸脱しています。
3、私たちが訴えたいこと
上記のような対応はいずれも到底許されるものではありません。福祉事務所が生活保護申請に来た人の申請権を侵害することは違法です。また、今回のように要保護者が急迫した状況にあるときは、すみやかに、職権をもって保護を開始しなければなりません。
交渉の過程で、A 氏はこの間の生活保護不正受給をめぐる報道も引き合いに出しましたが、職員のみなさんの仕事は、申請者の生活状況をつぶさに調査し、本当に保護を必要とする人かどうかを判断することです。申請に来た人を正規の手続きも踏まずに追い返すことではありません。
私たちは、西支所の対応に強く抗議するとともに、(1)早急な保護費の支給と(2)当事者への謝罪、(3)なぜこれほどまでに強硬な申請拒否にいたったのかに関する原因究明・釈明と、(4)再発防止に向けた取り組みの実行を切に願います。
以上。
【参考】生活保護の申請権・支給決定時期に関する規定(抜粋、傍線部はPOSSE)
(1)生活保護法 第25 条(職権による保護の開始及び変更)
(参照URL:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO144.html)
保護の実施機関は、要保護者が急迫した状況にあるときは、すみやかに、職権をもつて保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなければならない。
2 保護の実施機関は、常に、被保護者の生活状態を調査し、保護の変更を必要とすると認めるときは、すみやかに、職権をもつてその決定を行い、書面をもつて、これを被保護者に通知しなければならない。前条第2項の規定は、この場合に準用する。
3 町村長は、要保護者が特に急迫した事由により放置することができない状況にあるときは、すみやかに、職権をもつて第19 条第6項に規定する保護を行わなければならない。
(2)平成24 年度生活保護基準・生活保護実施要領(案)pp.80-81
(参照URL:http://www.kaigoseido.net/seiho/12/20120426133943.pdf)
第9 保護の開始申請等
次官通達 第9
生活保護は申請に基づき開始することを原則としており、保護の相談に当たっては、相談者の申請権を侵害しないことはもとより、申請権を侵害していると疑われるような行為も現(ママ)に慎むこと。
局長通達 第9
1 保護の相談における開始申請の取り扱い
生活保護の相談があった場合には、相談者の状況を把握したうえで、他法他施策の活用等についての助言を適切に行うとともに生活保護制度の仕組みについて十分な説明を行い、保護申請の意思を確認すること。また、保護申請の意思が確認された者に対しては、速やかに保護申請書を交付するとともに申請手続きについての助言を行うこと。
問(第9の1) 生活保護の面接相談においては、保護の申請意思はいかなる場合にも確認しなくてはならないか。
答 相談者の保護の申請意思は、例えば、多額の預貯金を保有していることが確認されるなど生活保護に該当しないことが明らかな場合や、相談者が要保護者の知人であるなど保護の申請権を有していない場合等を除き確認すべきものである。なお、保護に該当しないことが明らかな場合であっても、申請権を有する者から申請の意思が表明された場合には申請書を交付すること。
問(第9の2) 相談段階で扶養義務者の状況や援助の可能性について聴取することは申請権の侵害に当たるか。
答 扶養義務者の状況や援助の可能性について聴取すること自体は申請権の侵害に当たるものではないが、「扶養義務者と相談してからではないと申請を受け付けない」などの対応は申請権の侵害に当たるおそれがある。
また、相談者に対して扶養が保護の要件であるかのごとく説明を行い、その結果、保護の申請を諦めさせるようなことがあれば、これも申請権の侵害にあたるおそれがあるので留意されたい。
以上。