ニューヨーク・ブロードウェイとロサンゼルス・ハリウッド、演劇と映画の聖地で今、ユニオンによるストライキが起こっている。ともにアメリカを代表する産業においてだ。
両業界を震撼させているストライキの背景には、何があるのだろうか。
まずは、ブロードウェイ・ミュージカル。国際劇場ステージユニオン傘下のブロードウェイローカル１支部は、新しい労働協約における就業規則や人員配置をめぐり経営者やプロデューサー側と交渉していた。しかし、合意には至らず交渉決裂、ストライキに突入したのである。（ユニオン側の主張によると経営者側の契約では賃金が40％カットされるという）大道具、小道具、衣装、音響効果などの舞台設置を担当するステージハンドのストで、35劇場のうち27劇場が休演しているという。現在、観光業はアメリカの産業の中心を占めているが、ブロードウェイは去年から今年にかけて空前の活況を呈しており、ニューヨーク市が享受する観光効果は5500億円を越えるものと見られていた。11月から12月にかけて、ブロードウェイは最大のかき入れ時。全米から、全世界から観光客が押し寄せ、劇場に行き、レストランに行き、ショッピングを楽しむ。その最大のホリデイ・シーズンをストライキが直撃しているのである。
また、ハリウッドでは全米脚本家組合 (WGA)がプロデューサー代表団体（AMPTP）を相手に、DVDの売り上げやインターネットでのダウンロード料からの分配などに関する契約をめぐり対立していた。しかし交渉は決裂。ユニオンは一ヶ月間以上に渡るストライキを決行し、現在でも続いている。 メディアの著しい発達が消費者の経済的なコストを低下させたが、脚本家がもらえるDVDの作品使用料、インターネット配信による2次使用料はごくわずかだ。しかも、脚本家は平均して組合員の48％が失業中で過酷な生活を強いられている。脚本家がいなければ番組制作もできず俳優も仕事ができずアシスタントも不要になるなど、WGAのストはエンターテイメント業界全体に多大な影響を及ぼしており、その損害額は250億ドルにのぼるのではないかともされている。テレビ番組は再放送を余儀なくされ、人気のハリウッド映画の制作は一時中断、しかもあのゴールデンクラブ賞・アカデミー賞授賞式の実施も危ぶまれている。（日本でも放送されているアメリカのドラマが一時中断されているとか…）今回のストは消費者中心主義、ひいては消費者のニーズを最優先させる生産システムの見直しを迫っており、じじつ世論もWGAの要求に同情的だという。
観光業、エンターテイメント業界といったサービス産業は、末端の過酷な低賃金労働によって成立していることが、産業別組合のストライキにより暴露された。現場ではピケ（労働者側がスト破りを防ぐために、組合員が職場を見張って他の労働者を入れさせないようにし、ストライキなどの実効性を確保する合法的行為）をはる労働者たちの姿があった。しかし、日本のように消費者からのバッシングは少なく、消費者である観光客や同業界の俳優などを含め、世間でも同情的な声が多い。
それもそうだろう。経済のサービス化が最も進展しているアメリカで、サービス産業の末端には移民労働者をはじめ低賃金で福利厚生のない労働条件で働く非正規労働者が多く存在する。彼らはふつう見えない存在であるが、今回のようなユニオンによるストライキで「経済的公正」「社会的正義」を訴えるのだ。演劇・映画といったアメリカを代表する業界は、莫大な利益を生み出している。しかし、その富の恩恵にあずかるのは一部の経営者やプロデューサーで、大半の労働者への分配はますます削減されつつある。
しかし、アメリカには産業別組合がある。企業を超えた産業全体を規制するような労働組合が、90年代以降、サービス業界を中心に非正規労働者の組織化に成功し、成果をあげている。代表的なのが、SEIU(サービス産業労働組合)、HERE(全米ホテル・レストラン従業員組合)である。これまでの特権層（すでに組織された労働者）を擁護するユニオンとは違い、移民労働者や非正規労働者など最下層の労働者の権利や利益を確保することを目指す、社会に開けた新しいユニオニズム（労働組合主義）だ。
POSSEでは文化班を中心にSTYLE3をサービス業界を中心とする様々な業界（美容師、保育士、デザイナー、音楽、演劇）に広めていくプロジェクトを計画している。具体的に、まだ見通しはたっていないが、フリーペーパー4号で「美容師業界」特集を行なったり、2月にはミュージシャンの方をお招きしてイベントを行なう予定である。
ハリウッドのストライキも見逃せないが、ストを行なっている主体である「ユニオン」という存在が日本ではまったくイメージできない。（新聞では取り上げられたとしても、芸能欄だ。）しかし、日本でも「美容師ユニオン」が結成されるなど、サービス業界を再編していく動きが出てきており、POSSEとしてもこの大きな課題に全力で取り組んで行きたいと思っている。（priv）
