日本版NVQの目的と4つの柱
2010年5月25日に緊急雇用対策本部の雇用戦略対話で、日本型NVQの創設について言及した「実践キャリア・アップ戦略」構想の骨子が発表された。
この構想は”「肩書社会」から「キャリア社会」へ”を基本方針として謳っており、その問題意識は次の点にある。
・日本経済を牽引すると期待される新たな成長産業で実践的な職業能力形成が急務となっている
・一方で非正規労働者、若年層が能力開発の機会にめぐまれていない
・これに対応し新たな経済成長を支える人づくりの観点から、企業内にとどまらず、外部労働市場で客観的に通用するキャリア評価の仕組みを形成する
具体的な政策内容で柱となるのは次の4点だろう。
①「実践キャリア・アップ制度」を導入する戦略分野の選定
②職業能力評価制度(日本版NVQ)の導入
③各分野の職業能力育成プログラムの策定
④大学や専門学校などの教育制度との連携
この骨子でNVQに「日本版」と冠されているのは、NVQはもともとイギリスで80年代から行なわれてきた公的な職業能力評価システムのことだからである。日本版NVQについて詳しくみていく前に、まず日本版NVQを導入しようとしている政策意図について確認しておこう。
日本版NVQの文脈
ここで新成長分野とされているのは「介護」「保育」「農林水産」「環境・エネルギー」「観光」である。これは民主党が打ち出している「ライフ・イノベーション」「グリーン・イノベーション」の分野と重なっている。製造業に頼った経済成長がほとんど望めなくなる中で民主党政権が期待をかけるのが、これらの新しい産業分野である。しかし、大規模な産業構造を転換するには多くの課題がある。特に労働力の問題でいえば、新しい産業分野に必要な技能を持った労働者が不足しているということが大きい。
日本では企業を越えた技能評価の客観的な基準が存在せず(ジョブの不在)、企業内OJTにもとづく特殊な熟練や人事考課による属人的な評価によって労働条件が決定されている。
現状では失業者や転職者が新しい産業分野に就労しようとしても、これまでの就労経験や技能形成はほとんど評価されず、新しい産業分野への労働力移動は限定され、またその質も保証されないものになる可能性が高い。
そこでスムーズな労働力移動の条件をつくるため、職業訓練や公的な扶助を通じて新成長分野への就労支援を行うという政策が有効だ。日本版NVQでは職業能力を客観的に評価する「キャリア段位制度」を導入することで、職業訓練を外部労働市場で通用するものへと変えていくことが目指されている。これまで社会的にばらばらの基準でおこなわれていた職業訓練を公的機関が評価する。そのことによってNVQの認定を受けた労働者は公的に証明された職業能力の資格を持つことになり、新しい分野への移動が促進されると考えられる。
このような政策は特に北欧諸国で実施されており、積極的労働市場政策(アクティベーション)と呼ばれている。積極的労働市場政策の意義は経済政策としての有効性だけではない。この政策は、失業者に新たな技能とそれに合致した新しい産業分野での職を提供することになるため、産業構造転換期の社会的セーフティーネットとして注目をされている。この背景にはグローバル化によって雇用が減少する中でいかに地域で雇用を創出していくのかという問題意識が存在する。
日本版NVQは民主党政権の「新成長戦略」の中で、こうした積極的労働市場政策の一環として位置づけられていると言えるだろう。骨子を見る限り日本版NVQは経済成長戦略の意図が強く出ているように思われるが、それを通じて雇用の確保とジョブ型の労働市場形成が図られるということが重要である。「肩書き社会からキャリア社会へ」というフレーズは日本版NVQの目指すところを端的に表現している。
労働市場の転換のために日本でもすでに日本版デュアルシステムやジョブ・カードといった政策が取られており、日本版NVQはそれをさらに発展させたものであるといえる。
実際、現代日本での労働市場の問題を考える上で職務基準にもとづいた評価を社会的に形成することの意義は大きい。それは日本型雇用の下での属人評価が、容易に労働者の「自発的な」働きすぎを煽ってきたことや、企業の業績や規模、雇用形態によって賃金水準が大きく違うといった状況を変えるための条件を整備することだと言えるだろう。問題は、どれだけ労働側にとって実質的に意味のあるNVQを整備していくかである。この点に関して、より具体的に日本におけるNVQの可能性と実現への課題という視点からより立ち入った考察を行ないたい。
参照:日本版NVQについて(後半)
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