今回は、5月12日に行われた震災・貧困ワーキングチームの会議の様子を紹介します。この班では、生活保護や奨学金等についての生活相談への対応や、被災地へのボランティアの送り出しなどに取り組んでいます。2週間に1回のペースで開かれる会議では、相談事案の共有・検討や、学習会、セミナーの企画などを行っています。
■生活相談報告
先日の会議では最初に、最近POSSEに寄せられた生活相談に関する相談の内容について、参加したボランティアみんなで検討し、疑問点や論点について議論しました。検討した相談は「現在生活保護を受給しているが、ケースワーカーから月収13万円以上の仕事に就くように言われていて困っている」、「福祉事務所に行っても、ハローワークを紹介されるだけで追い返されてしまう」、「パワハラがつらく職場にいくことができないが、所持金が300円しかない。他の相談機関に行ってもまともに対応してくれない」といった、どれも深刻な内容のものでした(※相談者の個人情報保護の観点から、相談を加工した部分もあります)。参加したボランティアは、自分が相談を受ける立場であればどのように対応するかを考えながら、「働く意思があることをケースワーカーに示すにはどうしたらよいか?」や、「車などの資産は、生活保護の受給に当たってどの程度所有が認められるのか?」など実践的な観点から疑問点を出しあい、相談経験のあるボランティアが詳しく解説をしていました。
生活保護行政については以前から、窓口で申請自体を受け付けずに追い返すといった違法な制度運営の問題 ( いわゆる「水際作戦」) が指摘されていますが、今回寄せられた相談で印象的だったのは、生活保護を受給している相談者が、できるだけ早く保護を打ち切ろうとするケースワーカーから、本来の「自立支援」を逸脱するような就労圧力をかけられたり、人権侵害にあたるようなパワー・ハラスメント(以下、パワハラ)を受けるという、受給開始“後”の問題が浮かび上がってきた点です(この問題に関して詳しくは、雑誌『POSSE』14号所収・川久保尭弘「生活保護受給者の就労支援を妨げるケースワーカーのパワハラ問題」を参照ください)。今年の3月には、京都府の宇治市が、生活保護を申請した母子世帯の女性に、異性と生活することを禁じたり、妊娠出産した場合は生活保護打ち切りを強いる旨の誓約書に署名させていたことが発覚しましたが、このようなケースワーカーからのパワハラの問題が広がりつつあることがうかがえます(注1)。こうした圧力のもとでは、最低限度の生活を維持するために必要な保護が打ち切られてしまうことも考えられます。
こうした情勢の変化のなかで、震災・貧困WTの取り組みとしても、これまでのように申請に同行することで生活保護をきっちり開始させるだけでなく、受給中にまでわたる継続的なサポートをしていくことも重要になってきていると感じました。
■学習会
休憩をはさんで後半は、不正受給報道などにみられる生活保護バッシングについての現状分析を行いました。発表を担当したボランティアが、この間の新聞などの不正受給に関する報道をまとめ、現行の支給引締め政策などの問題点についても議論しました。そこでまず驚いたのが、不正受給に関する報道の多さです。それに伴って、支給引締めに関する政府や銀行団体などからの提案も盛んになされています。具体的には、担当部署に警察官OBを配置するものや、銀行口座などの資産調査を強化するといったものなどで、こうした支給引き締め策によって、働ける人のいる世帯(稼働世帯)や反社会的な団体などを制度から締め出すことを想定しています。しかし、こうした報道の一方、生活保護費の総額に対する不正受給の割合は0.4%と、実際にはかなり少ないですし、生活保護受給世帯全体の構成も、高齢者世帯、傷病者世帯、障碍者世帯、母子世帯が9割を占めており、働くことができる世帯はむしろ少数派なのです。つまり、支給引締め案が想定している受給者像と、実際の受給者とのかい離が見られる訳です。こうしたかい離の中で、最低限度の生活維持のために本当に保護を必要としている人たちが、支給引締めの対象となることが非常に憂慮されます。
では、こうした報道にみられるような生活保護バッシングはなぜこれほど強いのでしょうか。発表したボランティアが着目していたのは、日本の生活保護の捕捉率(注2)の低さ、そして最低賃金の低さです。捕捉率については、イギリスが87%、フランスが約90%であるのに対し、日本は20%前後の低水準であると専門家による各種調査で明らかにされています。日本ではそれだけ多くの生活保護を必要としている人が制度から漏れている(捕捉されていない)ということですが、生活に困ったら生活保護を受給するということが普通であると認識されない、裏を返せば生活保護を受ける層が自分たちからは遠い「特殊な人々」とみなされ、しばしばバッシングの対象とされる一つの原因となっています。また、もう一つの原因として挙げた最低賃金の問題点は、具体的な世帯の例を考え、生活保護基準と比較するとよくわかります。たとえば函館市に住む母、長男、次男の母子世帯では、生活保護を受給した場合を想定すると、生活扶助や住宅扶助などを合算して月21万円が最低生活費となるのに対し、最低賃金でフルタイム(1日8時間、週6日)働いた場合には14万円の収入しか得られないという、最低賃金水準が生活保護基準を下回るというアンバランスな関係があります。本来ならば捕捉率を上げて、誰もが生活に困ったら生活保護を受けられるといった状況の中で、劣悪な条件や低すぎる賃金でも働かざるを得ないような人を減らし、労働条件の切り下げにつながる過剰な労働者・失業者間の競争を是正することが必要です。しかし現実には、受給者自身が生活保護を受けていることを恥だと感じたり、「生活保護受給者は、仕事もせずに怠けている。」といった受給者に対するバッシングだけが表れており、このアンバランスを解消するための提案はなされていないという指摘がありました。発表の後、参加者からは「状況を打開するにはどのような対案が必要か?」などの論点が出され、活発な議論が行われました。
■最後に
最後に、4月30日に開催したセミナー (NPO法人さいたまユースサポートネット代表の青砥恭さんにお越しいただき「子どもの貧困」についてご講演いただきました) の検討を行って会議が終了しました。
今回の会議は、実際に生活相談をうけるための知識を身に付けつつ、生活保護について社会問題的な観点から考えるという、非常に中身の濃い有意義なものになったと思います。次回の会議では、より実践的な生活保護のしくみについて学習会を行う予定です。この記事をご覧になり、震災・貧困WTの活動に関心を持たれた方はぜひ一度見学にいらっしゃってください。
少し長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!
■補足
(注1) 詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
http://blog.goo.ne.jp/kyotoposse/e/142ece5d9666291b57c0873b01a750fa
(京都POSSEブログ「宇治市の生活保護誓約書事件にみるケースワーカーのパワハラ問題」)
(注2) 「捕捉率」は被保護世帯数を要保護世帯数で除して求めた数値を百分率で表したもの。
実際に保護受給の権利がある世帯のうち、どのくらいが実際に保護を受けているかを表します。
こちらをご参照ください。
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatuhogohou_kaisei_youkou_leaflet.pdf
(日本弁護士連合会 生活保護法改正)
(大学2年生、ボランティア1年目)
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貧困・生活困窮問題に取り組むボランティアの力が必要です!
POSSEでは、生活相談ボランティアを募集しています。生活困窮や介護保険などの制度利用、奨学金返還の困難といった相談には、全てボランティアで対応しています。知識や経験は一切問いません。社会福祉士や弁護士によるレクチャーや勉強会を定期的に開催しているので、相談対応に必要な法制度などの知識は一から学ぶことができます。
ご関心のある方はお気軽に下記連絡先にお問い合わせください。
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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。
なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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NPO法人POSSE(ポッセ)
代表:今野 晴貴(こんの はるき)
事務局長:川村 遼平(かわむら りょうへい)
所在地:東京都世田谷区北沢4-17-15ローゼンハイム下北沢201号
TEL:03-6699-9359
FAX:03-6699-9374
E-mail:info@npoposse.jp
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