典型的なバンドマンの姿はこんなものではないだろうか?
日々の収入の多くはアルバイト等や派遣等の非正規雇用で稼ぐ。(ライブやオーディションやツアー等の予定を優先させるために、残業や転勤などの拘束の多い正社員はとりあえず避ける。)もちろん首になりたくないので、バイトはそこそこしっかりやる。バイトをしていない時間は、ライブをやったり、それに向けた練習や曲作り、レコーディング・広報活動等々、非常に忙しい。
また、夜は友達のバンドのライブを見にライブハウスへ行くことも多い。もちろん、ライブハウスで音楽を聴くのも好きなのだが、もう一つは「今度は友達のバンドに自分達のライブへ来てもらうため」という理由だ。
いつの頃からかライブハウスの文化の中に、ノルマをこなすためにバンド同士があたかも貸し借りをするかのように互いのライブを見にいくという暗黙のルールのようなものがある。そう、実はライブハウスに来ているお客さんの多くは「自分もバンドをやっている人達」で、悲しいことだが、言わば「顔つなぎの営業」のために、ライブに顔を出しているという者もいる。
また、ライブ後に酒の席等にも積極的に顔出すことが望ましい。そういった場で知り合いを増やしていけば今度の自分のライブに誰かが来てくれるかもしれないのだ。だから翌日の朝のバイトには寝不足&二日酔いで出勤などということもせざるを得ない。
さて、こう見ていると「ライブハウスで遊んでいる」とか「酒飲んではしゃいでる」とか思われているバンドマンの実態は、あたかも営業職の社員のような日々ではないか。自分達がライブ活動を続けるためには、ここまでしなければ、いけないのだ。(もし「そういうのは一部のダメダメなバンドのことじゃん?」などと思うならばライブハウスの現状が見えていない。むしろ今ライブハウスで積極的に活動して集客出来ているバンドの程、こういう努力をしているものが多いのだ。)
基本的に物凄く忙しい。身体にも無理をさせている。ただ、いくら真面目に努力したところで、経済的には苦しい状態に置かれている者が多い。実際に収支を分析してみたら、どうなるのか興味があったので、僕の思いつく限りでライブハウスに出てそうな典型的なバンドをイメージして架空のアンケート方式でシミュレートしてみた。
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Q1、あなたのバンドの活動歴はどれくらいですか?
A1、2年くらいです。
Q2、あなたのバンドの構成メンバーは何人ですか?
A2、ボーカルとギターとベースとドラムで4人です。
Q3、あなたのバンドの平均年齢はどれくらいですか?
A3、大学卒業して2年くらいの人間が多いので、24、25くらいです。
Q4、あなたのバンドの出演しているライブハウスのチケットノルマは平均してどれくらいですか?
A4、だいたいは1500×20枚=¥30000っすねー。
Q5、ノルマは達成できていますか?10回ライブをやったとした場合、その内のチケットノルマ達成率はどれくらいですか?
A5、ぶっちゃけ、10回のうち8回くらいは達成できない。(=非達成率80%)
Q6、ノルマを達成できた場合の黒字(バンドへのチャージバック)はライブ1回につき平均いくらですか?
A6、達成してもバックは21枚目からだし、50%バックだから1枚で750円ですねえ。黒字っていっても土日のブッキングの時に2、3人分超えられるかどうかだから、1500くらいかなあ。
Q7、ノルマを達成できない場合の赤字(ライブハウスへの保証金)はライブ1回につき平均いくらですか?
A7、平日のライブではいつも集客が8人程度なので、12枚分の赤字で18000ですかねえ。
Q8、あなたのバンドは平均してライブハウスで月に何回ライブを行ないますか?
A8、月2回ほど
Q9、ライブにむけての練習スタジオ代は月でどれくらいかかりますか?
A9、スタジオでの練習は週1回ずつです。1時間2400のスタジオで、いつも大体3時間ずつ練習するのでバンド単位では、一回につき(2400×3h=7200)です。それを4人のメンバーで割るのでひとりの負担は1800ですね。それが毎週だから月になおすと結局一人の負担額も1800×4週=7200ですね。
------------収支分析------------------------
このバンドの年間収支
年のライブ回数 月2回×12ヶ月=24回
黒字ライブ率 20%
黒字ライブ1回分の平均チャージバック 1500
赤字ライブ率 80%
赤字ライブ1回の平均ノルマ保障額 18000
年24回中4.8回が黒字、19.2回が赤字。
(1500×4.8)-(18000×19.2)=7200-345600=-338400(年)
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なんと1バンドで年に338400もの赤字となった。バンドメンバー4人で割ると1人でライブのノルマ代だけで年間84600の赤字。これに月に7200のスタジオ代(×12ヶ月)が加わると、さらに年間で7200×12=86400が加算され、ただライブ活動を維持するためにこのバンドのメンバーは1人で年間171000も支出が必要だ。バンド単位では684000!(ちなみにライブハウスのノルマがなければ、これが半分になるのだが…。)
実際は楽器代などでもっとかかるはずだし、消費者金融やローンのお世話になっている者にはこれに「利息」も加わってくる。だが、まだこのバンドは多分、経済的にはかなりいい方ではないかと思う。もっとノルマの高い店に出たり、もっとライブ本数が多かったり、赤字率の高いバンドは、おそらくもっとひどい状況になっているだろう。
金銭的・数値的な観点から見ると悲惨としか言いようのないバンドマンの日常だ。だが当のバンドマンは意外にこの辺に対して鈍感だったりもする。おそらくこういった問題に対して鈍感な人の多くが「将来的にはビッグになってガンガン稼いでいるはずだから、今は我慢する」という発想でいるのかと思う。またライブハウスの人が「今はビッグな人達もみんなこういう苦労して来たんだよ」「ノルマがいやなら外でやれ」とか言って、バンドマン達に「ストイック&真面目であること」を要求しているという構図も要因としてあるのだろう。
だが、僕は言いたい。今、バンドをやっている中のどれくらいの人達がいわゆる「ビッグ」になれるのだろうか?いい音楽を奏でていても世間にはさほど知られないままで終る人達だって多い。多くのバンドマン達はライブ活動を続ける限り、不安定な収入のまま、毎年赤字を累積させて暮らしていくことになるのだ。「夢」を追うなとは言わない。でも、ここに掲げられているのは「現実」の問題だ。こっちの方をキチンと見つめる程度の勇気も持ってほしい。(20代はそれでも「真面目に」頑張って、30才頃に気づくというパターンも多い。気づくというよりも金銭的に限界に到達することになるのだろう。だって年間171000も赤字があれば5、6年で100万近くなるんだから。)
ライブハウスは楽しい場であって欲しい。音楽好きの人々が自然に集う場であって欲しい。バンドマンは素敵な音楽を奏で続けて欲しい。誰かにお金をむしり取られたあげくに音楽を続けられなくなったりしてはいけないと思う。
NPO「POSSE」は非正規で働く若者が互いに交流し、学べる場をつくり広げることを目的としている。もし、日本で非正規で働く者の労働環境が改善されていけば、バンドを続けていくこともやりやすくなるだろう。こういう活動に対してバンドマン達は積極的に支援していくべきだと僕は考える。
そして同時に、僕らのように音楽に携わる人間は音楽の奏でられる現場を「より活き活きとしたもの」「時代に即したもの」に変革していかなければならないと思う。それにはまず、「当たり前のこと」だと、誰かに吹き込まれて来たことに対して「不真面目に」なってみるのもいいのかもしれないと僕は思う。
(ライブイベント「pipes of piece 」プロデューサー浅見太郎
http://www.geocities.jp/asamidays/yoyogi/event.html)
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