【2011年9月13日火曜日 朝日新聞】
http://www.asahi.com/health/news/TKY201109120571.html
厚生労働省は、原発での作業中の被曝(ひばく)が原因でがんなどの病気になった場合、労災にあたるかどうか判断する認定基準作りに乗り出す。現在は白血病や急性放射線症などしか基準がなく、他の病気についても被曝との関係を調べる。東京電力福島第一原発の復旧にあたる作業員の労災申請の増加が長期的に見込まれるため、体制を整える。
労災の認定基準は厚労省の通達で決められている。原発作業などで長期間被曝すると、被曝線量に比例して発がんリスクがわずかに上昇するとされる。白血病の基準は、旧労働省が1976年に出した通達で「年5ミリシーベルト以上被曝」「被曝開始後1年を超えた後に発病」としている。これらの条件を満たせば原則として労災が認められる。
この基準は白血病の発病と被曝線量の因果関係を医学的に証明したものではない。当時の一般人の被曝限度が年5ミリシーベルトだったため、その数値を労災の基準にしたとされる。
急性放射線症の基準は「比較的短い期間に250ミリシーベルト以上の被曝」などとなっている。また、通達による基準ではないが、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫については、労災と認めた「判例」がある。
肺がんや胃がんなど、そのほかの病気では、そうした基準や判例がなく、労災申請しても被曝との関係を個別に明らかにしなければならなかった。厚労省は「(ほかの病気は)労災申請自体が少なかったため」としている。被曝を原因とした労災が認められた原発作業員は、これまでに10人にとどまっている。
この記事は、3・11での福島原発事故への対処のために大量被爆労働者が増加していることを背景にした労災認定の基準づくりに関しての記事です。きちんとした労災認定基準をつくることは、今現在も被曝量が増え続けている原発労働者に対する、いざというときの保障として、とても重要な課題です。
では、これまでの状況はどうなっていたかというと、現在では以下のような基準があります。
○1976年基発810号「電離放射線に係る疾病の業務上外の認定基準について」
対象:白血病、すべての固形がん
認定基準
①相当量の電離放射線に被曝した事実があること。なお、相当量の被曝とは5ミリシーベルト×(電離放射線被曝を受ける業務に従事した年数)以上であること。
②被爆開始後少なくとも1年を超える期間を経た後に発生した疾病であること。
③骨随性白血病またはリンパ性白血病であること。
当時は一般人の被曝限度基準が年間5ミリシーベルト(現在は1ミリシーベルト)であったため、被曝労働者の被曝線量が一般人の被曝限度基準を超えた場合において、超過分を業務に関わるリスクであると認めて、この結果生じた疾病を労災の対象にしようという労災基準が制定されました。記事の中でも指摘されているように、この基準は白血病の発病と被曝線量の因果関係を医学的に証明したものではありません。
そして今でも、この通達による基準が認定基準になっています。
また、2010年に上記の③に該当する症状にいくつかの症状が追加されました。
○2010年の労働基準法施行規則35条別表第1の2「第七号10」が改正
対象:白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫、甲状腺がん、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫(ヒホジキンリンパ腫)
今回の追加で以前より多くの症状が労災として認定されるようになりましたが、これらの基準は海外の基準と比べてはるかに低いものです。下の表をご覧ください。
各国で被曝労働の補償対象としてリスト化されている疾病
出典:原子力資料情報室編『原子力市民年鑑<2010>』(七つ森書館、2010年)
ひと目でわかるように、日本では労災制度下では放射線起因性が認められている疾病が非常に少ないのです。外国との比較においてだけでなく、「原爆症認定基準」と比較もしてみても、被曝労働における認定基準が非常に厳しいものであることがわかります。
では次に労災の申請や認定についての現状を考えていきたいと思います。現在の日本の労災申請の状況は、下の表のようになります。
原発での被曝労働者の労災申請一覧(2010年9月現在)
出典:原子力資料情報室編『原子力市民年鑑<2010>』(七つ森書館、2010年)、梅田隆亮さんのみ修正
この表は2010年に原子力資料情報室が厚生労働省に情報公開を請求して明らかにしたものです。この表から分かるように、まだ10名しか認定されていないのです。このことからも、認定基準の厳しさがわかります。この要因として挙げられるのは、放射線被曝の被害は確定が難しく因果関係が常に判然としない、という客観的状況と、原発稼働のリスクを下げたい電力会社などによる、意図的な被曝の証拠隠しなどが行われている現状です。
また、申請数も異様に少ないのです。なぜ申請数がこんなにも少ないのかというと、認定基準の厳しさだけでなく、被曝労働者が実際上労災申請できない状況に追い込まれるという事実があるといわれています。ひどい場合には、電力会社が金を積んで沈黙を強要することもあります。
これらの詳細は『POSSE vol.11』掲載の樋口健二さんの論文である「原発が葬り続けた被曝労働者たち」に載っていますので、是非一度ご覧頂きたいと思います。
以上のような現状がある中、認定基準の見直しは重要な課題です。これまでも何度かニュースになってきたように、大量に被曝した労働者は増え続けています。今すぐに健康に影響が無くても、短期間に大量の放射線を浴びる時に発症する急性の症状こそないものの、多くの人が放射線を浴びて数年~数十年後にがんなどが発症危険性を否定することはできません。そのため、直近だけでなくその仕事を離れた後の被害も含めて補償することが重要になってきます。
労災申請・認定には基準だけでなくその他の壁もありますが、まずは危険な労働をすることにたいする規制と補償を行うという意味で、認定基準をしっかりと作っていく必要があります。
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