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4.26 NHKクローズアップ現代「やめさせてくれない ~急増する退職トラブル~」解説


4月26日放送のNHKクローズアップ現代では、「やめさせてくれない」が取りあげられています。

■“退職拒否”相談が急増
「退職届を出したのに上司が受け取ってくれない」「代わりが見つかるまで、と辞めさせてもらえない」といったトラブルが今回のテーマです。こうした相談は、東京都労働相談情報センターでは、ここ数年で4割上昇し、2011年度は668件、NPO法人労働相談センターでは、この2年で3倍に急増しているそうです。

IT企業で正社員として働いていた男性は、1ヶ月前に退職届を提出したにもかかわらず、認められずにいるといいます。この男性が辞めようとしたきっかけは、自身のミスによって会社に損害を与えたとして給料を天引きされるようになったことです。手取りで約30万円だった給料が、11万円ほどに下げられたときもあったようです。その後、退職届を出しても離職票が発行されず、雇用保険の失業給付が受けられない状態となっていました。さらに、後に発行された離職票には「懲戒解雇」とあったということです。

民法627条では「雇用は解約の申し入れの日から2週間経過することによって終了する」と定められており、正社員の場合、2週間の予告期間をおけば理由の如何を問わず辞職することができます。会社が「認めない」とすることはできず、また、離職した日の翌日から10日以内に離職票を発行しなければならないため、会社はこの義務を怠り、労働者が失業給付を受ける権利を妨害しています。

■「辞めさせない」ためのさまざまな手法
法律的な観点から見れば、辞めてしまえばいいのでは?と思われるかもしれません。しかし、「退職届を目の前でビリビリ破られ「バカなの?」と言われた」「懲戒解雇にすると脅された」といった事例からは、怖くて辞めたいと言い出せないという状況に置かれる労働者の状態が垣間見られます。なかでも、「辞めるなら未払い分の給料を支払わない」といったケースが多いとされています。番組製作会社に勤める正社員の女性も、辞めるなら給料カットを認める誓約書を書けと言われたとして紹介されています。

さらに、会社と労働者の力関係を表す象徴的なものとして、「辞めたら損害賠償を請求する」というケースがあげられます。

IT企業で8年間働いていた男性は、連日9:00~4:30勤務といった長時間労働が続き、体調を崩したことを契機に、社長に退職を申し出たそうです。しかし、社長は退職を「認めない」と、辞めることを撤回するまでは部屋から出られないような状況にしました。この方は、うつになり出社するのを辞めたそうですが、その2日後、会社から「責任を果たさなければ損害賠償を請求する」との内容証明が届いたそうです。そして、退職届を提出した4ヶ月後、2000万円の損害賠償を請求されたということです。会社は、この男性が課長になってからの業績不振を理由に「損失を取り戻し、残された社員を守るため裁判を起こした」と取材に対して答えています。裁判ではもちろん会社の訴えが退けられ、逆に賃金の未払い分1000万円の支払いが命じられました(来月、控訴審)。

「損害賠償を請求してやる」「訴えるぞ」などは、これまで見てきたように「辞めさせない」ための会社側の脅しの手段として機能しており、実際訴えてくるケースはほとんどありません。なぜなら、損害賠償を請求する根拠が会社側にはないからです。その点からいって、この会社の行動は異様なことと見えます。

日本労働弁護団会長の宮里邦雄弁護士も、働くなかで通常起こるようなミスをすることは雇用関係を取り結ぶなかに含まれており、上記のようなケースは法的に責任を追及される根拠が全くないと解説されています。懲戒解雇に関しても、限定的な場合にのみ認められる制裁手段であるため、「懲戒解雇」という文言もまた、辞めさせないための手法であるといいます。仮に懲戒解雇とされてしまっても、適切な機関に相談に行き、争うことでほとんどの場合、解決することができます。

■なぜ辞められないのか
「辞めさせてくれない」の問題は、現在の職場の状況や雇用情勢を大きく反映しているといえます。事例に挙げた正社員の2人の男性は、いずれも「働き続けられない」状況に置かれ、離職を決意しています。1人目の方は、ミスを理由に給料を半額以下にも下げられ、詳しい状況はわかりませんが、最低賃金を割って働いていた可能性も考えられます。2人目の方は、1日20時間近くの長時間労働のなかで働いていました。こうした違法状態、あるいは違法とまではいえなくとも、安心して働き続けられるとはとてもいえない状況においては、離職を考えざるをえないのは当然のことといえます。

一方で、労働者は、会社を辞めたとしても、必ずしも再就職先が見つかるとは限らないという非常に不安定な状況に置かれています。ここから、働く側が、長時間労働や労働条件の不利な変更、そして会社側の「辞めさせない」という働きかけに応じずにはいられない状態にあることは容易に想像がつくでしょう。

こうした問題については、会社の違法行為に対して、労働者がもつ権利を行使し、きちんと規制をかけていくことが重要です。会社側の不当な行いの多くは、法律を使って解決することができます。宮里弁護士の「争うという覚悟さえ決めれば」というコメントが印象に残りました。

本ブログでは上記のような相談事例を紹介しております。詳細は「相談事例紹介~辞めたいのに辞めさせてもらえない」をどうぞ。

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