3年前に鹿児島市で購入した、孟宗竹(おそらく)の『五角形の竹箸』で、すっかり竹製の箸の魅力のとりことなってしまった。
木製には無い箸の細さ、そこから、食材の個性が箸先を通して指へと伝わってくる気がするのだ。
竹の肌触りも何だか懐かしさを感じて、しっくり馴染むような気がする。
振り返ってみると、子どもの頃から竹細工が好きで、おじいちゃんに竹の花瓶や竹トンボの作り方を教わったことがあった。
囲炉裏なんてないのに、自在鉤まで作ったこともあった。
おじいちゃんは、竹細工や竹を使ったものを作るのが得意だった。
それもその筈、おじいちゃんは桶や木樽などを作る職人で、その当時、桶や樽のタガは竹だったから、竹の扱いもプロだったのである。
今はステンレスのタンクになってしまったけれど、芋焼酎の製造過程で使う大きな木の樽、横に倒した状態で大人が立ったまま入れるような大きな樽も手掛けていた。
鹿児島では、そんな木樽作りの職人さんを「たんこどん」と呼んでいた。
今では殆ど死語だろうけど、『木元竹末』(きもとたけうら・きもとたけすえ)という言葉も、「たんこどん」だったおじいちゃんに教わったことを思い出した。
木や竹を繊維に沿って縦割りにしたり、削ったりするとき、木は根元の方から、竹は末(先端)の方から刃物を入れるという意味である。
おじいちゃんを思い出したら、さらに、もっと細い箸が使ってみたくなった。
そして、「煤竹」の箸が欲しくなった。
「煤竹」と一口に言っても、様々な種類があるらしい。
ボクが欲しいのは、『本煤竹』の箸。
『本煤竹』とは、古民家の藁ぶき屋根などの骨組みとしてずっと使われ続けてきた建築用の竹材のこと。
そのような古民家の建材の一部として使われてきたもので、歴史を考えると、それが作られてから壊されるまで、その間ずーっと家を支え続けてきた訳で、100~200年前に伐採され、加工された竹なのである。
囲炉裏の煙などで燻され、煤で色が付いた竹材を、不用品として捨ててしまうのではなく、更に加工して再利用するのだ。
東京での古民家の解体なんて、今では殆どないだろうから、本煤竹を使った竹箸を作っている竹細工屋さんなんて見かけないけど、地方では時々あるらしい。
今は便利なネットの時代。
【煤竹箸】は簡単に見つかった。
ところが…、高い!
贈答品ならまだしも、自分用に買うには高価、贅沢すぎる。
更に色々と調べ、何とか手の出せそうな【本煤竹の箸】を発見し、購入した。
職人さんの技が詰まったこの煤竹箸、とにかく細い。
力を加えたら折れてしまうんじゃないかと思うくらいの細さだ。
ところが、使ってみると見た目と違って頑丈で強い。
力が加わっても、竹製だからしなるので、折れることは無いのだ。
軽くて丈夫、指先の感覚が素直に箸に伝わり、また箸先の触感がストレートに指へ伝わってくる…そんな気がする。
「繊細さ」「強さ」「しなやかさ」が、絶妙に共存しているという感じ。
すっかり気に入ってしまった。
そして、100年以上前に生えていたであろう竹で作られたこの【煤竹箸】、使い始めてから、4年目に突入した。