自分の将来に特別な夢や希望を持っていなかった森尾小雪は、
友人の誘いを受け、とある料理教室で体験受講をする。
そこで一人の料理研究家と出逢い、未だかつて経験した事のない
不思議な衝動にかられる。
「この人と働きたい」
その先に何があるのかは全く解らないが、小雪の心がそう叫んだ。
小雪はありのままの自分をその料理研究家にぶつける。
そのこと自体、彼女自身すら信じられなかった。
戸惑い不安に襲われながらも、きっとそこに何かがあるような気がして・・・。
きっと何かを見つけられるような気がして・・・。
一歩一歩、歩み始める。
地図のない人生を歩み続けるのに必要な羅針盤は、全ての人の心の中に本来
備わっている「自分を信じる」と言う力だった。
その力を支えるのに必要なものは「情熱」
勿論、信じる者だけが救われるわけでもない。
しかし、そこには信じる者だけが知り得る世界があった。
【本書を執筆するにあたり】
素材の声を聞ける様になる為の(未だ聞けませんが)30年に及ぶ料理人人生は、
私にもう一つの生きる道を教えてくれました。
料理をおいしく作るコツをルセット(レシピ)にして、多くの方にお伝えすると
言う事。
職人は口べたで無愛想という言葉通りの私が料理講師という仕事に就けるとは思
いもしませんでした。
人生は実に不思議です。
一分後・・・。
思いもよらない人生の分岐点に出逢うことがあります。
一分間だけ・・・。
余計に続けたら見える世界があります。
今から23年前、フランスから帰国した私に待っていた仕事はレストランの料理
長職ではなく、有名料理教室のシェフ、そして主任講師でした。
あれから23年間具体的な料理の作り方、テクニックをお伝えしました。
のべ人数にすると約2万人・・・。
何時もその背後にあったものは、料理を仕事として生きてゆく、職人として生き
て行く、覚悟と醍醐味でした。
「あなたの料理をおいしくする術」から学んだ
「あなたの人生をおいしくする術」
それをお伝えする為に、私は料理小説を書き始めました。
「きっと料理を作りたくなる本」は料理を愛する方々・・・、
料理職人や多岐にわたる職人人生をめざす方々・・・、
人生の岐路に立ち止まり、悩み、不安を感じる方々・・・、
料理を今までと違った方向から感じてみたい方々・・・、
勿論、料理を作ってみたい方々・・・の為に。
「小雪」からご紹介しますが「健太」「千秋」「雅美」「恵美」「秀平」
・・・・と、料理人人生を歩み続けようと決意する若者達や彼らを育くむ
諸先輩がこれから続々と登場します。どうぞご期待下さいませ。
30年かかって、ようやく解った事があります。
「この物語を紡ぐため、私は料理人になった」
伊織ひろみ