行くはずだったノラ・ジョーンズ。仕事が終わらず、退社したのが8時半では間に合わない…5年ぶりに会えたのに…残念。仕方がないからライブレポートを借りよう…
【Norah Jones/ノラ・ジョーンズ】
昨夜の東京初日、日本武道館公演のライブレポートを公開!
残る公演は、16(日)・18(火)日本武道館、17(月)大阪城ホールの3公演のみ!
5年ぶりの来日公演をお見逃しなく✨
公演詳細👉https://udo.jp/concert/NorahJones2022
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2017年4月以来5年半ぶりとなるノラ・ジョーンズのジャパン・ツアーが、10月11日の札幌からスタート。13日の仙台公演を経て、東京・日本武道館における3日間公演の初日を14日に迎えた。
オープニング・アクトはロドリゴ・アマランテ。ブラジルはリオデジャネイロ出身のシンガー・ソングライター(ギタリスト/フルート奏者)で、かつてマルセス・カメロと共にロス・エルマノスという人気ロックバンドで活動していた人だ(米ロックバンド、ストロークスの作品に参加歴もあり)。ノラ・ジョーンズは2019年にロドリゴをフィーチャーした2曲を配信リリースし、そこでもノラがロドリゴの歌声に惚れこんでいることがよくわかったものだった。今回は急遽決まったためか、彼が出演することの情報がブラジル音楽を愛する人々にまで広く行き渡っていなかったのは残念だったが、「私の名前はロドリゴ・アマランテです。みなさんにお会いできて嬉しいです」と日本語で丁寧に挨拶して歌い始めた彼は柔らかな笑みを浮かべ、武道館で演奏することの喜びを感じているようだった。サウダージの感覚を十分に含んだその歌声には深い味わいがあった。途中、自分は目をつぶり、音と声だけに集中してみると、“こことは違う別のどこか”の国の景色がイメージできた。ギター弾き語りで昨年の2ndアルバムからの曲などを7~8曲だったか披露したあと、最後にロドリゴはピアノを弾いてもう1曲。2ndアルバム『DRAMA』の最後に収録された「THE END」だったが、これがギター曲とはまた異なる味わいがあり、とりわけ沁みた。
休憩を挿み、19時半にノラ・ジョーンズのステージがスタート。ライブに生きるアーティストであるノラも、多くのミュージシャン同様、パンデミック以降は客前の演奏ができずにいたわけだが、今年6月から8月にかけてのアメリカ・ツアー(レジーナ・スペクターが同行)でライブ復帰。今回の日本公演はそのアメリカ・ツアーの延長にあるものだ。といっても、その内容はどういったものなのか。どのあたりの曲で構成されているのか。アメリカ・ツアーの詳細を自分はあえて調べることなく、今回の武道館に向かった。13日の仙台公演のセットリストも既にプレイリストとなってアップされていたが、それも見なかった。驚きも込みで楽しみたかったからだ。
今回のバンドはノラを含めて4人。ドラムはお馴染みのブライアン・ブレイド。「歌詞をなぞるように演奏するドラマーで、ものすごいグルーブを感じるの。もちろん人間的にも最高だし」。去年のインタビューでのノラの言葉だが、デビュー時からの付き合いである彼女がそう言う通り、まさしく「ものすごいグルーブ」を出せて「人間的にも最高」なミュージシャンだ。ベースはクリス・モリッシー。ミネアポリス出身で、現在はブルックリンを拠点に活動し、マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテットの一員でもある。エレクトリックギターとペダル・スティール・ギターはダン・アイード。ノラの『デイ・ブレイクス』『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』や、ヴァレリー・ジューン、クアドロンらの作品に参加してきたニューヨークのミュージシャン。今回のライブはペダル・スティールの演奏が肝になっている曲も少なくなく、彼がいることでこの新バンドの特徴が明確になっているとも言えそうだ。
ここからは演奏曲のタイトルも書きながら、この日のステージをざっと追っていく。これからご覧になる方で、曲目を知りたくないという方は、公演後に読んでいただきたい。
照明が落ちると、まずは男性メンバー3人がステージに登場。音が鳴りだしたなかで続いてノラがステージに現れ、両手をあげて「ただいま」の気持ちを表わした。そのまま中央で立って歌い始めるノラ。ピアノもギターも弾かず、立って歌だけうたうノラというのは珍しい。たぶん今まで見たことがない。新鮮だ。曲はミニアルバム『ビギン・アゲイン』からのリードシングルだった「ジャスト・ア・リトル・ビット」。曲の中盤でノラはステージ向かって右手に配置された鍵盤を弾きだした。2曲目は3rdアルバム『ノット・トゥ・レイト』からのシングル曲「シンキング・アバウト・ユー」。だが演奏が始まったときには何の曲だかわからなかった。アレンジが大きく変わっていたからだ。間奏のダン・アイードのギターがブルージーだった。歌い終わると、「ここにいることができてハッピーよ」とノラ。客からの歓声に応えて「サンキュー。アイシテル・トゥー(too)!」とも。そしてステージ向かって左に置かれたピアノを弾きながら『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』の「セイ・ノー・モア」を歌った。
続く4曲目は、これもイントロでは何の曲だかわからなかったのだが、歌いだしたところでようやく「これかぁ」とわかった。日本公演で歌われる頻度が極めて高い、お馴染みの「サンライズ」だ。2017年の日本公演での「サンライズ」は、ライブ盤『ティル・ウィー・ミート・アゲイン』のボーナストラックで聴けるように観客が手拍子もできるあたたかな演奏だったが、今回のそれは、もっとなんというか引き締まっている。終わりの「ウ~ウ~ウ~ウ~」はテンポを少し落として繰り返した。続いての曲も「サンライズ」同様2ndアルバムからで、「ホワット・アム・アイ・トゥー・ユー」。ブライアン・ブレイドのドラムから生まれるグルーブは、やはり原曲とはだいぶ異なる感覚をもたらした。ここでクリス・モリッシーがウッドベースに替え、ダン・アイードが一旦はけたトリオ編成で「イッツ・ア・ワンダフル・タイム・フォー・ラブ」を演奏。『デイ・プレイクス』収録の1曲だ。この曲が顕著だが、このあたりまでの前半は、とりわけジャズの色合いがアンサンブルに濃く表れていたように思う。ジャズ的なスリルがあるというか。ブライアン・ブレイドとクリス・モリッシーのリズムは、現代の所謂新世代ジャズ的と言えなくもない。が、ノラのピアノはそれとはまた少し違う感触で、漠然とした言い方で申し訳ないが、やはりそれは、ほかにはない“ノラ・ジョーンズのジャズ”であるなと感じた。
その曲のあと、ノラはピアノからエレクトリックギターに替えて、2ndアルバム収録のトム・ウェイツのカヴァー「ロング・ウェイ・ホーム」を。カントリー調のこの曲で、ダン・アイードのペダル・スティール・ギターが最高に活きていた。もう1曲、ギターを弾いて歌ったのは「オール・ア・ドリーム」。オルタナティブロック色の濃かった5thアルバム『リトル・ブロークン・ハーツ』からの1曲だ。ピアノに戻って続けた9曲目は「4ブロークン・ハーツ」で、これも同じく5thアルバムからの曲。2017年の武道館でも同アルバムからの幽玄な表現は際立ってユニークだったが、今回またこれらの曲をセットリストに入れたことは、あのアルバムの世界観をノラが今でも気に入っていることの証左だろう。
続いて演奏された曲に、自分としては最も驚いた。4 thアルバム『ザ・フォール』収録の「ヤング・ブラッド」だ。一時ノラの恋人でもあった小説家マイク・マーティンとの共作によるロック味のある曲だが、ある時期以降、この曲はほとんどライブで歌われていなかったはずだからだ。ジャズの色合いの濃いアンサンブルと先に書いたが、そのような現在のノラ表現のなかにこの曲が組み込まれるというのはかなり冒険的でもあり、まったく予想のできないことだった。もちろんアレンジは大きく変わっていたとはいえ、そんな大胆さがまたノラの面白いところである。さて、ここでメンバー3人がステージをはけて、次にデビュー盤からの「ペインター・ソング」をピアノ弾き語りにて。シンプル、されど味わい深し。
ここでノラはスペシャル・ゲストとして、オープニング・アクトを務めたロドリゴ・アマランテをステージに呼び込んだ。ロドリゴとハグするノラ。曲は2019年リリースのふたりのデュエット「フォーリング」だ。1番ではノラの歌をロドリゴの歌が追いかけ、2番ではロドリゴの歌をノラの歌が追いかける構成の、優しくて可愛くてあたたかな曲。この日のハイライトと言っていいくらいにそれは素晴らしく、できれば1曲と言わず、もう1曲のデュエット曲「アイ・フォーガット」も歌ってほしかった。そして13曲目は『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』から「アイム・アライブ」。14曲目も同作から「フレイム・ツイン」。背景の照明が孔雀の羽のように美しかった。
続いて、イントロのピアノが軽やかに弾むように大きくアレンジされた「カム・アウェイ・ウィズ・ミー」。デビュー作でノラに魅了されたファンは今でもやはり多く、だからノラが歌いだしたタイミングで大きな拍手が起きた。だがそれ以上に拍手が大きく、「待ってました」といった意味合いの声援も飛んだのは本編最後の曲。そう、「ドント・ノー・ホワイ」だ。アレンジが大きく変えられた曲はほかにもいろいろあったが、とりわけ聴きなれたこの曲のそれは大胆で、驚かされたし、実に新鮮な感触があった。なんとノラはいきなりサビからア・カペラっぽく歌い始め、そこからAメロに戻って再スタートするというあり方だったのだ。ピアノは優しく弾み、歌はいつもよりもタメが効いていた。絶品だった。「ありがとう。サンキュー」とノラが言い、ステージ上の4人は横並びでお辞儀。拍手はもちろん鳴りやむはずがない。それに応えて、再び4人がステージに。アンコールで演奏されたのは、これまたデビューアルバムからの「ナイチンゲール」だった。意外と言えば意外なアンコール選曲だが、これが本当に素晴らしく、自分の席の近くの女性はハンカチで涙を拭っていた。自分もなぜだかわからないが泣いていた。演奏が終わると、スタンディングオベーションが起こった。ここに集まった9,500人のファンが同じ気持ちで立って4人に熱い拍手を送っている。そう思った。
このようにセットリストはこれまでの作品から満遍なく選ばれて組まれていたわけだが、わけてもデビュー作からは4曲も演奏され、『ノラ・ジョーンズ(COME AWAY WITH ME)』から20周年であることを思い出させた。が、それらの曲もほかのどの曲も、そこで演奏されたのは現バンドとの進化系であり、これがノラ・ジョーンズの現在地であるということを強く印象付けた。懐メロなんかにするはずがなく、ノラはこうして全ての曲に現在の生命力を与えている。因みに今回のツアーは公演ごとにセットリストが多少変わっているので、このあとの武道館と大阪公演でどの曲がどう生きるのか、それも楽しみだ。
素晴らしいレポート…見たかったな。