ダルビッシュの公開記者会見からしばらく経ちました。メディアとファイターズファン向けの会見ではありますが、MLBに移籍する以上、アメリカからの視点ではどう捉えられるか、というのもポイントにはなります。
そんな中、在米ジャーナリストの冷泉彰彦氏によるコラムが出てきました。
■ 第557回 「ダルビッシュ投手の二つの記者会見、私的感想」(from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦・Japan Mail Media・2012年1月28日)
冷泉氏は以前にもダルビッシュに関するコラムを書いています(こちら)ので、併せて読まれると理解が早くなるかも知れません。
で、コラムの内容は当然ダルビッシュをテーマとするものですが、特に前半部分はダルビッシュを通じて見える日本プロ野球の問題点に対する批判になっています。私が気になったのはむしろその部分です。
簡単にまとめますと、以下の通りになるでしょうか。氏の意図を誤解していなければいいのですが。
・ 本当に優秀な人間が日本プロ野球でモチベーションを持てなくなっているのが事実なら深刻。その本質を指摘したダルビッシュ投手に対し一切反論がないのは情けない。
・ 仮にダルビッシュが残留したとしたら年俸を球団は払えないし、代わりにポスティング料が入る現状も寂しい。
・ 日本の野球の場合は、勝ち過ぎて面白くないから監督がクビになるとか、その監督がクビが確定してからチームを優勝させても相変わらずクビは既定路線だとか、FAだとカネが入らないからポスティングで選手を「売ろう」とか、所詮は全国区球団の資金力には負けるとか、全くおかしな現状が多すぎるわけです。
・ リーグ優勝、クライマックスシリーズ、日本シリーズの権威が曖昧になってきており、何もかもが「つまらない」印象を与える
まず、大筋で言えば、氏の批判は当たっている点が多いと思います。とくに最初の批判、つまり反論がなかったという点については私も同様の歯がゆさを感じています。
付け加えるなら、ダルビッシュの批判に対して、他の選手の反応をメディアがどの程度集めようとしたかも疑問なわけで、そうなれば肝心なところでのメディアの体たらくも批判されるべきでしょう。
とはいえ、これらの批判に全面的に同調できるかというと、そうはできないのが正直なところです。
その理由は簡単で、(少なくとも短期的には)どうしようもないのが分かってしまっているからです。
上記の批判が正しいとして、次に考えるべきは、批判されるような問題の原因は何か、そしてどうすればその原因を取り除けるか、あるいは少なくとも緩和できるかです。
ですが、主な原因ははっきりしています。カネが足りないことです。
ダルビッシュのような投手に本気を出させたいとして、今の日本プロ野球の打者では誰一人無理でしょう。ああも言われて言い返せない打者が使えるとはとても思えません。
とすれば、ダルビッシュに互角に渡り合える打者を探してこなければなりません。現実には、現役のMLBスタメンクラスを連れてくることになるでしょう。
しかし、誰がどうやって費用を負担するのか?わざわざ日本に来てもらう以上、現状以上の待遇を示さなければならないわけで、下手をすれば広島の選手を全員クビにしても足りない可能性だってあります。
何より、冷泉氏ご自身が第2の批判で指摘しているように、ダルビッシュの年俸を払うことすら難しいというのが日本プロ野球の現実なのです。
以前大社オーナーが「10億までなら払える」と言っていたように記憶していますが、これは裏を返せば、「10億を超えると無理」ということです。
となれば、ダルビッシュクラスの選手には歯が立たない、表立って批判されてもぐうの音も出ないレベルの打者で満足するしかないのです。
こう書くとかなり挑発的に思われるかも知れませんが、ある意味では実際挑発しています。ここまで一ファンに言われたくなかったら、プレーで黙らせろと(笑)
さておき、日本プロ野球にはカネがないという現実があります。その現実は短期的には変わらないでしょうし、変わったとしても、MLBに肩を並べるレベルにまではならないでしょう。
もっとも、MLBが何らかの理由で破綻かその寸前にまで追い込まれれば話は別ですが、そんな事態は野球好きとして想像したくはありませんし、そもそも可能性は極めて小さいはずです。
そうである以上、日本プロ野球について考えるには、MLBとの年俸格差、そしてその背景にある資金力の格差を前提とせざるを得ません。そして、前提が変わらない限り変えられない現実は、受け入れるしかないのです。
第3の批判に対する私の感想も、この前提から導き出されます。
「勝ち過ぎて面白くないから監督がクビ」云々というのは、中日落合前監督の件を指しているのでしょう。事実とはちょっとズレている感じですが、本質的な問題ではないのでパスします。
私もこの件で中日球団を擁護したいとは思いません。ただ一方で、強かろうがどうだろうが売り上げが減るのは困ると球団が考えるのも分かります。
もちろん、営業にも努力の余地はあるでしょうが。とはいえ、MLBのような潤沢な資金も、利益再分配のメカニズムもないなかで、自前で資金を確保しなければならない現実も考慮しなければなりません。
とすると、FAだとカネが入らないからポスティングで選手を「売ろう」と球団が考えたとしても、合理的選択として受け入れざるを得ません。むしろ問題はポスティング制度の方にあると考えるべきです。
全国区球団とそれ以外の球団との資金力格差については若干話が変わってきますが、MLB対日本を巨人(あっ、言っちゃった)対他球団と置き換えれば、本質が一緒であることは理解できるでしょう。
もっとも、格差と言ったところで初戦は日本国内でのものですし、巨人だってMLBに渡り合えるレベルではありません。また、資金力「だけ」で優勝チームが決まるほど、日本プロ野球は甘くはないわけですが……
ともあれ、日米間で資金力に格差があること、そもそも日本の球団のほとんどが資金の確保に苦労していることを考えれば、冷泉氏の批判の多くに納得するとしても、でもどうしようもない、と判断せざるを得ないのです。
その上でどうするか?ダルビッシュのように環境を変えるのも手です。さまざまな問題から自由になれる環境を日本の外に求められるならば、それを求めることは自然な選択です。
ですが、われわれファンはどうでしょう?同じように環境を変えられるでしょうか?そもそも、みんながみんな環境を変えるべきでしょうか?
確かに、日本プロ野球はつまらないからMLBを見る、というのは1つの選択です。ただ、日本でできることと言えばテレビ観戦ぐらいです。さらに時差を考えれば、録画中継や生中継の録画を後で見るぐらいが普通でしょう。
中には、MLBの生中継を見るために深夜の仕事を選んだり、いっそアメリカに移住する人がいても不思議はありません。ですが、それは誰もができることではないのです。
何より、テレビ観戦では物足りない、やはり野球場で野球を見たいと思う人だっています。そういう人からすれば、レベル云々は二の次、あるいはそもそも考慮の範囲外かも知れません。
であるならば、日本のプロ野球球団は、そういう人たちのために存在すればいいのです。もちろん様々な問題はありますが、それを現実として受け入れて、可能な範囲で球団を運営することが悪いとは思えません。
あるいは、そうやって球団を運営し続ける中で、アメリカとは異なる環境にある日本だからこその、成功する球団経営の在り方、というものも出てくるかも知れないとは思ったりもします。
繰り返しになりますが、日本プロ野球には多くの問題があります。理想とは程遠い状況です。ただし、その問題のかなりの部分は、原因が取り除かれないか緩和されない限り、解決のしようがないのです。
ここで、理想を求めて環境を変えられる人は、変えればいいでしょう。ですが一方で、このような現実をすべて認めた上で、その上で今の環境の中でできることを成し遂げていくという選択肢もあるのです。
あるいは、その選択肢しか選べない人の方が多い、と言った方がいいのかも知れませんが、ともあれ理想を追うだけがすべてではない、とは述べておきたいと思います。
そうそう、第4の批判についてです。これはかなり話が違ってくるので、分けて扱いましょう。
リーグ優勝・CS・日本シリーズの権威は確かにあいまいな部分が大きいです。とはいえ、だからといって「つまらない」とまでは思わない、というのが私の感想です。
セはファイナル(第2)ステージで同じ組み合わせが続いたので、一昨年まではマンネリ感が強かったでしょうが、パに関してはプレーオフ時代から感動的なシーンは多かったわけです。
ファイターズ絡みでは、2007年の第5戦、2009年のいわゆる「福盛の21球」や最後のノムさん胴上げ、そして
2006年の優勝決定シーンが挙げられるでしょう。
何より、一昨年までのホークスを見ていれば「負けてサバサバしている」という感想は出てこないはずです。
マウンドで崩れ落ち、ズレータとカブレラに抱えられて帰った斎藤和巳が、はたしてサバサバしていたでしょうか?優勝した昨年にしても、松中のあの喜び方を見れば、ポストシーズンの重みは伝わるはずです。
この辺は、実際に見てみないと分からない部分が大きいのでしょう。ただ裏を返せば、私もMLBをろくに見ていないわけで、分かっていない部分は大きいでしょうが……
そんな中、在米ジャーナリストの冷泉彰彦氏によるコラムが出てきました。
■ 第557回 「ダルビッシュ投手の二つの記者会見、私的感想」(from 911/USAレポート / 冷泉 彰彦・Japan Mail Media・2012年1月28日)
冷泉氏は以前にもダルビッシュに関するコラムを書いています(こちら)ので、併せて読まれると理解が早くなるかも知れません。
で、コラムの内容は当然ダルビッシュをテーマとするものですが、特に前半部分はダルビッシュを通じて見える日本プロ野球の問題点に対する批判になっています。私が気になったのはむしろその部分です。
簡単にまとめますと、以下の通りになるでしょうか。氏の意図を誤解していなければいいのですが。
・ 本当に優秀な人間が日本プロ野球でモチベーションを持てなくなっているのが事実なら深刻。その本質を指摘したダルビッシュ投手に対し一切反論がないのは情けない。
・ 仮にダルビッシュが残留したとしたら年俸を球団は払えないし、代わりにポスティング料が入る現状も寂しい。
・ 日本の野球の場合は、勝ち過ぎて面白くないから監督がクビになるとか、その監督がクビが確定してからチームを優勝させても相変わらずクビは既定路線だとか、FAだとカネが入らないからポスティングで選手を「売ろう」とか、所詮は全国区球団の資金力には負けるとか、全くおかしな現状が多すぎるわけです。
・ リーグ優勝、クライマックスシリーズ、日本シリーズの権威が曖昧になってきており、何もかもが「つまらない」印象を与える
まず、大筋で言えば、氏の批判は当たっている点が多いと思います。とくに最初の批判、つまり反論がなかったという点については私も同様の歯がゆさを感じています。
付け加えるなら、ダルビッシュの批判に対して、他の選手の反応をメディアがどの程度集めようとしたかも疑問なわけで、そうなれば肝心なところでのメディアの体たらくも批判されるべきでしょう。
とはいえ、これらの批判に全面的に同調できるかというと、そうはできないのが正直なところです。
その理由は簡単で、(少なくとも短期的には)どうしようもないのが分かってしまっているからです。
上記の批判が正しいとして、次に考えるべきは、批判されるような問題の原因は何か、そしてどうすればその原因を取り除けるか、あるいは少なくとも緩和できるかです。
ですが、主な原因ははっきりしています。カネが足りないことです。
ダルビッシュのような投手に本気を出させたいとして、今の日本プロ野球の打者では誰一人無理でしょう。ああも言われて言い返せない打者が使えるとはとても思えません。
とすれば、ダルビッシュに互角に渡り合える打者を探してこなければなりません。現実には、現役のMLBスタメンクラスを連れてくることになるでしょう。
しかし、誰がどうやって費用を負担するのか?わざわざ日本に来てもらう以上、現状以上の待遇を示さなければならないわけで、下手をすれば広島の選手を全員クビにしても足りない可能性だってあります。
何より、冷泉氏ご自身が第2の批判で指摘しているように、ダルビッシュの年俸を払うことすら難しいというのが日本プロ野球の現実なのです。
以前大社オーナーが「10億までなら払える」と言っていたように記憶していますが、これは裏を返せば、「10億を超えると無理」ということです。
となれば、ダルビッシュクラスの選手には歯が立たない、表立って批判されてもぐうの音も出ないレベルの打者で満足するしかないのです。
こう書くとかなり挑発的に思われるかも知れませんが、ある意味では実際挑発しています。ここまで一ファンに言われたくなかったら、プレーで黙らせろと(笑)
さておき、日本プロ野球にはカネがないという現実があります。その現実は短期的には変わらないでしょうし、変わったとしても、MLBに肩を並べるレベルにまではならないでしょう。
もっとも、MLBが何らかの理由で破綻かその寸前にまで追い込まれれば話は別ですが、そんな事態は野球好きとして想像したくはありませんし、そもそも可能性は極めて小さいはずです。
そうである以上、日本プロ野球について考えるには、MLBとの年俸格差、そしてその背景にある資金力の格差を前提とせざるを得ません。そして、前提が変わらない限り変えられない現実は、受け入れるしかないのです。
第3の批判に対する私の感想も、この前提から導き出されます。
「勝ち過ぎて面白くないから監督がクビ」云々というのは、中日落合前監督の件を指しているのでしょう。事実とはちょっとズレている感じですが、本質的な問題ではないのでパスします。
私もこの件で中日球団を擁護したいとは思いません。ただ一方で、強かろうがどうだろうが売り上げが減るのは困ると球団が考えるのも分かります。
もちろん、営業にも努力の余地はあるでしょうが。とはいえ、MLBのような潤沢な資金も、利益再分配のメカニズムもないなかで、自前で資金を確保しなければならない現実も考慮しなければなりません。
とすると、FAだとカネが入らないからポスティングで選手を「売ろう」と球団が考えたとしても、合理的選択として受け入れざるを得ません。むしろ問題はポスティング制度の方にあると考えるべきです。
全国区球団とそれ以外の球団との資金力格差については若干話が変わってきますが、MLB対日本を巨人(あっ、言っちゃった)対他球団と置き換えれば、本質が一緒であることは理解できるでしょう。
もっとも、格差と言ったところで初戦は日本国内でのものですし、巨人だってMLBに渡り合えるレベルではありません。また、資金力「だけ」で優勝チームが決まるほど、日本プロ野球は甘くはないわけですが……
ともあれ、日米間で資金力に格差があること、そもそも日本の球団のほとんどが資金の確保に苦労していることを考えれば、冷泉氏の批判の多くに納得するとしても、でもどうしようもない、と判断せざるを得ないのです。
その上でどうするか?ダルビッシュのように環境を変えるのも手です。さまざまな問題から自由になれる環境を日本の外に求められるならば、それを求めることは自然な選択です。
ですが、われわれファンはどうでしょう?同じように環境を変えられるでしょうか?そもそも、みんながみんな環境を変えるべきでしょうか?
確かに、日本プロ野球はつまらないからMLBを見る、というのは1つの選択です。ただ、日本でできることと言えばテレビ観戦ぐらいです。さらに時差を考えれば、録画中継や生中継の録画を後で見るぐらいが普通でしょう。
中には、MLBの生中継を見るために深夜の仕事を選んだり、いっそアメリカに移住する人がいても不思議はありません。ですが、それは誰もができることではないのです。
何より、テレビ観戦では物足りない、やはり野球場で野球を見たいと思う人だっています。そういう人からすれば、レベル云々は二の次、あるいはそもそも考慮の範囲外かも知れません。
であるならば、日本のプロ野球球団は、そういう人たちのために存在すればいいのです。もちろん様々な問題はありますが、それを現実として受け入れて、可能な範囲で球団を運営することが悪いとは思えません。
あるいは、そうやって球団を運営し続ける中で、アメリカとは異なる環境にある日本だからこその、成功する球団経営の在り方、というものも出てくるかも知れないとは思ったりもします。
繰り返しになりますが、日本プロ野球には多くの問題があります。理想とは程遠い状況です。ただし、その問題のかなりの部分は、原因が取り除かれないか緩和されない限り、解決のしようがないのです。
ここで、理想を求めて環境を変えられる人は、変えればいいでしょう。ですが一方で、このような現実をすべて認めた上で、その上で今の環境の中でできることを成し遂げていくという選択肢もあるのです。
あるいは、その選択肢しか選べない人の方が多い、と言った方がいいのかも知れませんが、ともあれ理想を追うだけがすべてではない、とは述べておきたいと思います。
そうそう、第4の批判についてです。これはかなり話が違ってくるので、分けて扱いましょう。
リーグ優勝・CS・日本シリーズの権威は確かにあいまいな部分が大きいです。とはいえ、だからといって「つまらない」とまでは思わない、というのが私の感想です。
セはファイナル(第2)ステージで同じ組み合わせが続いたので、一昨年まではマンネリ感が強かったでしょうが、パに関してはプレーオフ時代から感動的なシーンは多かったわけです。
ファイターズ絡みでは、2007年の第5戦、2009年のいわゆる「福盛の21球」や最後のノムさん胴上げ、そして
2006年の優勝決定シーンが挙げられるでしょう。
何より、一昨年までのホークスを見ていれば「負けてサバサバしている」という感想は出てこないはずです。
マウンドで崩れ落ち、ズレータとカブレラに抱えられて帰った斎藤和巳が、はたしてサバサバしていたでしょうか?優勝した昨年にしても、松中のあの喜び方を見れば、ポストシーズンの重みは伝わるはずです。
この辺は、実際に見てみないと分からない部分が大きいのでしょう。ただ裏を返せば、私もMLBをろくに見ていないわけで、分かっていない部分は大きいでしょうが……