〔2011夏 東北・北関東の旅〕プロローグ

　旅のきっかけは4月に遡る。まずは、岡山にある旧同和鉱業片上鉄道吉ケ原駅で行われている展示運転に、友人夫妻と妻ともに出掛けたときのことだ。
　吉ケ原駅では、旧片上鉄道のさまざまなグッズが売られていた。そんな中、鉄道員の帽子をかぶったウサギのぬいぐるみを見掛けた。これは山形鉄道・宮内駅の駅長「もっちぃ」のグッズなのだという。



　ウサギが駅長？しかし、最近は猫をはじめ動物駅長が人気である。この吉ケ原駅自体、駅長は猫の「コトラ」だ。



　吉ケ原は廃線の駅なので例外としても、ローカル私鉄はどこも経営に苦しんでいる。集客の目玉となるものがあれば、猫の手だろうがウサギの足だろうが、ザリガニの足だって借りるのである。
　ともあれ、当時の私にとって山形鉄道は未乗。そもそも、山形県自体が寝台列車で通過しただけで、足を下したことがなかった。なら、近いうちに乗ってみるのも悪くない―
　ウサギのぬいぐるみに目がハートマークの妻を横に、私はそんなことを考えていたのだった。
　そんな私をさらに後押ししたのが、1篇のPDFだった。

■　がんばろう！東北　ローカル線 ご乗車・ご支援感謝キャンペーン

　東日本大震災で被災地の鉄道各線が深刻な打撃を受けたことは当然ながら分かっていたが、運行を再開できた鉄道各線も影響を受けていたことをあらためて知らされた。
　もともと8月の休みには18きっぷの旅をもくろんでいた私である。こうなれば迷うことはない。今年の旅は東北だ。そしてJRのローカル線はもとより、ローカル私鉄を乗り回るのだ。かくして旅のテーマは決まった。
　その後、8月が近づくにつれ、さらにさまざまな情報が入ってきた。
　まず、福島県の会津鉄道・芦ノ牧温泉駅には猫駅長「ばす」がいるということ。
　また、東北ではないが茨城県のひたちなか海浜鉄道が大震災の影響で全線不通となったこと。その後全線での運転再開が決まった時に、那珂湊駅に駅猫「おさむ」がいることも知った。
　となると、この2社の路線と山形鉄道はぜひ訪れたい。しかし、私にとって東北の多くの路線は未乗である。可能な限り多くの路線に乗らなければならない。
　もう1つ考えなければならないのが、駅長（駅猫）のスケジュールである。なにせ相手は生き物、勤務時間も限られる。うまく訪問時間を合わせなければ、せっかく行っても会えない可能性もあるのだ。
　事前に3社に問い合わせ、さらにさんざ悩んだ末、何とか旅程を組むことができた。
　行きたいすべての路線を網羅することはできないが、主要なポイントは押さえたし、乗りつぶせる区間を可能な限り長くできたつもりはある。あとは、大きなトラブルがないことを祈るだけだ。

　そして8月初頭、私は関西を発った。