何年か前の人間ドックでの出来事。
40才を超えると会社の方針で半強制的に人間ドックを受けなければならず、2割の自己負担で受けられるので、私も毎年受診していました。
その日はJA関係の女性の方々が、まとまって来ており、60名前後でかなり混み合っていたと記憶しています。私は、同僚2人と一緒に受診。
何といっても、胃カメラが人間ドックの山場となります。
あの海ヘビの怪物みたいな黒い管を、デリケートな食道に入れられる、みんなが嫌がるあれ。もともと男は異物を挿入される事に慣れていない?
私は、既に胃カメラに慣れており、声一つあげないし、よだれも全く垂らさない。直前になっても余裕のよっちゃん。うどんを飲み込むのと大差ない感覚でいける。
ところが一緒に行っていた同僚のMさんは、胃カメラが大の苦手。というより天敵に近い。
Mさん、待機している間も胃カメラの恐怖で落ち着きがない。
そしてついに、Mさんの順番が回って来た。
Mさんは、「よし!」と気合いを入れて立ち上がると、哀しい笑顔を私に見せ、診察室へと消えて行きました。
しばらくして、Mさんの胃カメラが開始。
すると、診察室の中から、
「オェッ!」、「プファー!」、「ウォッ!」と扉を突き抜ける物凄い声。声と言うより、叫びに近い様な大音量!!
待機している人達から、思わず笑いがもれる。
一人の人懐こいオバチャンが、私に話しかけて来た。
「あなたのお仲間でしょ…、大の男がだらしないねぇ。」
私もそれに同調し、
「根性が無くてすいません。あれでも剛柔流空手の黒帯なんですけどね…。」
その後も、
「オェッ!」、「プファー!」を繰り返すMさん。
周りは何故か、お仲間の私を見てる。
話しかけられてないのに、
「あの人、あれでも高校野球県大会の優勝ピッチャーなんですよ。」
「へぇ~」、「あら、やだ」とオバチャン達が、笑いながら食いついて来る。
聞かれてもいないのに、
「お父さん坊さんで、彼も仏教系の大学出てるんですけど、悟りとは無縁の男ですから…。」
サービス精神の導火線に火の着いた私は、無意識に次のネタを探していた。
それで頭に浮かんだのが、「酔っ払うと時々、人の頭にち○ち○乗せて、チョンマゲってやる人物です。」だったが、
さすがにそれは言わなかった。いや、言えなかった。
そうこうしている内も、止む事のない
「オェッ!」、「ウォッ!」
いや、むしろボリュームアップしてる。
いつの間にか、待機所の雰囲気は、「笑」いから「恐怖」に様変わりしていた。
オバチャンたちは、
「あんなに声をあげるなんておかしいわよ。」
「よっぽど下手な先生がやってるんじゃないの?」
「他の病院より太いカメラ?」
しまいには、
「胃カメラだけ検査から外してもらうわ。」
と1人が立ち上がると、3人が無言で続く。
予想しなかった展開に…。
私の胃カメラは、何の滞りもなく終えたのは言うまでもありません。
Mさんのそれも時間はかかりましたが、何とか無事?に終了しました。
但し、人間ドックが終了したその日の帰りしな、病院側からMさんに呼び出しがかかった。
一緒についていくと、「次回は胃カメラはやめにして、バリュウムにして下さい。」と釘を刺されていました。
どうも、Mさんの「オェ~ッ!」が原因で、胃カメラの当日キャンセルが相次ぎ、病院側は、その対応で大変だったらしいです。
Mさんの奇声の影響力、恐るべし!
あっ、そうそう、「プファー!」は、Mさん曰く、胃カメラが入れられず、抜き取る時に発した声だそうです。
人間ドックPart2に続く………。