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宵宮の闇が訪れると、各町内から引き出された神輿が勢揃いする。神輿はあやしくも美しく飾られて、それを担ぐ担ぎ手たちが群れ集まる。若い女の声も入りまじり、
「そいや、そいや」の掛け声も勇ましく、高く、低く、ある時は大きく傾き、神輿はハレの装いで町中を練り歩いてゆく。担ぎ手たちの連帯の意気込みに支えられて、神輿は重々しく、かつ、神々しく輝いて見える。
神輿はそれぞれに独自の顔をもっている。それはその町の歴史を現してもいるのである。狭い町並みを六基の神輿は互いに見えぬ糸でつながれているかのように、ほどよい間隔をたもちながら、ゆるゆると進んでゆく。
そんな中で、突然、神輿を取り囲む人の群れが、大きく揺らめいたかと思うと、野太い声が飛びかい、女の悲鳴がわきおこる。「喧嘩だ、喧嘩だ」の声。祭りに喧嘩はつきものとはいえ、その勢いは尋常ではない。明らかにその筋の男を思わせる倶利加羅紋々の竜とした体つきの男たちが、すさまじい勢いで渡り合いをはじめている。暗く狭い町筋は、突然、混乱し、人々は逃げ惑い、神輿も立ち往生する。
喧嘩の男たちの幾人かは、すでに血を浴びている。狂乱の眼はあやしく光り、全身は争いの闘志で満ちあふれている。こうなると、警備の警官の出る幕ではない。群衆にまぎれて右往左往するばかりで、何の力も発揮できないでいる。
やがて、喧嘩の双方は、暗い露地に人を避け、話し合いがはじまる。それが、私の目には、ひどく手慣れたやり方のように見えた。喧嘩という異常事態にもかかわらず、そこにはみえない秩序がつくられているかのようである。つまらぬことでの喧嘩といっ
てしまえばそれまでだが、それが彼らの男意気というものなのだろう。
宵宮に 意気わきあがる 神輿かな
遠い日の 祭り囃子を 今宵また
「そいや、そいや」の掛け声も勇ましく、高く、低く、ある時は大きく傾き、神輿はハレの装いで町中を練り歩いてゆく。担ぎ手たちの連帯の意気込みに支えられて、神輿は重々しく、かつ、神々しく輝いて見える。
神輿はそれぞれに独自の顔をもっている。それはその町の歴史を現してもいるのである。狭い町並みを六基の神輿は互いに見えぬ糸でつながれているかのように、ほどよい間隔をたもちながら、ゆるゆると進んでゆく。
そんな中で、突然、神輿を取り囲む人の群れが、大きく揺らめいたかと思うと、野太い声が飛びかい、女の悲鳴がわきおこる。「喧嘩だ、喧嘩だ」の声。祭りに喧嘩はつきものとはいえ、その勢いは尋常ではない。明らかにその筋の男を思わせる倶利加羅紋々の竜とした体つきの男たちが、すさまじい勢いで渡り合いをはじめている。暗く狭い町筋は、突然、混乱し、人々は逃げ惑い、神輿も立ち往生する。
喧嘩の男たちの幾人かは、すでに血を浴びている。狂乱の眼はあやしく光り、全身は争いの闘志で満ちあふれている。こうなると、警備の警官の出る幕ではない。群衆にまぎれて右往左往するばかりで、何の力も発揮できないでいる。
やがて、喧嘩の双方は、暗い露地に人を避け、話し合いがはじまる。それが、私の目には、ひどく手慣れたやり方のように見えた。喧嘩という異常事態にもかかわらず、そこにはみえない秩序がつくられているかのようである。つまらぬことでの喧嘩といっ
てしまえばそれまでだが、それが彼らの男意気というものなのだろう。
宵宮に 意気わきあがる 神輿かな
遠い日の 祭り囃子を 今宵また
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