鳩山民主の迷走ぶり、実は計算済みか
鳩山民主の迷走ぶり、実は計算済みか
2009年12月17日日経BP
普天間の米軍基地の問題で、民主党が非常に揺れていて、
行き先が分からないような状態になっている。
当初はいろいろ揺れながらも嘉手納案などが浮上したり
したが、結局は岡田克也外務大臣も北沢俊美防衛大臣も
移転先を辺野古として、年末までには決まるだろうと
言っていた。
しかし、社民党党首の福島瑞穂(みずほ)氏が、
もしも辺野古に決めることになるのならば「重大な決意
をせざるを得ない」、つまり三党連立から離脱すると
まで言った。
すると鳩山首相の発言も、普天間からの移設先は
辺野古しかないのか、と変わってきた。関西空港や
グアムへの移転まで出てきたほどだ。
ぐらぐらしているように見えるが実は「確信犯」?
このときは私も、鳩山さんもぐらぐらと揺れているなあ
と、思っていた。お坊ちゃんだから、自分では決断しない
ということかと。
今取りざたされている約9億円の政治と金の問題も、
国税庁の成り行きに任せてしまった。
そうしたことからも、鳩山さんは成り行きに任せて
いるのだと、思っていた。
ところが、だ。
実は成り行きではないのではないか。これは確信犯
ではないか。だんだん、それがわかってきた。
実は1996年の段階で、もちろん当時民主党は野党で
あったが、鳩山さんは記者会見で日米安保の見直しを
「常時駐留なき安保」と言っている。
同じ年に月刊文藝春秋には「2010年を期して、
日米安保の見直しを考える」と言っている。
鳩山民主の迷走ぶり、実は計算済みか
どうもこれは、本音ではないのか。
少なくとも1996年の段階では2010年は未来の話だ。
だが、2010年、つまり来年は岸信介首相(当時)がやった
日米安保改定から50周年を迎える。
鳩山さんは、この50周年を機に、日米関係を変えようと
しているのではないか。
日米関係は冷戦時代に作られたものであり、既に冷戦は
終った。ポスト冷戦にあっては変えなければならない──
これは鳩山さんの持論だ(先日、鳩山氏は、総理という
立場になってその考え方は封印せねばと語った)。
1996年の「常時駐留なき安保」発言。
日米安保改定から50年。
こうしたことが彼の中にあり、原点だとすれば、むしろ、
最近の言動は確信犯ではないか。
鳩山さんは、普天間問題について今年中に結論を出す
なんて考えていない。
そして来年、安保改定50周年を迎えるにあたり、
日米安保の全面見直しとまではいかないが、沖縄に
いる米軍の再編成を考えているのではないか。
実は普天間というのは、そのone of themに過ぎない。
あるいは普天間をきっかけに沖縄にいる米軍再編まで
手をつけたいと思っているのではないか。
鳩山さんは確信犯だ。私は今、そう考えている。
実は、この問題について何人もの民主党の大臣たちに、
どうなんだ、と聞いてみた。
皆、困惑しきっている。
民主党の大臣や議員たちは、皆、常識人だ。沖縄の
米軍再編など、常識では考えられない。アメリカは
大いに怒るだろうし、拒否するだろう。
自民党の面々も常識人だから、今、米軍再編成など
考えるはずがない。
鳩山さんにとって冷戦とは何か。ソ連を中心とした
東欧および中国は敵であり、そのとき、日本という
基地は東側諸国対策として重要であった。
しかし、冷戦が終わった今、「常時駐留なき安保」
だと考えているのだろう。
日本にある米軍基地の75%が沖縄だ。だから米軍
の再編は沖縄から。普天間はそのきっかけとなる。
そう考えているのではないか。
しかし、常識的に考えるとどうか。民主党の議員
たちや自民党の議員たちから見れば、とんでも
ないだろう。そんなことをアメリカがOKするはずがない。
現に鳩山さんが年内の決着はないと発言を変えてから
、鳩山-オバマ会談で「日米合意に基づいて閣僚級の
協議をやる」としていたのを、協議を始めたにも
かかわらず中断してしまった。オバマ大統領にとっては、
会談での「日米合意」とは辺野古だった。
鳩山さんは首脳会談でそうは言っていない、
と言うが、今行われているCOP15で日米首脳会談
をやりたいと日本から申し出ていたのをアメリカ
は拒否した。
日米関係はここに来て非常に不安定になってきており、
このままでは溝ができるのではないか。悪化するの
ではないか。常識人たちは、そう考えている。そして
、最も困っているのは岡田外相だろう。
北沢防衛相もそうだ。
民主党の大臣たちさえ、このところ「鳩山さんは
宇宙人だ」と口にするようになっている。あるいは、
大臣たちに普天間問題を聞くと「あれは私の大臣
としての範囲ではないので」と言う。皆、非常に
困りきっている。
鳩山さんは、ポスト冷戦のこのときに日米関係を
見直すという確信犯で、そのきっかけを普天間
としている。
しかも、来年になってもこの問題をじりじりと
先延ばしにする気ではないか。カート・キャンベル
国務次官補は「18日までに結論を出せ」と言っている。
しかし、結論は出ないだろう。出るとしても
「来年に先延ばし」だけだろう。
それどころか、もしかすると参院選のあとまで
持ち越すつもりではないか。
なぜなら、参院選で民主党が過半数を取れば、
社民党、国民新党との連立をやめることができる。
これは私の推測だが、国民新党の亀井静香さんは
民主党入りするのではないか。
もしそうなるとすれば、それは参院選前だろう。
彼は、副首相か幹事長を狙っているのではないか。
問題は、小沢一郎さんだ。日米関係が不安定になり、
アメリカが大変、怒っている。そんな時期にいったい
何をしているのか。
マイケル・グリーン氏(元大統領補佐官)や
リチャード・アーミテージ氏(元米国務副長官)
は来日時に非常に不信感を示した。
ただアメリカの出方を見守っているのか?
日米関係が非常に危ういとさえ見られている今、
およそ600人もの人を率いて中国へ行き、
胡錦濤国家主席と会うとは、小沢さんは
いったい何を考えているのだろうか。
日米関係が希薄になっている一方で日中関係を
強化しようという戦略ではないか、という見方
をする人も、実際にいる。
14日、中国から習近平国家副主席が来日した。
天皇と習近平副主席の会見を鳩山さん、あるいは
平野官房長官が宮内庁に申し入れたとされている。
宮内庁は二度、これを断わったにもかかわらず、
1カ月ルールを無視して強引に面談を取り決めた。
これは天皇の政治利用ではないか、という世論
が非常に強まっている。小沢さんは天皇を政治的
な道具として使おうとしているのではないか。
そういう声さえ出ている。
その小沢さんは、何を考えているのか。
中国とのパイプをより太くしよう、そう考えてもいるだろう。
だが、対米関係の中での日中、ということではない
と私は思う。彼は、そういう戦略を考える男ではない。
小沢さんは、普天間問題については沈黙を守っている。
ほとんど発言しない。発言するのは、間接的に「
三党連立は守りたい」というくらいだ。
これは。社民党の福島党首を大事にしたい
ということではないか。そういう声もある。
つまり小沢さんは日米関係よりも社民党、国民新党
との連立関係を大事にしたいのでは、というわけだ。
だが私は、本音の本音で言えば小沢さんは、
ただアメリカの出方を見守っているのだと思っている。
うまく行かなければ「鳩山切り」も?
鳩山さんが普天間をきっかけに、沖縄の米軍の
再編を考えている。それがうまく行くなら、それでもいい。
だが、うまく行かなくなって危機的状況を招いたら、
小沢さんは鳩山さんを切るだろう。
現にポスト鳩山といわれる人たちの名前が、
記者たちの間で、このところ浮上しているのだ。
ポスト鳩山、として菅直人さんの名は当初から挙がっていた。
ここへ来て、あと二人の名前が浮かび上がってきている。
あえてその名を言おう。
一人は、亀井静香氏。
もう一人は、原口一博氏だ。
どうやら二人とも、半分以上、その気になっているようだ。
私は、これも小沢さんの戦略ではないかと思うのだ。
三者を競わせる。そして小沢さんの言うことを一番、
聞きそうな人物を選ぶのではないか。
何にしても、一番、この問題で困っているのが
岡田外務大臣だ。北沢防衛大臣や他の民主党の大臣たちも同様だ。
しかし当の鳩山さんは、まっしぐらだ。宇宙人だから。
そして小沢さんは、非常に現実的で、迷っていない。
うまくいくならそのまま。うまくいかなければ切る。
小沢さんはこのように考えているのではないか。
裏を返せば鳩山応援団?
ところで、戦後の日米交渉では、ほとんど例外なく
日本側が妥協して決まっている。
鳩山さんは、安保改定50周年の年に初めて、アメリカ側に
妥協させようと狙っているのではないか。
福島氏の強硬な姿勢。さらには民主党政権が米軍を
県外に出すと言ったにもかかわらず県内に話しを
戻したことを沖縄県民が許さないという強い姿勢。
常識的に見ればこれらは鳩山さんには問題で、一見、
困っているようにも見えるが、実は違う。
鳩山さんには貴重な応援団だ。
福島さんや沖縄県民の声を武器にしてアメリカ
との交渉をし、アメリカに妥協させるための力強い応援だと、
鳩山さんは捉えているのではないか。
つまり、鳩山さんの言動は、ことごとく常識から
かけ離れている。ギャップがある。
皮肉を込めて言うが、そうとでも考えないと、今の
鳩山さんの言動は理解できないのだ/
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
鳩山民主の迷走ぶり、実は計算済みか