何かの前触れ?
竜宮の使い、日本海沿岸に漂着のナゾ
蛇のように細長い胴、頭から伸びる赤いひれ。その神秘的な姿を人前に現すことはほとんどない深海魚「リュウグウノツカイ(竜宮の使い)」が、昨年末から日本海側を中心に相次いで見つかっている。名前通り、言い伝えは多いが生態はほとんど分かっておらず、専門家も「なぜ今年は多いのか」と首をかしげている。
国立科学博物館によると、リュウグウノツカイは硬骨魚類に分類され、外洋の深さ約200メートルから1000メートルに生息。体長は5メートル前後が多いが、10メートル以上の記録も。エビなどの小型甲殻類が主食という。
泳ぐときに波打つ長い背びれから人魚のモデルとする説もあるが、遠浅の海岸にはめったに現れないため、詳しい生態は不明だ。
しかし、この冬は日本海沿岸で網に掛かったり、漂着するケースが相次いでいる。
富山県では昨年12月、黒部市の海岸に1匹が漂着。今年に入ってからも高岡市と入善町の沖合で定置網に1匹ずつ掛かった。石川県では、能登半島の千里浜海岸などに1-2月に少なくとも4匹が漂着。京都府宮津市では年末年始の2カ月間で定置網に10匹が掛かったほか、岩手、兵庫、島根、山口、長崎の各県でも見つかった。
京大舞鶴水産実験所の甲斐嘉晃助教(魚類体系学)は「売れる魚ではなく、網に掛かっても漁師が海に放すことが、これまでもあった。しかし今年ほどたくさん揚がるのは、聞いたことがない」と話す。
甲斐助教によると、泳ぐ力が弱いため、風の強い冬季は海が荒れた後に海岸に漂着するとみられる。ただ今回は天候と関係なく見つかっており、風だけの影響とは考えにくいという。
リュウグウノツカイ漂着は地震の前触れという言い伝えもある。地震の予兆現象を調べているNPO法人「大気イオン地震予測研究会」の弘原海清理事長(環境地震学)は「一般的に海底近くの深海魚は、海面付近の魚より活断層の動きに敏感」と話す。
だが、ほかに地震の前兆とみられる現象は報告されておらず、リュウグウノツカイも広範囲で見つかっているため、弘原海さんは「今のところ地震に直結するとは言えない」と懐疑的だ。
一方、ある水族館の職員は「今まで知られていなかっただけで、マスコミが取り上げるようになって報告が増えたのでは」と推測する。“大漁”の謎は解明されていないが、国内の標本は格段に増加。甲斐助教は「理由はよく分からないが、生態を調べるにはよい機会」と歓迎している。